はてなダイアリーのサービス終了にともなう、旧「ものかきの繰り言」の記事保管用ブログ。また、旧ダイアリー記事にアクセスされた場合、こちらにリダイレクトされています。旧ダイアリーからインポートしたそのままの状態の為、過去記事は読みやすいように徐々に手直し予定。
 現在活動中のブログはこちら→ 〔ものかきの繰り言2023〕
 特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)

『飛べ!イサミ』における監督(佐藤竜雄)と総監督(杉井ギサブロー)の関係とお仕事

モーレツ宇宙海賊』(監督)と、輪廻のラグランジェ』(総監督)が、新年スタートで同時期に放映されている(制作時期はずれているそうですが)佐藤竜雄の、監督デビュー作『飛べ!イサミ』(NHK教育)における、総監督(杉井ギサブロー)との関係性と仕事について&『イサミ』制作裏話。
以下、『飛べ!イサミ』DVD−BOX付属ブックレットインタビュー(2003年後半頃収録か)より、書き起こすのは大変なので、箇条書きで抜粋しています。
総監督:杉井ギサブロー*1

  • 『イサミ』の元になったのは、脚本家の高屋敷(英夫)君や金春(智子)さんがNHKで進めていた企画。
  • 自分は本来はNHKで別の作品の企画をやっていたが、それが棚上げになってしまった為、そちらの企画に参加する事になった。
  • 当初の雰囲気は『セーラームーン』的?な当時の流行を意識した作品世界だったが、「NHKでやるなら今っぽい作風でなくてもいいのでは?」と提案。
  • 「せめてTVのブラウン管の中だけでも子供たちが遊ぶ秘密のアジトみたいなものを作ってあげたいね、というのがそもそもの出発点なんです」「言ってみればレトロな、懐かしい時代を、今を舞台に新撰組の子孫たちを主人公にして描きましょうと」
  • 今の子供向けの番組として、テンポよく楽しく見せないと、という事で竜ちゃん(=佐藤竜雄)の出番。
  • 僕らの世代だと『少年探偵団』的なものを、竜ちゃんが今の子供に感覚的に合う様に、工夫してくれた。
  • シリーズ構成の高屋敷君と金春さんが大きな流れを作って、自分は世界観を見て、竜ちゃんが監督として出来るだけテンポのいい、子供が見て面白い演出をするとうコンビネーションが上手くいったのではないかと思う。
  • 後半は別作品(『ストリートファイター2V』)でバタバタしてしまい、「竜ちゃん、任せた!」みたいになってしまった。
  • かえって竜ちゃんは「杉井のオヤジがいないんだったらバンバン行くぞ〜」みたいに思ったかもしれない(笑)
  • 皆で集まって世界観などについては結構話し合ったが、竜ちゃんが演出で飛ばしてしまう。ただし、文芸が太い骨を作って演出家が肉付けでどんどん飛んでいくというのが作品造りで一番いいと思っているので、設定会議で世界観を作りつつ、密かに竜ちゃんには「飛べ!」と囁いていた。
  • 「大きな流れを高屋敷君と金春さんが作って、竜ちゃんが肉付けしていく中で「もう一味欲しいな」って新しい天狗を出してみたりして(笑)」
  • 「僕は一度もコンテを読んでません」
  • 世界観設定と、OPのコンテは切った。
  • 「子供向けの作品でも、伝えるべきメッセージとかテーマとか、それらは大人の価値観で、大人によるものでいいと思っているんですよ。わざわざ子供に合わせて軽くて簡単なものにしようとしちゃいけないと。世の中の矛盾とか、大人の悩みなんかをそのまま大人の言葉で子供に伝えるというのはナンセンスですけど(笑)」
  • 「年齢層の高いファン向けのものよりも、幼年〜低年齢向けの作品を創る方が真剣に、というか……エネルギーがいるんですよね。内容を弛めるのはイヤだし、一方で語り口は柔らかくして行かなきゃならない。非常にテクニックが要るんですよ」
  • 竜ちゃんの飛び具合が面白かった。「アニメ界にはこういう奴もいたんだ」と。
  • 打ち上げの時に竜ちゃんと「杉井さんの掌の上で動いていただけですよ」「ウソつけ!」と、冗談でそんな会話をかわした覚えあり。

監督:佐藤竜雄

  • 企画の推移:少女戦隊もの→幼稚園児を主人公→行動範囲が狭くなりすぎるので小学生に
  • 杉井さんが上でまとめてくれるので、現場監督でやってくれという触れ込みだった。
  • グループ・タックの社長命令で杉井さんが『スト2V』に専念する事になり、第1話のコンテをやる事に。
  • 杉井さんが「やっぱり巨大な悪がいないとダメだな」と言い出して、黒天狗党を出す事に。実は事前に書き上げられていた5話までの段階では、黒天狗党という設定自体が存在していなかった。その為、第1話のアバンタイトルなどは、全て後付け。
  • 杉井さんとは、『イサミ』の立ち上げで初めて会った。後に聞いた所によると、当初、進行が滞りまくってパニック寸前になっている姿に、「佐藤くんって人、大丈夫なの?」と言われていたらしい。
  • 杉井さんが文芸方面を抑えて、「色々なところから出る意見は僕がシャットアウトするから、佐藤くんはコンテ・チェックとかアフレコ〜ダビングに専念してよ」と言われていたが、蓋を開けてみたらほぼ丸投げ状態だった。
  • 天狗党と花丘博士の因縁について理由を考えなくてはいけない事になり、杉井「博士は何かすごい発明をしたんだよ!」佐藤「でも博士、出てこないじゃないですか」杉井「とりあえず出しときゃいいよ」という事で、博士は第2話の最後で木の上に立たせて直接は絡まないけど見守っている……という事になった。
  • 2クール目に向けてスタッフで合宿、黒天狗党の目的、「世界征服」という事に決まる。
  • NHKから「もっと派手にしてくれ」、杉井さんから「子供が飽きちゃうから早めに出してよ」と言われ、からくり天狗の登場が予定より早まる。
  • 「第2クールまでにはイサミたちを変身させて下さい」とNHKから言われる。変身ヒーローという企画コンセプトは、「なくなったと思ってたら、NHKさんはあきらめていなかった(笑)」
  • 「あのころがあるから今の僕があるというか、あのくらい理不尽な進行で追い詰められてみないと、真に良い作品はできないのかな……。最近、ふとそんなことを思うことがあって、その度に「イカン、イカン!」と思い直してるんですけどね(笑)」
  • 「あのころの僕は、「トンチと勇気だ!」とか言ってました」
  • 黒天狗が宇宙人とか、先生がくノ一とかの設定は勝手に作った。
  • 「杉井さんも「先生がくノ一っていうのは良いかもしれないね」なんて言ってましたけど、そのころの杉井さんは、もう完璧に『スト2V』の人ですからね。たまに現れては、そういうこと言って去っていくわけです(笑)」
  • 「杉井さんと「シャドルーと黒天狗党って似てますよね」なんて話もしていました。「黒天狗党は、ルミノタイトを使って何をするんだろうね? シャドルーも力持ちばっかり集めて、どうするんだろう?」「杉井さん、格闘アニメでそれ言っちゃいけません」って(笑)」
  • 黒天狗四天王も、設定メモとラフを描いて勝手に作った。
  • こんな感じで、と毛利さん(毛利和明。キャラクターデザイン)に見せたところ、「本当にコレで良いんですか?」と唖然とされた。
  • 最初は、しんせん組が黒天狗党を倒すという予定だったが、4クール突入して、自分が最後の最後で変更。
  • 最終的にやろうかと思っていたロボット対決(後期OPにシルエットあり)は、スケジュールの都合もあり、スケールダウンして47話の、からくり天狗最終決戦に。
  • 最終盤は出入り禁止になるかと思うほど綱渡りの納品の連続だったが、「「初のオリジナルでこれだけ頑張ってくれたんだから良かったです」と、(NHKに)それなりの評価はしていただけたようです。まあ、怪作という扱いかもしれませんけど(笑)」
  • 終盤、予定より収録日程が押してしまい日高のり子(ソウシ役)が産休に入らざるを得なくなり、あらかじめソウシが喋りそうなセリフを全部考えて録りだめしておくという荒技を用いた。その為、実はラスト数話、ソウシは物語のキーになるセリフを全く喋っていない。
  • 自分にとって『イサミ』は、良い意味での“開き直り”を学んだ作品。
  • 「このあいだ、杉井さんにも「原点回帰で『イサミ』みたいな作品をやってよ」ってリクエストされてしまいました。いわく、「最近のアニメはみんな利口なんだよね。竜ちゃんみたいにバカなのを作れる人がいないんだよ」ってね(笑)」

佐藤竜雄は、6ページに渡るインタビューでこれ以外にも結構オープンに語っていて、とにかく4クールのアニメの制作現場が恐ろしすぎます(笑)
確かに『イサミ』は、構成云々というより、毎回のテンションの高さに引っ張られるタイプの作品ではありました、が。
たぶん杉井さんに、『ストリートファイター2V』について語ってもらったら、それはそれで凄い話が沢山出てくるんだろうなぁ……(^^;
しかし当初の企画であった『セーラームーン』的なものをイメージした変身少女戦隊ものをNHK教育で作ったとしたら、『プリキュア』を先取りしたような作品になっていたのかしら。

*1:1940年生まれ、虫プロ出身のベテラン。主な作品に『タッチ』『銀河鉄道の夜』など