はてなダイアリーのサービス終了にともなう、旧「ものかきの繰り言」の記事保管用ブログ。また、旧ダイアリー記事にアクセスされた場合、こちらにリダイレクトされています。旧ダイアリーからインポートしたそのままの状態の為、過去記事は読みやすいように徐々に手直し予定。
 現在活動中のブログはこちら→ 〔ものかきの繰り言2023〕
 特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)

『海底牧場』(アーサー・C・クラーク)、読了

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)


人類が既にその領域を金星までも伸ばしていた21世紀、彼等はまた、地球上の広大な海洋資源の新たな活用方法も見出していた。その一つが、主に超音波の柵を用いる事によってクジラの回遊ルートを誘導し、多くの食肉や油を確保する、牧鯨事業であった。ある過去の事件から、望まぬ形でその事業に従事する事になったウォールター・フランクリンは、一級監視員ドン・バーレイの指導の元、監視員として必要な訓練を積んでいく中で、そこに自分の新たな人生を切り開く事を決意していく……。
食糧問題解決の一助として、鯨を牧畜として扱う時代、この事業に携わる事になった一人の男の半生の物語。
回遊ルートを意図的に設定する事で鯨に豊富なプランクトンの漁場を与え牧鯨するというスケール感、人類のまだ踏破しえぬ深海に潜む謎、科学的な精緻さとSF的イマジネーションに基づいた美しい海底の描写、そして浮かび上がる技術と科学の行き着く先は何かという問いかけ、定評のある作品ではありますが、クラークの筆冴え渡る傑作。
クラークの長編は、作品の主題となっているもの以外に、クラークの持つ大きな幾つかのテーマ性といったものがしばしば顔を出し、時にそれが物語を散漫にしてしまう事があるのですが、今作では主題として伸びた一本の線と、それと反対側に伸びた線、そして終盤に顔を出す横からの線がクライマックスで絶妙に重なり合って、素晴らしかった。