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なんだか久々にSFを読んだ

  • 『ここがウィネトかなら、きみはジュディ』(編:大森望

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー第2弾、時間SF傑作選。
40年代の古典から、09年発表の近作まで、本邦初訳作品も含めて幅広く集めた、粒ぞろいのアンソロジー
大概、編者の趣味に拠ったSFのアンソロジーを編むと、例えば10本集めたらその内の1本か2本は、「え? 何これ、さっぱりわからないぞ」というのが入るのですが、恐らくは意図的にそういった作品を避けた上で、冒頭に丁寧な作品解説つきという、大森望らしい、間口の広さにも配慮した1冊。
難を言えば、その作品解説が少々踏み込みすぎで、そこまで書いては駄目だろう、という所まで書いてあるのが幾つかあり、読む場合は、作品を読み終わった後で読む事をお薦めします。基本的に海外作品の場合、資料として作品の背景や作家の紹介が詳しいのは有り難いですし、おそらく、編集に及んで、少々わかりにくいかも、と編者自身が思った部分をフォローするつもりで書いたのだとは思うのですが、若干すぎた親切となってしまった所あり。まあ、SF短編なんて、極端なところアイデアの話を書くだけで台無しになったりするので、何も言わないかネタばれ上等、にならざるを得ないというのはありますが。
以下、作品個々の感想。
◆商人と錬金術師の門 (テッド・チャン
ヒューゴー賞ネビュラ賞、ダブルクラウン作品。作者は、現役ではグレッグ・イーガンと並び称されているそうですが、初読。ついでに告白すると、グレッグ・イーガンもまだ読んだ事がありません。
アラビアン・ナイト的な世界観を背景にした、時間移動ネタ。いい話。SF的アイデアを盛り込んだ小説作品、としては非常にレベルが高い、ですが、個人的にSFに求めているものとはちょっと違いました。
◆限りなき夏 (クリストファー・プリースト
時間の陥穽に囚われた男女の物語。ロマンスもの直球で、あまりピンとこず。
◆彼らの生涯の最愛の時 (イアン・ワトスン&ロベルト・クアリア)
最愛の人を取り戻す為に、一人の男が辿り着いた、とんでもタイムトラベルもの。タイムトラベルの方法というか場所というかが、前代未聞で、その後の出来事も含めて凄い馬鹿っぽさ。しかし、とんでもながら、しっかりタイムトラベルの因果の巡りが書き込まれたりしていて、作品としては意外と筋が通っていたりします。
アンソロジーなので、こういうお遊びも必要かな、みたいな一本。
◆去りにし日々の光 (ボブ・ショウ)
光が通り抜けるのに物凄く時間がかかる為、実際よりも過去の映像がその表面に映し出される新発明、スロー・ガラス。例えば作ったばかりのスロー・ガラスを1年間、海を一望できる場所に置いておけば、そのガラスを大都市のビルの窓に填め込んでも、1年の間は移り変わる四季の海の情景を都市に居ながら満喫する事ができる……。
そんなスロー・ガラスの産地を、倦怠期の夫婦がたまたま訪れて……という、しんみりとした名編。
◆時の鳥 (ジョージ・アレック・エフィンジャー
高額ではあるものの、過去への時間旅行がある程度に一般化した社会、主人公の青年も過去への観光へ赴くのだが、そこでは思いがけない事態が待ち受けていて……過去旅行ものを、一ひねりした話。アイデアをもとに想像を膨らませていくと楽しい気はするのですが、一本の作品としては、今ひとつ。ただ本来は長編の一部だったという事で、アイデアの核心に迫っていくような物語だと面白いかも。
◆世界の終わりを見にいったとき (ロバート・シルヴァーバーグ
未来――しかも、世界の終末、の観光旅行がブームになっている世界の物語。ブラックジョーク的な作品。
◆昨日は月曜日だった (シオドア・スタージョン
ある朝、目が醒めると“水曜日になっていた”。“昨日は月曜日だった”筈で、ならば“火曜日はどこにいった”のか。そんな不思議な世界の隙間に彷徨い込んでしまった男を描く、小気味良い短編。
オチが秀逸。
◆旅人の憩い (デイヴィッド・I・マッスン)
北へ向かうにつれて、時間が<集速>していく世界。時の流れるスピードが頂点に達する<境界>では、その向こう側に居る<敵>との戦争が長く続いていた。軍務を終えた主人公は、緩やかな時間の流れへと帰っていくのだが……。
傑作。
そもそもこの作品自体が、作者の至高の一編が各種アンソロジーに収録される事でSF史に名を刻む、というパターン(他の有名所では「冷たい方程式」とか)であるらしく、傑作の誉れ高い作品だそうですが、納得の一本。こういう出会いがあるから、SFはやめられません。
◆いまひとたびの (H・ビーム・パイパー)
戦争で爆撃に巻き込まれ、意識を失った主人公が目を覚ますと……なんというか、いかにも、40年代といった作品。
◆12:01PM (リチャード・A・ルポフ)
12:01PMから、1時間を繰り返す男。果たしてその理由は、そして男が辿る運命は……。なかなか面白かったです。中学生の時などに読んでいたら、たぶん、ちょっとしたトラウマになりそうな話。
◆しばし天の祝福より遠ざかり…… (ソムトウ・スチャリトクル)
ある理由により、同じ一日を、全く同じように繰り返す事を強いられた人類……ダイナミックな、時間ループもの。
◆夕方、はやく (イアン・ワトスン
説明不能(笑) 内容書いた途端にネタばれになる類。割とお気に入り。
◆ここがウィネトカなら、きみはジュディ (F・M・バズビイ)
人生を、飛び飛びに生きる男(意識と肉体の年齢が一致せず、しかも肉体の方は行きつ戻りつする)の物語。
このアンソロジーをつくるに際して、表題作として真っ先に思い浮かんだというだけに、まずタイトルが絶品。翻訳作品ははしばしば、原題における作家的センスと、邦題における翻訳家のセンスが、時に見事な化学反応を起こして、通常の日本語の流れから生まれにくい傑作タイトルが生まれる事がありますが(そしてその筋の人達によってオマージュ的にパロディされる)、その一つといっていいでしょう。ちなみに原題は、「IF THIS IS WINNETKA,YOU MUST BE JUDY」。
内容も、ランダム再生のように人生を生きる男、というアイデアがうまく処理されていて秀逸。
収録作の中で、お気に入りは「去りにし日々の光」「旅人の憩い」「12:01PM」「夕方、はやく」「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」といった辺り。時間テーマの名品と言われているものは、ロマンスものが多いですが、好みとしては、馬鹿っぽいネタの方が好きなのかもしれない。お気に入りとはまた別に、傾向として。