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賞と商売


小説の場合、受賞作が何かで書店は右往左往させられ発表翌日には本に受賞作の帯がつけられていますが漫画の場合、売り上げに繋がるイメージってないですね。実際、直木賞芥川賞などの選評委員のコメントも漫画賞のそれと変わらないくらい説得力に欠けるものが多い(特に渡辺淳一石原慎太郎)ので、選評の質の差ではなく単純に格の問題なのかな。
漫画の賞について/テレビ探偵☆ツンドラタイガー
まあ、性質の違う商品なので一括りに出来るものでも無いとは思いますが、各社漫画賞に関して言えば、それこそ一昔前はそれぞれの雑誌の中でなんとなく発表していたわけで、そもそも読者にしてみれば「だから何なのだろう」程度のものであったというのはあると思います(内輪では何かパーティとかもあるのでしょうけど)。要するに、イベントとして弱い。
近年になって、インターネットの発達や漫画を読む世代の拡張と浸透によって、「漫画賞」というものに再考の余地が出てきたというのが実際の所であって、外に向けて発信する意義というのが出てきた事自体が、実はつい最近になってからなのではないかな、と。
つまるところ、「格」よりも一つの問題は「認知度」にあるのではないかと思います。まあこれには、文化的(?)成熟期間の問題もありますでしょうが。
「格」というのはつけた(ついた)もの勝ちであって、

  1. 年月
  2. 御輿

という要素が必要になってくるわけですが、ある程度はカオティックな要素が絡むので、思い通りにはなかなかいかない。
直木賞芥川賞に関して言えば、個人的にはそこまで有り難がるほどのものかなぁ、というのはあるのですけれど、「格」の要件の1と2は満たしているわけで、あとは3番を如何に維持していけるかの問題となっている。それがどうなっているのかという点については文芸ファンの方にお任せするとして、実はある程度は、内容云々よりも、「時流」とか「世相」なるものと繋げていけるのか、みたいな面はあるのでしょう。
で、時折「該当作なし」とかやっておくと権威が上がる(笑)
ただ少なくとも、現在の日本の文芸ジャンルにおいて、「イベント性」と「ワンオブワン」を成立させている貴重な賞である事は、間違いありません。


先日第5回の大賞が発表された本屋大賞も、横山秀夫の『半落ち』が直木賞の選考会で落とされた際に一部の書店員たちが怒って作った賞だそうです。こういった賞が漫画でも生まれると面白いのですが。
漫画の賞について/テレビ探偵☆ツンドラタイガー
一方で、“売りたい本”を選ぶという「本屋大賞」は、下世話な面を取り上げれば“売るための賞”であって、現場の皮膚感覚とは概ねズレまくる偉い文芸の賞に対して、「現場」の賞であるといえましょう。イベントとして順調に成立しつつあるので、質を保って賞としての信頼を確立していきたい所であります。
ここで誤解しないでいただきたいのは、
直木賞芥川賞受賞作は売れる
という事。短編になる芥川賞は若干落ちますが、基本的に直木賞受賞作品は売れます。存外、“何か本を読みたいと思っている人・ハードカバーでも買ってしまえる人”というのは居るわけで、そういう下支えがあるからこそ、賞の権威もまた保てる、という循環構造が実は直木・芥川に関しては成立しています。これが間違えてはいけないと同時に重要な事であって、この循環構造を恒常的に成立させる事こそが、こと数字に関して言えば、理想的な目標となるわけです。
さて話をコミックに戻すと、一昔前までは「アニメ化」がそういった賞みたいな役割を担っていたわけですが、もはや「アニメ化」は準長期的なパブリシティにしか過ぎず、宣伝材料としての販促効果はあるものの、かつてほどの価値はなくなっている。
そこで改めて「漫画賞」というものの意義が問われるのではないか、という所で最初の話に戻りますが、恐らくそういう権威としての「ワンオブワン」を狙っているのが、手塚治虫文化賞ではないかとは思うのですが、えー、どうなのでしょうね、これは。あと10年20ぐらいやっていった時に、価値が見えてくるかな、というのはありますが。
あと、恐らくこれが、本屋大賞を意識して作った賞。



……いや、『岳』はいいマンガなんですよ、前にも書いたけどかなりお勧め。
実際こういう、地味だけど良いマンガを誉める賞、というのはあって良いとは思うのですが、しかし第1回に『岳』を選んだ事で、非常にこの賞そのもの印象が地味になってしまった事は正直否めない気はします。
まあ、講談社及び小学館漫画賞の意識改革に期待するよりは、良くも悪くもエネルギーのありそうな角川系列あたりに(それはそれで変な偏りがありそうですが)、新しい漫画賞をぶちあげて貰う方が、現実的かもしれない。