- 作者: 志木沢郁
- 出版社/メーカー: 学習研究社
- 発売日: 2005/10
- メディア: 文庫
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まあ、20点を予想したら65点だった的な掘り出し物ですが、なかなか面白かったです。
家康のお手つきによる生誕、出自を疎まれての放置、紆余曲折を経て一廉の人物となりながら、若くして病に倒れるまでを描いており、一貫して聡明で器の大きい人物として描かれる秀康像もさる事ながら、周囲の人物を露骨に貶めるような書き方をしていない所に好感が持てます。
特に歴史小説において、特定の人物を持ち上げたいが為に、対する人物や周辺の人物を過小に評価する書き方が好きではないので、気分良く読めました(羽柴秀次だけ、養子時代のいじめっ子みたいな立ち位置になっていますが)。
徳川家康、徳川秀忠、石田三成などなど、それぞれの立場でそれぞれの在り方を描いた上で、本多重次とか鳥居元忠とか、徳川好きがニヤリとする人物を要所に持ってきたりする辺り、愛も含めて秀逸。
そして特筆すべきは、おそらく史上最高に可愛い秀忠(笑) 視点が終始、“兄・秀康”というのもありますが、あのオヤジの跡を継ごうと頑張っている秀忠、やたらに兄を立てる秀忠、……いや秀忠、この時点ではもう結構な年では? という疑問を吹き飛ばすほどの、常に紅顔の十代、みたいなある種、凄まじい秀忠です。
特に私は、隆慶ワールドにおけるダーク秀忠が脳内にかなりのさばっているので、ギャップが強烈でした。まあそれこそ、歴史小説の楽しみの一つでもあるのですが。
秀康が生涯、主戦場と言えるべき場所から遠ざかっていたというのもあり、歴史としては山の所が割とすっと流されたり、誤植じゃないかと思うほど変な所に読点がついて文章がおかしい箇所が何カ所かあったりなどはありましたが、最初に書いた通り、なかなか掘り出し物でした。
個人にスポットを当てた歴史小説は、最終的に読後、読者がその人物を好きになれば作者の勝ちだと思うのですが、そういう意味では、負けました(笑) 勝ち負けの問題ではないですが、見事に結城秀康への好感度が上がってしまったので、私がどこか敗北した気分です(笑)
同文庫から『豊臣秀長』も出しているようなので、その内、読んでみたい。