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海堂尊一気読み(『チーム・バチスタの栄光』〜『ブラックペアン1988』)

やっと書けました。
しばらく前に読んだ読書感想を続けて。読んだのは全て2週間ぐらい前。
直接的なネタばれは避けていますが、本編内容に若干触れている所もあります。だいぶ長くなってしまったので、読みたい方は続きを開いてくださいませ。

チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光


東城大学医学部付属病院の看板ともいえる、バチスタ手術専門の天才外科チーム、“チーム・バチスタ”において立て続けに起こった原因不明の連続術中死。不定愁訴外来を担当する万年講師の田口公平は、高階病院長から、その原因を探る内部調査を依頼される。果たしてこれは、医療事故か殺人か。田口はやむなく聞き取り調査を始めるのだが――。
それなりに面白かったけど食い足りない。
といった所。
食い足りないというのを具体的に説明しろと言われると悩むのですが、言い方を換えれば、
秀作ではあったが傑作ではない。
という感じか。
医療ドラマ部分は面白かったですし、それに絡めた現代的な医療問題への言及も秀逸。あらすじ読んでときめくに十分な、ネタの掴みも合格。敢えて言うならば医療サスペンスの形である前半から一点、白鳥圭介の登場を機に「探偵小説」になるという構成もなかなか面白い。
後はもう好き嫌いの問題なのですが、大きな不満も無かったですが、絶賛するほどのものもなかった、という所。
『このミス』大賞作品という看板を尊重してミステリとして評価するならば、微妙な点は幾つか。一番問題だと思うのは、作中で状況のまとめと説明がほぼない事。お約束という程ではないかもしれませんが、読者に提示するという意味を併せ持った、検討と確認、はミステリを名乗るなら必要だと思うのですよ。全くないわけではないですが、田口さんの台詞などでさっさと解決して片付けられてしまうので、読者が考える材料が提示されているとは、言い難い。
この“説明をしない”というのは本作の一つの特徴と言っていい要素で、とにかくあらゆるものに説明がない。主人公の田口が手術音痴な為に序盤こそ手術関係の説明が多少あるものの、田口がわかっている用語に関しては基本的に説明なし。
用語等の説明を省く事で読みやすくなっているという部分は確かにあるし、逆に説明が無いので全く何の事だかわからないものもあり、わからなくてもまあ、話を楽しむのにそれほど困らないという点においては問題なく機能していると言えるのですが、最低限、説明しておいた方がいいものも説明されないのは少し困りました。
後の作品になりますが、『ブラックペアン1988』なんて、タイトルになっているにも関わらず、ペアンとは何か、の説明、一切無いですしね(笑) そこで調べろ、というのは娯楽小説としては間違っていると思いますし、説明を書く事のメリット・デメリットのどちらを取るかは作者の自由とはいえ、もう少し、肝心な所は説明して良かったと思います。
この“肝心な所”と“肝心でない所”の区別が薄いというのは、後続作品における作者の短所として目立ってくるので、どうにも根が深いようですが。
もう一つ気になったのは、真犯人の動機。
文庫版の解説が顕著なのですが、ミステリ読みの方はどうも、動機というのを「納得できる/納得できない」で評価する傾向があって、字面に問題がなければOK、みたいな感じがするのですけど、私は動機というのは「物語の中に収まっている/収まっていない」が重要だと思っています。
その観点でいえば、ちょっとはみ出している。
字面的には納得できるだろうけど、作中で、その動機に関する要素が描かれていたかというと、疑問。
極端に言えば、私は動機なんて「なんとなく」でも良いと思っているのです。問題は、その「なんとなく」に説得力を持たせるだけの物語的要素を積み上げているかどうかであって、重要視されるべきは動機そのものでなく、物語構造なのです。
大減点する程では無かったですが、やや減点。
(なお、この辺りの物語構造というものに興味のある方は是非、京極夏彦の傑作『魍魎の筺』をお読み下さい)
逆に、その点踏まえて洗練すると、映画版なんか面白くなるのではないか、とか思ってみたりはするのですが、どうなんですかね映画版。お陰様で文庫の売れ行きは絶好調ですが。
後やや蛇足ですが、この作品を取り上げる上で「白鳥のキャラが強烈で面白い」というのが強調されるきらいがありますが、そんなに面白いかな、とは。確かに強烈ではありますが、それは作品構造的に、元より異質なものが入り込んできた故の強烈という面があって、キャラクター的には、田口とか病院関係者の方が全然面白いし、巧く描けているかと思います。要するに白鳥の強烈さというのは、87分署にホームズがやってきた、みたいなものであって、それを消化しようという試みは評価されてしかるべきだとは思うものの、過大評価されすぎている部分はあるのではないかと。なので、これから読もうと思っている方は、あまり期待しすぎると肩透かし食うかもしれません(笑)
で、こういうのは第2作が転がりだして面白くなるのですよと根拠無く楽しみにして次を読み始めたのですが……
ナイチンゲールの沈黙

ナイチンゲールの沈黙


東城大学医学部付属病院・小児科病棟に勤務する浜田小夜は、友人と出かけた夜にたまたま誘われたライブハウスで、伝説の歌姫と出会う。大量吐血で緊急入院した彼女を救った縁から、飲み込まれていく不可思議な『ラプソディ』の世界。一方で小夜は、入院患者の父親が手術を承諾してくれない事に頭を痛めていたのだが、その父親が何者かに殺害されるという事件が発生する――。
つかみ自体は前作より面白いぐらいで、最初は楽しく読んでいたのですが、中盤以降は全然駄目。後半はもう、ぐだぐだ。
前作になぞらえるならば、前半が医療サスペンスで、後半が刑事ドラマになるのですが、この後ろ半分が非常にいただけません。話自体も、わかりきった真相に辿り着くのに物凄い遠回りしてあちこちふらふらした挙げ句に、なんか不思議要素を持ってきて終わるという。
狭い例えで申し訳ないですが、“つまらない時の『逆転裁判』”みたいな話。
とにかく、シリーズ長編への伏線部分も含めて、話に取り込んだ要素が多すぎる。
話自体の良い悪いはさておき、はっきり言うと、由紀さんのエピソードなんてまるっきり要らないのですけど、どうして入れるかなぁ。次作もそうなのですが(もともと、プロット段階では前後編の予定だったらしい)、正直、作家としての能力以上の仕掛けを展開しようとして(特に、先を見越した妙な伏線)、失敗していると思います。それが最も露骨に出ている作品。
ただでさえ、根の所に非常についていきにくいネタ(『ラプソディ』)を仕込んでいるのに、その周囲に更にごてごてと要素を置きすぎ。
ジェネラル・ルージュの凱旋

ジェネラル・ルージュの凱旋


桜宮氏にドクター・ヘリを導入しようとする、東城大学医学部付属病院・救命救急センター部長の速水晃一。その彼が特定業者と癒着しているという怪文書が、田口公平の元に届けられる。「ジェネラル・ルージュ」の異名を持つ速水にかけられた疑惑は真実なのか? 友情と疑惑の間で揺れながら、田口は調査を開始するのだが――。

途中まで面白かったけど、やはり後半がいまいち。
もともとは前の作品と前後編を予定していたものが宝島社の編集に止められて別々の作品として刊行したそうですが、前作と同時進行の事件を描いているという中身の基本は変わっていない為、一見して非常に無駄にトリッキーな事しているように見えます。ま、見えても見えなくてもあんまり変わらないですが。せいぜい、なぜあのシーンに速水はいなかったのか、がわかって納得、ぐらいか。
本作の最大の欠点は、一つのクライマックスとなるべき会議シーンのカタルシスがほぼ全くない事。これは後で総論でも触れますが、とにかく、カタルシスが書けてないのですよ。嘘だとわかっていても書けなくてはいけないカタルシス、というのがあって、それが出来ていないというのは、ちょっと厳しい。
これもどの作品の共通項でもあるのですが、前半に積み上げていった医療現場でのドラマ部分が面白いだけに、逆に言えばそこが巧く書けすぎているが故に、その上に飛び出せていない。その辺りの、物語的緩急のつけ方を身につけてくれば、また変わってくる所があると思うのですけど。
クライマックスその2の医療シーンはなかなか盛り上がっただけに、残念。
ブラックペアン1988

ブラックペアン1988


時は1988年――、外科研修医の世良は、東城大学医学部付属病院にその名を馳せる、佐伯教授の下で外科医としての人生を歩み出す。医療改革を目指す新任講師・高階、天才的な技術を持つ一匹狼・渡海、個性的な二人の医師との出会い、そして手術の現場で彼が見るものは――。
これはそれなりに面白かったけど、それなり止まり。
作者自身の作家的慣れと、最も得意な医療ドラマの部分に焦点をあてた展開にした事で、読みやすいですし、引っ張り方も秀逸。なのですが、ここまで書いてきた事と被りますが、どうにもやはり、盛り上げ方が巧くない。
「これからどうなる?!」
という所までは良いのに、
「なんだ、そうなるのか……」
で終わってしまう。
終盤もぐだぐだしない分、前2作よりはましですが、及第点あげるには後一歩という出来。
作中における医療問題の盛り込み方とか切り込み方は秀逸だと思うのですが、あくまで作品をエンターテイメント構造に乗せて書いている以上、フィクションでありエンターテイメントである物語としては、もうワンパンチ必要であると思います。
螺鈿迷宮』と『夢見る黄金地球儀』は、未読。
基本、私自身が過去に医療現場を舞台にした小説というのを読んだ事が無いので、医療ドラマ部分に関してはやや過大な評価をしているかもしれませんが、面白く書けていると思います。作者自身が現役医師であるという事もあって、院内の人間模様とか丁々発止のやりとりとかに加えて、今日の医療問題の盛り込み方などはかなり秀逸。社会的テーマをエンターテイメント構造の中で伝える、という部分に関しては成功していると言って良いでしょう。
実際、読後に医療問題のニュースとか見ると結構気になるようになりました。
ただ、4作品ともに共通して言えるのは、重ねてになりますが、とにかくクライマックスの盛り上げ方が巧くない事。『バチスタ』はミステリフォーマットに乗っけた上でなおギリギリぐらいだし、及第点あげて良いのは『ジェネラル』のクライマックスその2ぐらいか。逆に、『ジェネラル』のクライマックスその1は肩透かしもいい所。
作家歴の浅さからくる技術的な面もあるかとは思いますが、総合的に構成も含めて、文章上の表現・演出がゆるい。
あくまでエンターテイメントのまないたの上に乗っけてフィクションをやるなら、もっとメリハリをつけてやらなければならないのだと、これはプロとして編集者なり担当者なりが強調すべきでないかと思います。逆につけないで書くなら、それはまたそれで別の書き方があるわけですが、どう読んでも、そういう方向性ではないですし。
あともう一つ、作品のカタルシスを阻害している点として、このシリーズにおけるキャラ造形もあると思います。
シリーズの先を見越しているのかなという部分も含め、人間は単純な善玉悪玉で割り切れない、というコンセプトがベースに見られ、それ自体は評価できる点もあるのですが、一方で、物語を楽しむには不要なリアリティでもあるわけです。
要するに、それは勿論わかっているけど、これは物語なのだから、という事。
悪役には悪役の魅せ方もあるわけですし、エンターテイメントを成立させる為には時に(その時その場面においては)真っ黒なキャラも必要なのである、という点がどうにも弱い。
そういったキャラクターの描き方が最も端的でわかりやすいのですけど、全体的に、
必要なリアリティと不必要なリアリティの選択
というのが巧く出来ていないなという気がします。
そこでそのリアリティは要らないよね、という部分の取捨選択が、出来ていない。ほとんど拾ってしまう。まあこれは、好みの問題も多分にありますが。
好みの問題といえば、作者どうも恋愛要素入れるの好きっぽいのですが、これも正直巧くないんですよね(^^; 変にどろどろしてるし。入れるならもう少し、さくっとしたものにしておけば軽いエッセンスぐらいで済むのに、なぜ話をこうもややこしくしたがるのか。いや、処理出来る作家なら問題ないのですけど、正直、処理しきれてないよ、という。
この辺りの構成的洗練は、要努力。
……けっこう辛い感想になっていますが、作家的力量に関しては、現時点では高くない、というのが正直な評価。ただ4作品、怒濤の勢いで読んだという事実が物語る通り、決して嫌いな作家ではありません。繰り返し書きますが医療ドラマ部分は面白く書けていると思いますし、医療問題への切り口も秀逸。後は構成的なメリハリとある種のエンターテイメントにする開き直りを持って一皮剥ければ、化ける可能性はあると思うし、それに期待したい作家であります。講演聞きに行った友人の話だと、志向はエンターテイメントらしいですし、もう少し、飛んでほしい。
死因不明社会―Aiが拓く新しい医療 (ブルーバックス)

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