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久々の宮部みゆき

『今夜は眠れない』『夢にも思わない』の2作を読了。
話はそれぞれ1作で完結していますが、主人公が共通です。二人の中学生を主人公にした、社会派ミステリ+少年アドベンチャーの融合、のような宮部みゆきとしてはちょっとした異色作。

今夜は眠れない (角川文庫)

今夜は眠れない (角川文庫)


母さんと父さんは、結婚15年目。ひとり息子の僕(緒方雅男)は中学1年生のサッカー部員。ごく普通だった筈の我が家に突然、“放浪の相場師”と呼ばれた人物が母さんに5億円もの財産を遺贈するという大事件が起こる。なぜ? どうして? 周囲の人たちの態度が変わり、見知らぬ人達からは脅迫電話がかかってくる。そして父さんが家出をし……。
相場師はなぜ母さんに大金を遺したのか? 僕は親友で将棋部のエースの島崎俊彦と、事件の謎の究明に乗り出した。
物語は主人公の僕(緒方雅男)による一人称で、中学1年生男子の視点で語られます。まあ、物語の性質上、中学1年生にしては少し賢いしさばけているかなぁと思うのですが、更に輪をかけて賢くさばけてるもう一人の主人公、島崎俊彦(書き初めに書いた言葉が「権謀術数」)の存在によって多少それも薄められています。
体育会系(というほどでも無いのですが)ヒーローと、文化系参謀という非常にオーソドックスな主人公コンビながら、巻き込まれる事件は父さんの浮気とはからずも母さんの昔のロマンスを追いかける事と、けっこうハード。良き隣人が覗き魔に変わり、学校にもまともに登校しにくくなり、などと5億円を手に入れた事で変わっていく周囲を描きつつ、そこに存在する変わらない友情、そして家族とは何か。
その辺りの王道とハードタッチのかみ合いが…………どうも微妙に巧くいってない。途中でネタ割れする所も含めて後半の盛り上がりも今ひとつで、宮部みゆきと少年主人公というのはあまり合わないのか*1、宮部さんの作品としては佳作とも言い難いなぁ今ひとつ、という評価だったのですが……
夢にも思わない (角川文庫)

夢にも思わない (角川文庫)


“5億円事件”より一ヶ月あまり後――毎年九月末になると、僕の住む町にある白河庭園では、「虫聞きの会」が行われる。二十年近くも続いているというその風流な催しに、同級生のクドウさんと偶然を装って出会う為に出かけた僕だったが、そこで起きたのはなんと殺人事件!
しかも殺されたのはクドウさんの従姉妹であり、無責任な噂に苦しむクドウさんの為、僕は親友の島崎と事件の調査を始める事にする。
この第2作目がなかなかの名品。
白河庭園で殺されていたのは、主人公の憧れの君クドウさんの従姉妹、森田亜紀子。警察の捜査により彼女がある売春組織に関わっていた事が発覚し、この殺人事件が物語の縦糸。これに主人公とクドウさんの淡い恋愛が横糸となり、クドウさんの為にと主人公が大奮闘。
なのですが、前作をふまえて少し割り切ったのか(?)、殺人事件に始まり、背景に売春があり、生臭い男女の関係ありと、終始ハードタッチ。というか、つまるところ普通に宮部みゆき。しかし結果的に、前作にあったどこか中途半端な感じがなくなって、作品として締まっています。特に隠されていた一つの謎が明かされ、物語が集約されるラストの展開はお見事。重きにつけ軽きにつけ、中途半端な感じが否めなかった前作に対し、作者らしさが貫き通されています。
ま、相変わらず島崎が賢すぎる上に格好良すぎるのですが、もうここまできたらいいか、みたいな感じで(笑)
この作品の素晴らしい所は、“それを許してはいけないんだ”と大上段から物語そのものが決めるのではなく、“それを許してはいけないんだ”という所に主人公自身が至るという点でありまして、宮部みゆきが繰り返して描いている“人間としての格好良さ”がラストにおいて描かれ、それによって最初から最後まで物語を貫いていた芯も明らかになる。
作者初期の傑作『魔術はささやく』の隔世遺伝的な立ち位置かもしれない。
で、そうか、いい加減、『ブレイブ・ストーリー』読んだらどうだね君、とか今思い出しました。