ようやく、『占星術殺人事件』(島田荘司)を読みました。
以前に同作者の同系シリーズにあたる短編集『御手洗潔の挨拶』を酷評したので、おっかなびっくりだったのですが、いやこれは、なかなか面白かったです。
占星術に深く影響された殺人計画、グロテスクな猟奇殺人とその目的、40年というスケール感、これらがうまく噛み合わさって読者をいざなう玄妙な世界観は見事の一言。根幹となるトリックは、後に色々な形で流用される事になる物のはしりだと言う事なのですが、いや確かに、これは凄い。最終的にはそのトリックだけでも唸らされるのですが、それとネタの噛み合い方も良くできております。
6人の処女を殺害し、その死体から一つのアゾートを作成する――。狂気の芸術家の手により残された手記、そして、実際に起こった凄惨な猟奇殺人。昭和十一年に発生し、迷宮入りしたその不可能犯罪は、占星術が絡んだと思われる神秘性と、残された幾つもの謎から話題を呼び、40年間に渡って日本中で様々な推理の的となってきた。しかし、真相に辿り着いた者は未だにいない。
昭和五十四年、ふとしたきっかけから、その事件に関わる手記を手に入れた御手洗潔と石岡(私)は、この謎に挑む事になるのだが――
後うまいのは、トリックは古びる、という推理小説の根本的な弱点を、昭和11年の事件−昭和54年の解決という物語内部の二重構造を用いる事で逆手に取っている事ですね(と、私は感じた)。
人気のあるらしい人物造型に関してはあまり魅力を感じないのですが、これはまあ多分、短編読んだ時に感じたのですが、作者と私の趣味の違いというかなんというかが根本的な所にあるようで。
少々グロテスクな部分もありますのでそういうの苦手な方はあれですが、推理小説好きならば、読んでおいて損は無い作品かと。……というかまあ、日本の新本格のはしりというかスタンダードみたいなので、今更、私が言う事も無いような作品ではあるのですが。
これでちょっと、同作者の他の作品も読みたくなってきましたが、どうかなぁ……後の長編は今ひとつ、あらすじ読んでもときめかないんですよね。
私、ミステリとSFは、ある意味中身よりも、あらすじ読んでときめけるかだと思っているので。その内まあ、うまい事機会があれば、もう一つか二つは読んでみたいと思います。……その前にでも、綾辻行人の続きか(笑)