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『楽園の泉』(アーサー・C・クラーク)、読了

「タプロバニーから楽園までは40リーグ。楽園の泉の音も聞こえよう」

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

赤道の軌道上を地球の自転と同じ速さで動く同期衛星と地球を結ぶ橋をかけ、宇宙エレベーターを建造したい。人類が火星まで進出した宇宙時代、惑星−軌道間の輸送に関する問題を解決するべく、エレベーターによる宇宙塔の建造を夢見る工学者モーガン博士は、隠棲中の元政治家ラジャシンハに協力を求め、赤道直下のタプロバニーを訪れる――。
今ではSF的ガジェットとしてはアニメやゲームにも何の説明もなく登場する宇宙エレベーター軌道エレベーター)ですが、初めてこのアイデアが論文の形で世に出たのが1960年代。それらを工学的なベースにしつつ、1979年に発表された、巨匠クラークの古典(なおくしくも同時期に、チャールズ・シェフィールドによる同じく宇宙エレベーターを扱ったSF長編『星ぼしに架ける橋』が発表されており、新進作家に気を遣ってか、クラークはこれに序文を寄せています)。
物語は単純に宇宙エレベーター建造までの経緯を書いていくのかと思いきや、古代にタプロバニーに存在した王朝の話、他星文明との接触、それにともなう神と宗教の問題、などが随時挿入され、気宇壮大な展開を見せます。
それらが壮大な繋がりを予感させる前半、非常に面白かったのですが、後半、今ひとつ。
……繋がらないんですよ(笑)
全く繋がらないというわけではないのですが、こちらが期待したほどのダイナミックな融合がなく、少々、肩透かし。
解説の大野万紀氏は、
本書はクラークの夢の結実である。過去のクラークSFの大団円であり、クラークのあらゆる側面が少しずつ表れている。世界はクラークの理想世界であり、登場人物はすべてクラークの分身だといってもいい。
と書いており、言われてみればまあ、という所はあるのですが、小説としての完成度が高いとは、言い難い。
変な話、50年代に書かれたらもっと凄い作品になっていたのではないかという気がするのですが、そうするとアイデア自体に工学的な裏付けがまだ出ていない為にもっとファンタジー寄りになってしまい作品自体が成立しない辺りが難しい。
ただ、細かい要素の描き方や、終盤クライマックスのスペクタクルなどは、さすがクラーク。
小説における科学と浪漫の融合、の大家としてのクラークの魅力は存分に発揮されています。
こうなると『星ぼしに架ける橋』も読みたくなってくるのですが、たぶん、蔵書のどこかにあったような記憶はあるのですが…………(^^;