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ちょっと前に読んだ本

「ABC」殺人事件 (講談社文庫)

「ABC」殺人事件 (講談社文庫)

……アマゾンの書影は、どうしてたまに帯かけたままで写すのだろうか? はさておき、アガサ・クリスティの名作『ABC殺人事件』をモチーフにした、書き下ろし共作アンソロジー(と言ってもこれは背表紙に書かれていたあおりで、本当にこういう企画として作家に持ち込んだのかどうかは、若干、疑問符がつく)、参加作家は、有栖川有栖恩田陸加納朋子貫井徳郎法月綸太郎、という豪華メンバー。にも関わらず、既読作家が貫井徳郎(しかも1作)だけという、90年代日本作家オンチの私には、非常に有り難いラインナップのアンソロジー
以下、各作品の感想。
ABCキラー (有栖川有栖
尼崎市安遠町で、浅倉という名の男が銃殺された。ついで、豊中市別院町で、番藤という名の女性が銃殺された。二人の殺害に使われた銃は同じもので、犯人は同一人物に違いない。しかし、被害者二人に接点は全くなく、警察の捜査は難航する。そして更に、第三の犯行を臭わせる挑戦状が警察に届けられた。最初にA(浅倉)、次にB(番藤)、果たして犯人は、ABC……のアルファベット順に犯行を重ねようという、無差別連続殺人鬼なのか――? さすがというか何というか、収録作で唯一、本家クリスティまで引き合いに出して真っ向から「ABC殺人事件」をやった一作。ミステリのネタと同時に、もし現代でABC殺人事件が起こったら……というシミュレート的な事をしているのが、なかなか面白い。真相もオチのつけ方も、鮮やか。
「あなたと夜と音楽と」 (恩田陸
ラジオ局のビルの前に置いてあった雛人形。一週間後、次に置いてあったのは巨大なビーチボール。誰が、いったい、何のために――? ラジオ番組の司会を務める二人、マサトとミナは、この奇妙な悪戯にどんな意味があるのかを考えるのだが……。 全編、ラジオ番組の司会二人の会話(「」の台詞のみ)と、少々のト書きだけで展開するという異色作。既に二本目から、“共通点不明のものが連続する”しかABC殺人事件と繋がってません(笑) しかしそれはさておき、レベルの高い作品。話そのものは別にどうという事は無いのですが、書き方がとにかく巧い。あ、恩田陸は凄いな、と思わせてくれた話。
猫の家のアリス (加納朋子
ABC……と名前順に、次々と猫が殺されているのを止めて欲しい。奇妙な依頼を受ける事になった探偵・仁木だが、その裏にあった真実は―― 一応、ABC順に殺害が……という話。ミステリ色はだいぶ薄いのですが、割と気に入った作品。人物の書き方とか、作品の色合いが私好み。
連鎖する数字 (貫井徳郎
連続して起こった、高校生の撲殺事件。現場に残された遺留品から、警察は犯人が同一人物である連続殺人と見るが、被害者達の接点はわからず、また、被害者が殺害される理由も見当たらない。果たして、事件は無差別殺人なのか、それとも――。 もはや原典をモチーフにも何もしてない話(^^; 話自体も、本格ミステリをちょっと皮肉ったような所もあり、書き下ろしのアンソロジーという事を考えると、なんだか作者の人の悪さが窺える話。何でこれかな、というか。話自体が別に詰まらないわけでも無いのですが、アンソロジーの意味を考えたら、収録してはいけない話だと思うわけで。……まあ、作者がそーいう人だって事は、もしかしたらこの辺の世代の作家には既知な事なのかもしれませんが。
ABCD包囲網 (法月綸太郎
「人を殺しました」と出頭してきた男。しかし、その事件の犯人は既に逮捕寸前の段階まで捜査は進んでいた。案の定、男の供述は出鱈目と矛盾だらけ。一抹の不自然さを感じつつ、男を追い返した刑事だったが、その数日後、男は再び別の事件の犯人だと名乗り出る。果たして、男の真意は何なのか。一直線上に並んだ殺人計画の真相とは――。 これも何かもうあまり関係ないというか、捻りすぎというか、まあそもそも、90年代にABCのモチーフやるのも大変だろうとは思うのですけどね。
恩田陸加納朋子を除くと、どちらかといえば長編型の作家なのかなぁ……と初見の作家が多いので何とも言えませんが、なんとなくそんな印象を受けるアンソロジー。自作の宣伝要素も考えてか(それは当然、やって構わないと思うのですが、或いは編集側の要望か?)、作家の既存シリーズのキャラクターが登場、というのもあるかもしれませんが。
そんな中、既存キャラを用いず(多分)、初見の読者をぐっと引き込むものを書いた恩田陸の作家力というのは高いなぁと感心。
あと、正面突破を試みた有栖川有栖は偉い。
この二人の評価が上がり、加納朋子の作風が気になり、残り二人の株が若干下がった、そんなアンソロジーでありました。というわけで、次は、有栖川有栖恩田陸の長編を読んでみたい所。