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石持浅海2作

  • 『人柱はミイラと出会う』

人柱はミイラと出会う

人柱はミイラと出会う

アメリカ・ポートランドから札幌へ留学に来ているリリー・メイスは、ある日「人柱」の儀式を目にする。
それは、建築物を造る際に安全を祈念して人間を生きたまま閉じこめるという不思議な風習であった。「人柱」は特殊な職業であり、工事が終わるまでを地下の一室でじっと過ごし、工事の終了と共に外に出る。ところが、ある工事現場で「人柱」の部屋を開いた時、そこにはミイラが横たわっていた――。
人柱、お歯黒、参勤交代……そんな風習が形を変えて息づき続ける、パラレルワールドの日本において、奇怪な風習とそれにまつわる事件の謎を解く連作短編集。
ストーリーの狂言回しとなるのは、留学生リリー・メイスとその友人、一木慶子。探偵役となるのが、一木慶子の従兄であり、「人柱職人」東郷直海。
短い現場でも数ヶ月、長ければ何年にも渡って、建築現場の地下などに作られた一室に、“神への担保”として籠もり続ける「人柱」を職業とするのが、「人柱職人」。
その「人柱」を物語の軸に、「人柱」以外入る筈のない密室で発見されたミイラの謎を解く表題作はなかなか秀逸。
だったのですが、その他はやや今ひとつで、総評としては及第点に届かず。旧来の風習がちょっと形を変えて残った世界で、SF的なパラダイムシフトにミステリーを絡めて、というのは面白かったのですが、ネタを捌ききれなかった感じ。あと、概ね安楽椅子探偵的な、一つの事象からロジックを展開していって……という話運びが少しロジックに終始しすぎているかな、とは。ただ、「人柱職人」という架空の職種と、それを生業とする東郷直海というキャラクターの描写は面白く、良くも悪くも、このキャラクターの色に支配されてしまったかな、と。そういう意味では、「人柱職人」東郷直海の事件簿、みたいな形式の方が実は面白くなったかもしれない、という気はする。

  • 『Rのつく月には気をつけよう』

Rのつく月には気をつけよう

Rのつく月には気をつけよう

湯浅夏美と長江高明、熊井渚の3人は大学時代からの飲み仲間。機会があっては集まって飲んでいる3人だが、ここ数年は、誰かの友人をゲストとして連れてきて飲むのが恒例となっている。酒とおいしい食事に舌鼓を打つ内に、色々な話題が飛び出るがなんといっても盛り上がるのは恋愛話で――。
“酒と恋”を主題にした、軽いタッチのミステリー短編集。飲み会に訪れたゲストの話をもとに、不思議なプレゼントや、彼女の怒りの原因などの謎を、“悪魔に魂を売って頭脳を得た男”とまで評される長江高明が鮮やかに解きほぐすというもの。分類としてはコージー・ミステリというか、日常の些細な謎を解くという形であり、上記作品と似たスタンスで、終始ロジカルに会話で進めていくのが基本。まあもともと、この作者の作品はディスカッションが多いのが特徴ではあるのですが、それを進めた感じ。
各話の出来は、まあぼちぼち、といったぐらいなのですが、最後の最後に、作品全体を貫くトリックが仕掛けられていて、正直、してやられました。その仕掛けもあって、最終的な読後感の爽やかさはなかなか心地が良く、こちらは結構面白かったです。
とりあえず今の所は、この作者は長編の方が面白いなぁ。ドラマを濃く描ける方が面白い感じ。