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2007年を振り返る:読書編

今年は割と読んだので、たまにはベスト形式で〜。
ま、あんまり真剣なものでもないですが。
第5位 『ステップファザー・ステップ宮部みゆき
ステップファザー・ステップ (講談社文庫)
仕事中の事故で屋根から転落したプロの泥棒である“俺”は、その家に住む双子の兄弟に弱みを握られてしまう。それぞれがそれぞれの相手と駆け落ちするというとんでもない状況で両親に見捨てられた双子なのだが、その状況をむしろ歓迎さえしている様子で、“俺”に困った時の代理父を頼むのだが……双子の頼みを断るに断れきれない“俺”と、双子の奇妙な家族生活が始まった。
軽いタッチの短編集。世界観のリアリティをライトな所に設定した上で、作者が作者に書ける話を書いているというか、軽いから軽い話を書くのではなくて、軽くした所で出来る真面目な話、という辺りできちんと物語を成立させているのがこの作者の巧い所。気軽に楽しめる、達者な作家の達者な作品、というか。
宮部作品は読む前に気合いを入れる必要がある事が多々あるので、こういうセンスの作品を、時々書いてくれると、ファンとしては嬉しいかもしれない。
第4位 『バッカーノ!1931 鈍行編/特急編』成田良悟
バッカーノ!1931 鈍行編―The Grand Punk Railroad (電撃文庫)バッカーノ!1931 特急編―The Grand Punk Railroad (電撃文庫)
泥棒カップルは友人に会うために――、ちんぴら集団はある積荷を盗む為に――、テロリスト集団は上院議員の婦人を人質にする為に――、殺人鬼は乗客は皆殺しにする為に――、そして若きギャングは駅で友人達の到着を待っていた。禁酒法時代のアメリカを舞台にした、“不死の酒”を巡るバカ騒ぎ!
今年アニメ化もされたシリーズの第2作。正確には「鈍行編」と「特急編」で2巻と3巻なのですが、2冊で表裏一体、一つの話という事で、1作品としてカウント。原稿見た編集さんが「クレイジーですね」と言ったそうなんですが、まさにクレイジーな構成で、しかしこれが面白かった。ちょっとやられた感じ。
少々ダーク描写がくどいきらいがありますが、それさえアレルギー無ければ、楽しめると思います。基本的にエンターテイメント志向な事には、好感触。あと、読んでいく内に、どうしようもない殺人鬼に妙に好感を持ってしまう辺りは、何とも巧い(笑) まあそれこそ、広義のファンタジー世界においては主役脇役含め、けっこうさくっと(訳はいろいろあれど)人殺しをしている人たちが闊歩していたりもするわけで、ある意味では露悪的かつ自覚的に、ファンタジー及びライトノベルの作法に乗っかっているのだろうと思うと、それはそれで有りなのかとは思います。
シリーズとしては、続刊も面白いですが、今のところ(作者も自覚あるっぽいのですが)これが最高傑作という感じで(アニメもマンガもこのエピソードがベース)、ちょっと惜しい。
第3位 『臨場』横山秀夫
臨場 (光文社文庫)
終身検死官の異名を持つ凄腕の検死官が、警察組織の中で時に敬われ時に疎まれながらも、己を貫き事件の捜査にあたる、連作短編集。
個人的に今年最大の大ヒットであった横山秀夫の中でも、評価の高い1作。ミステリ風味・主人公が共通の短編、というとっつきやすさもあり、横山秀夫に入るのにもかなり向いているかと思います。
第2位 『影踏み』横山秀夫
影踏み (祥伝社文庫)
出所した腕利きの空き巣、真壁修一は、自分が逮捕されるきっかけとなった家へと足を向ける。逮捕の夜、彼はそこで殺人の気配を感じたのだが――果たして、事件は何も起こっていなかった。自分が感じたものの正体を探るべく、彼は独自の調査を開始する……という第1話で始まる、プロの空き巣を主人公にした連作短編集。泥沼でもがくように生きる犯罪者を主人公に、主人公にだけ聞こえる死んだ弟の声、というややファンタジーな要素も取り込みつつ、安易なピカレスクロマンになることもない逸品。
お勧め度は『臨場』と並ぶのですが、ファーストコンタクトという事で、こちらを上位に。この作者は短編集が多く出版されていて作品に軽く触れてみやすいという点でも、お勧め度が高いです。……しかし、横山秀夫は好きだし満遍なくお勧めなのですが、なんかこう、いざ人に勧めようとすると難しいなぁ(^^; なんというか、じんわりいい、のですよ。読んで貰えると伝わると思うのですが、それを言葉にするには、私が力不足。
……で、個人的な遊びといいつつも結構悩んだ末に、事前の自分予想ではワンツーフィニッシュかと思われた横山作品を押しのけて、2007年ベスト1作品に輝いたのが、こちら↓
第1位 『ダブルクロス・リプレイ・トワイライト』田中天F.E.A.R.

TRPGリプレイです。
元になったルール知りません(笑)
おや、しろー大野さん(漫画家、本作のイラスト担当)が仕事してるよ、と思って手にとってみたのですが、いやこれが、凄かった。今まで読んだTRPGリプレイの中で一番面白かったかもしれない。
3巻の表紙を開くとですね、口絵がいきなり、筋骨隆々の大男の後ろ姿*1(なぜか、下の方に月と地球)で、それについたキャプションが、


嗚呼、侠が征く。
世の為、人の為、
すべてのものの明日の為に。
戦え、我らが愛しき快男児
君の拳で未来を創れ!!

いやなんだこれは、と思ったら、もう、中身がそのまま!(笑)
ホントに凄かった。
元となったシステムは、レネゲイドウィルスというものの影響により超人となったキャラクター達を扱う『ダブルクロス2nd』。舞台となるのはその世界観設定の一つで、第二次世界大戦前夜、巷間のトンデモ与太話の類を現実とし、超古代の秘宝とか超魔術的能力とか超科学の産物とかを操るナチスが暗躍する世界で超人達が活躍する「ウィアードエイジ」。
リプレイを担うプレイヤーキャラクターは、満州で探偵業を営む武術の達人、強きをくじき弱きを助く正義漢“東邦の快男児天花寺大悟。ナチスドイツのオカルト研究機関の改造手術により、天才的な演算能力と射撃能力を持つに至るも、祖国をナチスから取り戻す為に脱走した元・超人兵士“ゲルマンの超少女”クリステル・フォン・エッシェンバッハノストラダムスの残した真の予言書をその手に、世界の破滅を回避するべくその卓越した魔術によって様々な秘宝を回収・封印する怪盗“予言書の怪人”ギョーム・ド・ノートルダム。そして、MI6の最年少エージェントであり、父親譲りの発明の才能を持つ“科学の申し子”フィン・ブースロイド、の4人。
この4人がナチス武装列車やら潜地潜水艦やらクレオパトラ・ダンディやらと闘います。
濃いです。
まあリプレイとしては、マスターもプレイヤーも気心知れた熟練者で、マスター経験あってリプレイも書いていてゲームのシステムデザインとかもしている人たちが揃って、おまけに雑学豊富、とやや特殊な条件が整っているともいえるので、ゲーム的参考にはあまりならない気がするのですが、読み物としての完成度は物凄く高いです。冗談抜きで、元ルールが読みたくなりましたもの(笑)
もともとドラマ的演出に向いたルールなのかもしれませんが、ツボを押さえたマスタリングとロールプレイに加え、お互いの信頼感から来ると思われる、任意設定とか。とにかく色々凄かったです。
富士見ドラゴンなんであまり一般的には置いていないと思いますが、どこかで見かけたらちらっとでも目を通してやってみて下さい。2巻の口絵とかも凄いデスヨ。
それにつけても快男児
今年は快男児の年なのか。
1年に2回も、別の作品で「快男児」という単語を見る事になろうとは思いませんでした(笑)
−−−
というわけで、1位は自分でも意外な結果になったのですが、来年に向けての注目作家は横山秀夫。まだ文庫でも何冊か残っているので、楽しみに読みたいと思っております。あと、今年の注目作家だった石持浅海は短編集ばかり4冊読んだのですが、ちょっとどれも微妙でして、この人は長編の方が向いていると思うので、来年は長編に期待。なんか、『扉は閉ざされたまま』の主人公(どっち?!)が登場する長編を執筆予定だそうなので、期待して待ちます。それから、<図書館>シリーズはまだ最終巻を読んでいないので、今回のランキングからは除外としました。感想はまた、読み終えたら。あと今年の横山秀夫的な当たりを求めて、来年も何人かは新しい作家に手を出したいです。伊坂幸太郎あたりが気になっているのですが、どうかなー、どうかなー。とか言いつつ、先日実家からなぜか『暗黒館の殺人』が届いたので、久々に綾辻行人に戻るかとか思っているのですが、途中で力尽きる可能性もありそうで、予定は未定。

*1:後ろ姿なのがポイント高いのだと、わかってくれる人がどれぐらい居るか……!