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『空の中』(有川浩)、読了

空の中 (角川文庫)

空の中 (角川文庫)


西暦200×年1月――純国産による輸送機開発プロジェクトにおいて開発された、超音速ジェット機、愛称「スワローテイル」が、その試験飛行中、謎の炎上爆発を遂げる。同年2月、自衛隊のF15Jが、演習飛行中にまたも爆発事故に見舞われる。
二つの事故に共通しているのは、事故が発生したのが、四国沖、高度2万メートルの空域であるという事。
調査の為に派遣されたメーカーの調査員、春名高巳は、事故の生き残りである自衛隊パイロット、武田光稀と接触する。
一方、高知県仁淀川付近で、地元の2人の高校生が、不思議な生き物を拾っていた――。
このあらすじの時点で何らかの期待をして、しかし期待通りの展開はまあ無いだろうと思ったら、まさかビックリ期待通りの展開でした! というこの謎の前振りで何か伝わる方は、おそらく読んで損無しでないかと思います。お薦めできます。いやもう、
久々に、心底面白かった。
闊達なメーカー調査員、堅物の自衛官パイロット、心に傷を負った少年と、幼なじみの少女……大人達は空の秘密を追い、子供達は手に入れた秘密に惑い、やがて高度2万メートル――人類がほとんど利用していない空域――から、姿を現すもの。
パロディに落とし込む事もなく、それらしいもので終わる事もなく、正々堂々、正面からの、オリジナル特撮怪獣映画小説です。
とにかくもう、特撮怪獣映画ファンは必読の名著、と言い切ってしまいますとも。
個人的な好みで言うと、青春の影とか傷とかを延々と綴られるのって苦手なので、視点が子供達だけだと辛かったかなとか思わなくもないのですが(子供達視点の所が嫌い、というわけではない)、大人達との二重構造になっているので、その辺りが読みやすかったのも良かった。
また、怪獣映画と小説の相性が今ひとつ良くないのは、多分に怪獣というものが“ビジュアル”によっているからなのですが、その点をクリアした上で、ひっそりと、「怪獣はなぜ日本だけを襲ってくるのか?」という命題にも作品上での解答を与えている所も素晴らしい。
とにもかくにも、怪獣映画への愛に溢れた、傑作。
……怪獣抜きでどうなのよ?
と疑問を持たれるかもしれませんが、えー、どうなんでしょう?(おぃ) いやもう正直、私個人の立ち位置としては、その疑問に応えるすべを持ちません。
なんというか、特撮好きで、怪獣映画好きで、おまけに趣味で書き物などしてますと、オリジナルの怪獣映画小説って書いてみたいよなー、とやっぱり思った事があるわけなのですよ。ところがいざ書こうとしてみると、上記したような事を筆頭に、小説としてクリアすべき課題が相当に多い。この作品はその難題をきちっと乗り越えた上で、あるレベル以上の所で小説を完遂させている。もうそれだけで凄い。逆に言えば、そういう経験を踏まえている以上、中途半端な物に関しては非常に辛い点をつけますが、その点において、言う事無し。
愛で負けた。
ああなお、時代的にいえば、ガメラ〜空中怪獣大決戦〜』以後の怪獣映画です。より正確には、『空中怪獣大決戦』以後であると同時に『イリス覚醒』という過ちへ向かわなかった怪獣映画。
その辺り含めまして、100%、ツボを突かれた。
とりあえずまあ、現時点では、ぶっちぎりの今年ナンバー1で、お薦めです。