◆第9話「危険な家族ごっこ」◆ (監督:箕輪雅夫 脚本:扇澤延男)
タレコミにより宝石強盗団の大物・堂島のアジトに踏み込んだエクシードラフトだったが、アジトはもぬけの殻。だがそこで3人は、腹を刺された堂島の部下を発見する。病院に運び込んだ男の話によると、強盗団で仲間割れが発生し、長井という前科者が大量の宝石を持ち逃げしたのだという……堂島は必ず、この長井を捕まえようとする筈。エクシードラフトは堂島の確保の為にも、長井の行方を追う。
その頃、長井(演ずるは後に妖怪軍団を率いる事になる遠藤憲一)は小学生が一人で留守番をしていた小田切という家に潜んでいた。小田切家は父は研究者、母は教育評論家として忙しく働いており、一人息子のマモルが病気で学校を休んでも、二人とも仕事へ行ってしまうような家庭。マモルにとって家族と言えるのは、父が作った家政婦ロボット・キーパーだけであった。
キーパーは、人間大の着ぐるみロボット。掃除機のヘッド部分が左手にまんま付いていたり見た目は今ひとつよろしくないものの、コミュニケーション能力も高く、かなりのハイテク。色が乳白色なのは、白物家電の一種という事なのか。
悪党ではあるが非情ではなく、どこか脇の甘い長井は、そんなマモルにオーストラリアへの高飛びの予定を語る。
「連れてってやるんだ、こいつらを」
と懐から取り出した小さな二つの袋……それは、亡き妻子の遺骨であった。ところが、一緒に持っていた筈のロケットを落とした事に気付く長井。くしくも小田切家の玄関先の植え込みに落ちていたロケットを見つけた堂島配下が小田切家に突入。長井は慌てて車で逃げ出して追っ手を振り切るが(箱乗りで射撃してくる追っ手がとてもアクティブ)……なんと後部座席にいつの間にかマモルとキーパーが乗り込んでいた!
「連れてってほしいんだ、僕もオーストラリアに!」
実は、かつて小田切家ではオーストラリアへの移住計画が持ち上がったが、母の心変わりで断念。仕事、仕事で自分を見てくれない両親への嫌悪から、いつしかマモルにとってオーストラリアは夢の国となっていたのだった。
逃亡の足手まといだ、と潜り込んだ倉庫でマモルとキーパーを縛りあげる長井だが、なら足手まといにならない所を見せてやろう……とマモルの指示を受けたキーパーが、内蔵されたハサミでロープを切って脱出すると、コンビニで食料品を盗んで帰ってくる。これに毒気を抜かれた長井は、夕方の船を待つまでの時間潰しもあってか、二人を自由にする。
キーパー、映像上は念動でハサミを動かしており、どれだけ高性能なのか、というか息子の為に個人用にこんなロボットを作ってしまう小田切父、危険人物。
長井が妻子の遺骨を持ってオーストラリアを目指すのには、ある理由があった。かつて真っ当なサラリーマンだった長井は、妻子をオーストラリア旅行へ連れて行く約束をしていたが、仕事にかまけて伸ばし伸ばしにしている内に、4年前、妻子は交通事故で死亡。遺された長井は道を踏み外し、踏み外しながらも今、その約束を果たそうとしているのだった。
マモルの境遇と、かつての自分の人生を重ね合わせる長井……。
その頃、コンビニの防犯カメラにキーパーが写っていた事から、エクシードラフト本部にやってくる小田切両親。きつい感じの母親に、マモルが長井の人質になっている件について、責任の所在を明確にするように言われてしまうエクシードラフト(笑)
あー、『ソルブレイン』に一度ぐらい、こーいう人が欲しかったなぁ(笑)
キーパーが盗みに入ったコンビニ近く、海岸エリアへ向かうエクシードラフト……本部を出る直前、耕作は足を止める。
「病気で学校休んだ日ぐらい、一緒に家にいてやれよお母さん」
それは小田切母を激昂させるだけであったが、母親を早くに亡くした耕作は、わかっていてもそれを言わずには居られなかった……と「トラック母ちゃん」の回の設定を拾ったのは良かった。……いやまあ、これぐらいは普通の仕事ではありますが、なにぶん前作が、キャラクターの連続性をほぼ全く拾わないという作品だったので、早い内に連続性を明確に見せてくれたのは良かったです。扇澤さん以外の人も拾ってくれないと、全体としては安心できないですが(^^;
「子供を失う悲しみを知ってる奴が、子供を人質になんかとるわけねえよ」
海岸エリアを捜索しながら、やるせなくたそがれる耕作。
彼は長井の行方を追っている際にその経歴を知った事から、長井がマモルを無理矢理人質にしているわけではないと考えていた。
隊長もまた、コンビニに強盗に入ったキーパーがマモルについて何も伝えなかった事から、マモルは人質に取られたのではなく、自らの意思で長井と一緒に居るのだと確信していた。
「たとえ自分の意思で動いていようと、我々は守くんを長井から奪い返さなけりゃならないんだ」
「どうして!」
「そこまで言わせるな、俺に!」
いやぁ、格好いいなぁ、隊長。
語りを要求されるヒーローであり、しっかりと部下を叱るキャラクターでもあるが、しかし口に出して言っちゃあいけない事がある、というスタンスが素敵。
ちゃんと、竜馬さんと違う格好良さになっているのが、素晴らしい。
エクシードラフトの小田切母への評価の低さは、全員やや感情的すぎるきらいはありますが(笑)
一方、船の入港を待つ長井、マモル、キーパーの3人はすっかりくつろいでいた。長井が父、キーパーが母、マモルが息子、かりそめの家族写真のフレームにおさまる3人。どうしても一緒にオーストラリアへ行きたいと決意を曲げないマモルの「(両親を)捨てるんじゃないよ、とっくの昔に僕が捨てられてたんだ」という言葉に、マモルを連れて行く決意を固める長井。
家族を失った男と、
家族を見失った子供と、
家族代わりのロボットの
それは束の間の家族ごっこ。
だが、いよいよ船が入港してきたその時、3人は遂に堂島一味に見つかってしまう。銃を手に乗り込んでくるちんぴら達、「坊主、この裏から逃げろ、いいな」と自分が囮になってマモルを逃がそうとする長井だが、マモルはそれを拒否。追い詰められる3人だが、そこへ、キーパーのコンピューター波長をシムに探知させる事で潜伏場所を特定したエクシードラフトが突貫。
それを見て、算を乱して逃げ出すちんぴら達。
まあ、拳銃が一切効かないあんなの(時間制限のないファイヤーが3体居るようなものである)が、3人で突撃してきたら確かに怖い。
堂島一味はあっさりと確保され、パトカーで現場にやってくる小田切両親。
「坊主、遊びの時間は終わりだ」
それを見た長井は、自分を慕うマモルを敢えて締め上げ、拳銃を突きつけて人質に取ったふりを装いながら彼等の前に姿を見せる。
「キーパー、俺を突き飛ばして逃げろ」
声を潜めて背後のキーパーに、拳銃を奪ってマモルを助けるようにと指示を出した長井は、嫌がるマモルにも両親の元へ戻るように説得する。
ここで、長井とキーパー・マモルの会話の合間に、長井を確保しようとするわけでもなく、棒立ちのエクシードラフト3人のアップを挟む事で、エクシードラフトの面々にこの一連のひそひそ会話が聞こえている(のだろう)事を、台詞なしで表現した演出は秀逸。
「いいか、泣きながらお袋の懐に飛び込むんだ。それで、全てうまくいく」
「やだよ、そんなの」
「あばよ、楽しかったぜ、家族ごっこ」
葛藤の末、長井に体当たりし、マモルを抱えて両親の元へ走るキーパー。その腕の中でマモルは長井へ向けて叫び続ける。銃と人質を失って両手をあげる長井をエクシードラフトは逮捕し、「おじさーーーん!」というマモルの叫びだけが響くのであった。
長井を護送するパトカーの中で、彼に妻子の遺骨を渡す隼人。
受け取った長井の一礼に、隼人はただ、黙って微笑む。
そして長井は、出航していく船を見る。
オーストラリアへ自分と“家族”を連れて行く筈だった、船を……
同じ船を見送る小田切親子と、耕作。
「ほっぽとくと、子供は船に乗っちまうんだぜ。一度港を離れたら、じたばたしても手遅れなんだ」
「マモル……」
立ち去る耕作。
船を見つめ続ける、マモルとキーパー。
そして少し離れた所に、小田切両親。
ナレーション「――幻の船が、港を離れていった。少年の、本当に乗るべき船は、これから作られる。家族という名の、船が」
と、家族の再生を暗示して終了。
出だしはバタバタしていましたが、後半の盛り上がりはお見事。
長井の当初のちぐはぐな感じが、終盤にぴたっと人格にはまっていく感じは、仮に遠藤憲一が狙って演じていたのだとしたら、凄いなぁ。
その長井かキーパーが、守をかばって死ぬ(壊れる)、みたいな展開にしなかったのも良かったです。また、この手の話は犯人役を、運が悪くて道を踏み外したけど実は善人、とかにしがちですが、長井が悪党である事には自覚的なところも良かった。
予告から期待通りの扇澤脚本、そして期待通りの面白さ。
いやーーー、実に良かった。
90年前後の扇澤脚本のアベレージの高さは、東映特撮史において、語り継ぎたいレベル。
まあ私も、今回この配信のお陰で知った脚本家ではありますが(^^;
メタルヒーローシリーズに『メタルダー』からずっと参加しているものの、メインライターとしての参加が無いのが、ネームバリューが今ひとつな所以でしょうか。これだけ書ける人なら、メインライターでという話も一度ぐらいあったかと思うのですが、それが無いのは数を書けないタイプなのか、出来上がった世界観の中で書くのは得意だけど企画立ち上げとかには向かないタイプだったのかなぁ……。
本当に、90年代に扇澤戦隊は見たかった。
今からでも、扇澤ライダーは見たい。
まあ若干、対象年齢どこだよ?! という傾向はありますけど(笑)
だから、今ならライダー。
今作も、扇澤脚本は、楽しみに出来そうです。
次回、
レッダーvsブルース&キース!
「想像を絶する、禁断の戦いが始まった!」
……んー、2週ぐらい前にも、やっていたよーな。
隊長が部下に跳び蹴り、決めていたよーな。
◆第10話「隼人の一番長い日」◆ (監督:箕輪雅夫 脚本:酒井直行)
勝の頼みで、心臓の病気で入院し、手術を翌日に控える正彦少年のもとへ見舞いに行くエクシードラフト。エクシードラフト大好きの正彦は大喜びするが、翌日に控えた手術を嫌がり、母親や医者、はてはエクシードラフトにまで
「みんなして僕を騙そうとしている」
と苛立ちをぶつける。その様子に、
「甘えるんじゃない!」
と隊長、一喝。
キレた、隊長、キレた(笑)
うん、隊長は、相手があんまりだと、部下だろうが子供だろうが、キレるのがいいところ(笑)
「手術が怖くて逃げているだけの、弱虫秒という病気にかかってるだけの病人だ」
と正彦に勇気を持って手術を受けるように諭す隼人だったが、
「隼人さんなんか大っ嫌いだ」
と面と向かって言われて、ちょっとショック(笑)
その夜……
「嫌だ、手術なんて、嫌だ……」
明日なんて来なければいい、と病室のベッドで苦悶する正彦。
「耕作達の言うように、少し、強く言い過ぎたかもしれない……しかしわかってくれ、正彦くん……」
自宅でちょっぴり反省する隊長。
しかし隊長、どうして深夜12時にジャケット姿でベッドに転がっているのか(笑)
もやもやした世界の中で、日付が変わろうとする柱時計を、叩き壊す正彦。
そして翌日……
昨日の事が気になって、手術が終わった頃の時間に病院に向かった隼人は、壊れた時計を見る。そして正彦の病室に入ろうとするが、何故か201号室は立ち入り禁止。拳に呼ばれて202号室に入ると、そこにはなぜかベッドの上で跳ね回る正彦の姿が。正彦は手術を受けた後ではないのか……? ところが、「手術は明日でしょ」と部下二人。
今日は4月4日……? と混乱する隼人に向けて、「実装してみせて」と昨日と同じ無茶を言ってくる正彦。それは無理だと隼人が告げると、「ならここで事件事故が起こればいい」という正彦の言葉に応えるかのように、突然、先日逮捕した筈の連続ビル爆破犯人タケダが、ダイナマイトを手に病院の前に現れる。
ダイナマイトの爆風を浴びると変身している、という凄くファンタジーな実装をしたレッダー、ブルース、キースは、タケダを確保。ところがその途端、タケダもトライジャケットも、まるで舞台の役目は終わった、と言わんばかりに消え失せてしまう。
「いったい、なにがどうなっているんだ……?」
奇妙な出来事の数々に、201号室へと向かう隼人。そこで見たのは、ベッドで眠り続ける正彦の姿だった!
そして現れた“もうひとりの正彦”が、念動力で隼人を病室の外へと吹き飛ばす。
「4月4日が永遠に続くこの世界に、ずっとずっと住むんだからね」
それは手術を拒む正彦が作り出した幻影なのか異世界なのか……
「こんな世界に逃げ込んでも、君の心臓は絶対に治りはしないんだぞ!」
と勇気を持って手術を受けるんだ、と正彦を説得する隼人は病室のドアを開けて無理にでも正彦を目覚めさせようとするが、その前に立ちはだかるのは、ブルースとキース。攻撃を受けた隼人は外の車で「実装」し、今ここに、レッダーとブルース、キースの対決が始まる!
2対1の激しい立ち回りですが……エクシードラフトって大抵のちんぴら達との戦闘力の差が激しいので、本格的な直接戦闘って、ほぼ初めてに近いレベルのような……それが、これで、良いのだろうか……(笑)
むしろ、直接的な立ち回りが設定上やりにくいので、それで作った話と見るべきなのか。
前にも一度やりましたが、レッダーのスーツで飛び回し蹴りする中の人、凄い。トライジャケットが見た目より軽いのかもしれませんが、それにしても、凄い。
二人の攻撃にさすがに苦戦する隊長だったが、
「ブルース、キース、悪く思うなよ」
と言ったと思ったら、飛び道具で瞬殺。
この現実主義が堪りません(笑)
夢の世界を終わらせるべく、正彦の元へ向かうレッダー。シャドウ正彦の激しい念動攻撃にヘルメットが吹き飛ぶが、それでも隼人は前進し続け、説得を諦めない。
「君は永遠に弱虫で平気なのか? 平気なのか?」
復活したブルースとキース、そしてレッダーの傷ついた姿に、自分の好きだったもの、本当の勇気を見つめ直したシャドウ正彦は、攻撃を止める。ドアを開けようとした隼人を「待って、僕が、僕が起こすよ」と制し、ペルソナは一つとなるのだった……。
そして、今度こそ翌日、4/5……正彦はエクシードラフトの面々に見送られ、勇気を持って手術室へと向かうのであった。
一切の超科学アイテムが出てこなかった事に加え、隼人が囚われた世界に関して、劇中での説明を全くつけなかった、という点で《レスキューシリーズ》というくくりで見ても、珍しいエピソード。
もっとも、超能力が存在しているのはハッキリしているので、正彦の潜在的な超能力が、手術を前にした過度のストレスと隊長にキレられたショックで発動した、という所でしょうか。
隊長は途中で「俺たちみんなが囚われた」と言っていましたが、多分、現実からこの世界に引きずり込まれているのは、正彦と隊長だけだったのではないかと。
危うく植物状態の隊長が自宅ベッドでジャケット姿のまま発見されるという、エクシードラフト最大の危機になる所でした。
また、こういった関係者コネで個人を“特別扱い”するネタ(エクシードラフトによる病気の子供の見舞い)は、物語上のルールに無自覚に大穴を空けあけがちなのですが、姉(日向愛)が一線を守ろうとするシーンを入れた点は、評価したい。