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影武者徳川家康

影武者徳川家康(上) (新潮文庫)

影武者徳川家康(上) (新潮文庫)

 影武者徳川家康(中) (新潮文庫) 影武者徳川家康(下) (新潮文庫)

家康、死す――! 天下分け目の関ヶ原の戦いを目前にして、暗殺されてしまった徳川家康。もし家康の死が公になれば、徳川の勝ちは無い。家康の影武者として長年使えてきた世良田二郎三郎元信は、咄嗟に、家康になりすます事を決意する。影武者ではない、本物の家康に。
そして関ヶ原にて西軍を打ち破った二郎三郎だったが、徳川家の存在を盤石とする為には徳川家康という存在はまだまだ必要だった。自分自身が生き延びる為にも、家康であり続ける事を選んだ二郎三郎は、彼を傀儡に仕立てようとする徳川秀忠らとの暗闘を繰り広げながら、再び時代を戦乱へと戻さないように、戦い続けていく事になる――
家康が関ヶ原の寸前で死んでいた、という大胆な仮説を元に、家康になりかわった影武者の戦いを描いた歴史小説。大きな二つの特徴は、家康暗殺はあくまで作者の歴史的考証の末の“仮説”でありこの物語そのものが、表にならなかった歴史の裏側として描かれている事で、凡百の歴史改変ものとは一線を画している事。また、家康になりかわったとはいえ、あくまでも一人の「いくさ人」世良田二郎三郎の物語である事。
読んだのは多分、中学生ぐらいの頃だと思うので、正直もう記憶ははっきり無いのですが、抜群に面白い小説である事は断言して請け合います。
関ヶ原から大阪の陣を経て徳川の世に至るまでの歴史小説としても読み応え十分な所に、忍者も柳生も色々ありで、エンターテイメント性のブレンド具合も絶妙。徳川秀忠の描き方なんかは他に類を見ないと思うのですが、孝行息子を演じながら裏で毒牙を研ぐ、という辺りが非常に巧く描かれています。後は、本田忠信とかが目立つ辺りがまた素敵。
後に脚本:曾川昇、作画:原哲夫でコミック化され少年ジャンプで連載していたので、タイトルなど聞き覚えのある方も居るかもしれませんが、とりあえず、あのマンガの事は忘れて下さい(笑)
作者の隆慶一郎は、もともと脚本家。師匠である「小林秀雄先生が死ぬまでは怖くて小説が書けなかった」という言葉通り、60を過ぎてから小説を書き始め、作家生活5年ほどで死去。その為に遺っている作品はそれほど多くないのですが、非常に質の高い作品を書き、早すぎた死の惜しまれた作家です。
作風としては、チャンバラ時代小説と、伝奇歴史小説歴史小説の中間、という感じのもの。伝奇とつけるほど吹っ飛んではいないけれど、微妙に虚飾やあったかもしれない歴史の暗部を混ぜ込みつつ描かれる歴史物語、で多く傑作を残しています。しっかりとした考証を前提にして多少のフィクションを交えたエンターテイメント性の高い歴史小説、とでもいいましょうか。いわゆる「山人」と呼ばれる日本古来の漂泊の民の存在を作中の大きなファクターとして用いる事が多いのも、特徴。
歴史小説を読みあさっていた若い頃に出会った大好きな作家さんでして、本当に作品数が少ないのが惜しい(まあ、存命でも本当に寡作な作家に比べれば書いてますし比較的出版状況にも恵まれているのが幸いですが)。
私の中では、歴史・時代小説の作家といえば、吉川英治隆慶一郎司馬遼太郎、となります。
なお、作者及び作品について興味を持たれた方は、詳しくはこちらのページをご参照下さい。
〔隆慶一郎ワールド〕