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『ICO−霧の城−』(宮部みゆき)をやっと読んだ

買ったのいつだよ?! というのはまあさておき、2001年に発売された同名ゲームを、ゲーム中毒患者愛好家としても有名な宮部みゆきがノベライズした作品。はじめ(何故か)週刊現代に連載され、2004年にハードカバーで出版。読んだのは2008年に発行されたノベルス版。


――いつだかわからない時代の、どこだかわからない場所でのお話。
頭に角を生やした少年イコは、しきたりに従い、13歳を迎えた時、邪悪な霧の城へ生け贄として送られる事となる。都から来た神官と神兵によって霧の城へ送り込まれたイコは、そこで檻に囚われた少女ヨルダと出会う。彼女を助け出したイコは、二人で城を脱出しようとするのだが、城には恐ろしい邪悪は潜んでいた……。
ノベライズなので、基本的な話の流れはゲームと同一。ただ、元のゲームが話がどうこうというものでもなく(しかし良いのだ! こればかりは、やってもらわないとわかりません)、設定なども特に作中で明らかにされるというものでない為、オリジナル部分を含め、小説化にあたってかなり背景を広げています。どこまでが作者オリジナルでどこまでが一応の裏設定なのかは判然としませんが、あとがきで作者が述べているように「『ICO』の世界の一つのバリエーションとして」受け止めるのが良いのでしょう。
ノベライズ最大の特徴といえるのは、ヒロインのヨルダについて、その心情含めかなり書き込まれている事。霧の城の背景設定も含め、ニエに隠された秘密など、イコとヨルダの2つの視点を使う事によって、一通り明かされてまとまっています。
気になったのは、全体的に、宮部みゆきにしては文章が粗い事。作者自身が、“ノベライズ”というものをどのように書けばいいのか悩んだ節も見えるのですが、割り切って、重厚に書いてしまった方が良かった気はします。なんとなく、意識的に軽く書いた所が、かえってらしくなくて上滑りしている感がありました。出来るだけゲームのノリを出したかったのかもしれませんが、その点に関しては失敗している気がします。
後半、クライマックス付近での捻り方などにらしさも見えるのですが、全体的には、原作をなぞるという制約と、小説を書く上では空回りする思い入れと、がうまくシンクロしてくれなかった感じ。
結論:宮部みゆきにノベライズは向かない(笑)
とまあ、これを読んだ限りでは言わざるを得ないか。
もっとも、ゲーム自体が“10年に1本”レベルの大傑作ですので、もとよりノベライズして面白くなるとい類の期待はあまりしていなかったのですが、単独で見た時にも、“物を語る”能力に関しては当代随一の作家の作品として考えれば、凡作と言わざるを得ないのは残念。
それでもまあ、それなりに面白かったですが。
ああ、元になったゲームは、繰り返し書いてますが、大・傑・作なので、あらゆる人に、一度は触れてみてほしい作品です。