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『解体諸因』(西澤保彦)を読んだ

解体諸因 (講談社文庫)

解体諸因 (講談社文庫)

“バラバラ事件”を主題とした全9話からなる、連作短編集。
……えー、西澤保彦は、昔から変な事をしていたのだなぁ、というのが一読しての感想だったのですが、文庫版あとがきとか解説を読んだ限りでは、その認識が全く正しいようです(笑)
とにかくひたすらバラバラ死体が出てきては、なぜ死体をバラバラにする必要があったのかを突き詰めていくという、純然たるパズラー。なんですが、作者本人も文庫版あとがきで書いてますが(新書から文庫になるにあたって読み返して気が付いたらしい)ギャグとシリアスの境界線上でぎりぎりシリアスの側を行く筈が、かなりギャグの領域に踏み込んでしまっています(笑) でもちゃんと、パズラーとしては成立しているというのが、たぶん私がいわゆる“新本格”の一党に属する人の中でも西澤保彦が嫌いでない理由の一端なのであろうなぁ、と少し。
要するに、作者本人は本格なりパズラーというモチーフに対して凄い愛情あるのわかるのですが、結果として出てくる作品が、ちょっと離れた位置(私の視点)から見た時に、明らかに内部に本格そのものに対するアイロニーを含んでしまっているという矛盾。
そこが、“本格魂”という物を所持していない私にとって、むしろ腑に落ちるという。

要するに私は、本格パズラー、特にアクロバティックなロジックを軸とした謎解きに主眼を置いたミステリというのは「一歩間違えたらギャグの世界」という点が一番面白いと思っているんですね、多分。
(文庫版あとがき より)
この、ある種の開き直り(デビュー作だから尚更に色濃いとも言える)が、“最終的な説明に矛盾さえなければ物語は成立するのだ”と勘違いしてしまっている一部の作家達に比べて、非常に気持ちよいのです個人的に。
極端な話、物語が成立しなくてもいい、という立ち位置。
実際本作でも、解明されたパズルが成立しているかどうかが明記されるのは僅かで、空論が空論のままで終わっているという話の方が多いです。そして最終話において、本編全体を組み上げるとんでもなエピソードが浮上しつつも、実際のところそれが物語として成立しえるのかというと微妙で、加えて、パズルが完成したという認識も強制されない。
しかし、そこで全体を通した時に、小説としては面白い。
まさしく、「手の込んだギャグ」(作者)
凄い面白かった、とは言いませんが、こういう物を書ける人が居るのはいい事だな、と。そんな事を思った短編集でありました。
……まあ一番単純な所では、私が求めているものと、立ち位置が近いのでしょうけどね。
西澤保彦は好きです、うん。
たぶん、大好きにはならないだろうけれど、余暇の楽しみとして長くお付き合いしていきたい作家(笑)