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大トミノ祭:『ダイターン3』について考えたい事

なぜ万丈は、ときどき裸ジャケットなのか。
◆第29話「舞えよ白鳥!わが胸に」
サメ型メカに襲われるアイススケート選手・アイサーを助けた万丈。しかしそれは、彼女の姉であり、一心同体のメガノイド・コマンダーであるリサーによる罠だった。事件をきっかけに急接近し、逢い引きの呼び出しに応じた万丈を始末するように命令されるアイサー。しかし彼女は万丈への想いから拒否。二人の前にメガボーグとなったリサーが姿を見せる……。
たぶん、『007 ロシアより愛をこめて』あたりを下敷きにしたエピソード。万丈とゲストヒロインの関係性が、なんとなくジェームズ・ボンドとボンドガールっぽい。スノーモービルによる雪上戦闘や、万丈とアイサーによるフィギュアペア的な氷上アクションなどがテンポよく展開し、動きの面でも楽しめる秀逸回。
ゲストキャラであり正体はメガノイドであるアイサーと万丈が何となくいい感じになるのですが、基本的に万丈は本気でないので、どうなんだろうというか、万丈は、遊びの女にしかデレデレしないので、物凄くタチが悪い。
ラストは、姉妹のメガボーグ(同型の妹メガボーグは姉メガボーグに制御されているという設定)が合体して超巨大メガボーグになるという新機軸。全体通してBGMを抑えめにつけた上で、最後のサンアタック炸裂シーンで、「白鳥の湖」がかかるという、好演出。
◆第30話「ルシアンの木馬」
本物の馬を用いた女騎兵軍団で襲ってくるアナクロコマンダー・マゾニー。メガノイドを好まないと言い、生身での一騎打ちにこだわる彼女だが、万丈はそれに付き合うのを良しとしない。
「しかしわからないなぁ。君の戦い方というか、襲い方がね」
「メガノイド風を吹かせた襲い方というのが、嫌いなタチなのでね」
「はははははっ。ま、人間にも人間嫌いがいるから、わかるけど」
(中略)
「万丈、私の肌は人間と同じです。素手でおまえを倒してみせるといった気持ちは、今も変わってはいない」
「ふっ。しかし、君がメガノイドである限り、僕は手段を選びはしない!」
「ぬぅ……。おまえは……無慈悲な男よ。憎むぞ万丈」
「おうさ。メガノイドに心を売ったコマンダーに、なんの慈悲がかけられるか」
主人公とは思えない、酷い言われよう(笑)
女ばかりのソルジャー編成にこだわるマゾニー。万丈にやられた騎兵隊の補充として、さらってストックしてある女達の中から、ルシアンという女を改造に選び出す。反攻するルシアンを殴る蹴るし、その反抗心を喜ぶサディスティックだけどマゾニー。そこへ、コロスからの通信が入る。
コマンダー・マゾニー! まだそのような事をやっているのですか」
「女は苛め抜いた方が強いソルジャーに生まれ変わります」
「女にばかりこだわるでない。せっかくとらえた男達を、なぜ逃がし捨てるのです」
「男は権力を競います。恐怖におののく女をソルジャーにすれば」
「黙りなさい。どこまで私に逆らえば気がすむのですか」
コロスが万丈を誉めた事に対して万丈が喜んでいたのを伝えて反応を楽しむなど、コロスとの仲は険悪。
今回は、このコマンダー・マゾニーのキャラクターが立っていて面白いです。
ダイターンすら弾き返すバリアで覆われたマゾニーの秘密基地へ潜入する為、囮の客船を仕立てて一般人の女性に変装、故意にマゾニーに捕まる万丈とアシスタント達(万丈、トッポ、女装)。潜入時のトラブルでアシスタント達が捕まってしまうが、一人抜け出した万丈はマッハアタッカーで空襲をかける。その前に姿を見せる、マゾニーの巨大木馬メカ軍団。
「ダイタァーーーン、カァムヒヤ!」
「万丈め……少々大きなロボットが出てくれば、すぐにダイターン3を呼ぶ。いったい、戦士としてのプライドは、かけらも持っていないのか」
きついツッコミが入りました。
木馬メカを撃破し、マゾニーを見下ろすダイターン3。
「今のおまえの立場は、ダイターンの指一つで潰されるのだぞ」
「やってもよいわ。私の望みである、肉弾の一騎打ちも出来ぬ弱虫めが」
「なに?!」
「弱虫は、メカの力を借りて私を潰すことしか、出来ないのだろうが。おまえを軽蔑しながら、ダイターンのその指で潰されてやるよ、坊や」
(中略)
「お潰しよ、坊や。この私を」
「怒らせたなコマンダー! 潰すぞ!」
「軽蔑してやるよ、坊や」
マゾニーの頭上にダイターンの指を伸ばす万丈。しかしマゾニーの動じぬ姿と、一騎打ちにこだわる彼女に興味を抱いた事から、彼女の申し出を受けてダイターンを降りる。なぜ一騎打ちにこだわるのかと万丈の問いかけに、メガノイドが嫌いな自分は、万丈を倒した後でコロスを倒す、と告げるマゾニー。だが決闘に破れたマゾニーは、部下が時間を稼いでいる間に、メガボーグへと変身する。
「ふふふっ、弱いなマゾニー。己からメガボーグになり、約束を破るとはな」
「黙れ! 戦いには、生死あるのみ!」
「さがれぃ、メガノイドめ! 君が如何に肉弾戦にこだわろうが、無駄な事。メガノイドゆえの悪い癖は、直りはせん!」
その頃、万丈の基地襲撃によりソルジャーへの改造が中断されたルシアンは、肉体はソルジャーにされてしまったものの人間の記憶と心を持ったままであった事から、反攻し人質となっていたレイカ達を逃すと、木馬を操ってマゾニーへ特攻。マゾニーに返り討ちにされるが、その隙をついた万丈のサンアタックにより、マゾニーも爆散する。
己の心すら裏切ってメガノイドにされた者達……その姿に、万丈はコロスとドン・ザウサーへの怒りを新たにするのであった。
ここまで触れずにきた、概ね自分の意志でメガノイドとなったコマンダーよりも、さらわれて強制的に改造されたソルジャーの方がむしろ悲惨、という所に切り込んだ1本。この辺りは踏み込みすぎると、敵も味方も事情がありすぎてエンターテイメントが成立しなくなってしまう、という危険性を伴う部分なのですが、ソルジャーだけではなくコマンダー側にも何らかの事情を匂わせる――しかし今ひとつ同情できない人物として描く――事で、全体の作劇としては上手く濁しました。
あとルシアンの改造シーンにおいて、ソルジャーにする際に人間の記憶を消去している事を説明しており、作中のソルジャーは“もはや手遅れの存在”という事で、万丈の行為に関しては一定のエクスキューズをつけています。
そんな悲劇的な構図の中でも、他者と心を通わせる事の出来る存在は居る(メガノイド的には欠陥品)、としている所が、今作の世界観を重厚にしている部分。
ソルジャーの体に改造されてしまったが人間の心を残した女、メガノイドを嫌い生身の戦いにこだわるも土壇場でメガボーグの力に頼るコマンダー、果たしてどちらがより“人間らしい”のか? 人間性とは何か? そして戦いの意味とは何か? ここに来て、メガノイドが己の欲望という点については非常に人間味が豊か、というここまでのコマンダー像の蓄積が効いてきて、破嵐万丈という主人公の相対化も含め、富野監督の根っこにあるテーマ性も盛り込んだ意欲的なエピソード。
また力の入ったシナリオにふさわしく、屈折した女性/男性観、万丈へのねじれたこだわり、コロスへの女性的な敵愾心、とコマンダーのキャラクターが秀逸。思わずやりとりをたくさん収録してしまいましたが、面白かったです。サブタイトル詐欺だったけど(笑) 実はルシアンの出番はあまりない。