◆第15話「翼をすてた天使」◆ (監督:簑輪雅夫 脚本:扇澤延男)
「私の名はエンジェル……といっても、私は天使ではありません。空も飛べない、この町工場で働く、ただの作業ロボットです」
そう語るのは、白を基調としたデザインの割とスマートな人間大ロボット……と、ロボットの語りからという一風変わった導入。
一見して大きくも特別儲かっているようでもないが、熟年の男二人と若い男二人で日々懸命に、しかし和気藹々と働いている、雰囲気のいい町工場……
「ここには、いつも笑い声があふれています。あの日私を拾ってくれた人達の、明るい笑い声が」
2ヶ月前、西村ロボット工学研究所が大爆発し、所長の西村博士も死亡。その研究所で開発され、ぼろぼろの姿で街を彷徨っていたエンジェルは、道で倒れた所を工場の人達に拾われたのであった。
帰る場所も行く当てもない……って、研究所の所有物だったり、博士の私的な財産だったり、差し押さえの対象だったりはしないのかロボット。この世界のロボットの扱いは、回が進めば進むほど、謎が深まるばかりです(笑)
そんなエンジェルの姿に、いかにも昔気質で人情に篤そうな社長が言葉をかける。
「おまえ、ここで一緒に働かねえか?」
「私には、なんの特殊能力もありません。エンジェル……天使という名を持ちながら、翼さえない。私は出来損ないなんです」
「だからどうしたよ?」
「俺たちもみんな出来損ないだよね」
「特におまえはな」
「言うなよはっきりぃ」
「出来損ないじゃない野郎がいるのかよ。みんな出来損ないよ。だからよってたかって助け合うんだろうが」
と、如何にも扇澤脚本なやりとりを経て、エンジェルは工場の一員となる事に。
なおこの町工場、東映怪人の声を数々あててきた二大ベテランとドラフトブルースと後の川崎省吾(『メガレンジャー』)が一緒に働いており、一皮剥くと悪の秘密結社という可能性を微妙に捨てきれません(笑)
「ここのみんなに拾われて、本当に私は幸せです」
特に際立った能力を持たないとはいえ、人間以上の腕力を持ち、性格も善良なエンジェルはすっかり工場の欠かせないメンバーとなって日々を送っていた。だが、そのエンジェルを見つめるセーラとマヤの姿があった……。
と、予告の時点で色々わかってはいるわけですが、善良なエンジェルの日常、にきちっと尺を裂いた上で落としにくる、というしっかりした展開。しかも問題は帯刀ではなくて、その後にラスボスが待ち受けている事であり、視聴者の中で、待ち受ける悲劇的展開に対する心の準備が急ピッチで進みます。
「エンジェルが見つかった?!」
帯刀は、亡くなった西村博士のお友達、と称してエンジェルと接触。実はエンジェルは、帯刀が博士に発注して作らせた、破壊工作用ロボットであった。
「殺戮と破壊。その為だけにこの世に生まれてきたんだ、おまえは。で、手始めに君に頼みたい仕事だが……」
「帰ります」
「あら? ぼくちんに背くと、大切な物をなくす事になるよ?」
「失うものなど、私にはない」
帯刀に背中を向けたまま、首だけ返して告げるこのカットが格好いい。
そしてまたこの時点では、「幸せ」とはいいながらもエンジェルがそれをまだ自分のものだと思っていない、というのがいい。
だが、次々と道路に突き飛ばされる工場の人達。幸い軽傷で済んだものの……
「物騒な世の中ですから、気をつけないと……一度あることは、二度も三度もあるっていうし」
ナースコスプレのセーラさん、エンジェルにぐさり。
「一度、だけだ……一度だけ、あの男の命令に従えば……!」
町工場の仲間達を守るため、帯刀の卑劣な脅迫に屈したエンジェルは、その命令で、帯刀コンツェルンの買収を断った西部重工へと突貫。
買収断った会社をロボットで襲撃しちゃうとか、そもそもそういう嫌がらせの為にロボット作らせたのかとか、金を持たせてはいけない大人を地で行く帯刀さん。
カタギに戻った元悪党が島抜けしてきた昔の仲間に脅されて悪事に手を染めざるを得なくなる、という、鉄板の時代劇展開の亜種なのですが、ここで成敗しに来るのが、話の通じないラスボスという事に視聴者の心が震えるという、正義の甘さの余地を期待させない、今作の特色を活かした構成が秀逸。
そして案の定、風を切るJPカード!
「ジャンパーソン・フォー・ジャスティス!」
「仕方なかったんだ……! 見逃してくれ!」
パニッシャーの登場に後ずさるエンジェルだったが、勿論、ジャスティスの辞書に「容赦」の二文字は無い。
「撃つな、撃つな、撃たないでくれぇ!」
その時、追い詰められたエンジェルの胸部が開き、内蔵火器が自動反撃。
「違う、撃つ気なんかなかったんだ!」
むしろ小悪党な台詞とともに、ますます怯えるエンジェルの背中に、今度は翼が開く。
「翼もあったのか……」
やたらに“エンジェル”と“翼”にこだわっていたエンジェル、自分の真の姿がちょっと嬉しかったのか、割と気持ちよさそうに飛んで、ジャンパーソンに飛び蹴り。そのまま逃走し、これで帯刀との関係もおしまいだ、と考えるが……勿論これで、お付き合いが終わる筈はない。
というかエンジェル、一回限りの仕事にするつもりだったら、覆面ぐらい被ろうな!
帯刀は町工場の人達を暗に人質として、引き続き自分の命令に従う事を要求し、崖っぷちに立たされるエンジェル。
ここで、4人の写った写真をマヤが拳銃で撃つ→写真に空いた銃痕の穴からエンジェルを覗く帯刀視点→帯刀を非難するエンジェル
というのは、帯刀のえぐみが出て、秀逸なカット。
その頃、帰ってこないエンジェルを心配する町工場を、ヤツが訪れていた。
「エンジェルというのはロボットか? そのロボットを探している」
「奴が何かやらかしたっていうのか?」
「どこへ行った」
「だからなんの用だって聞いてるんだ!」
「どこにいる!」
このラスボス感(笑)
エンジェルをかばう工員達に詰め寄られながらも、眉一つ動かさない(動かせないけど)のが、素敵。
裏口から入ってきてその光景を目撃したエンジェルは、子供が生まれる予定の同僚・耕作(仮)が「あいつは本物の天使だ」と言ってくれた事を喜びながらも、自分がここに居る事がその人達を巻き込んでいくという事実に思い悩む。いっそ逃げ出してしまえば……しかしそれでも、事態は好転しないだろう。
「何が天使なもんかっ! 逃げようが、あいつの命令通りに動こうが、どっちにしても俺は死神じゃないか!」
「やっとわかったようだな。おまえにはね、デストロイヤーとしての運命しか与えられてないの」
そこに現れ、エンジェルを嘲弄する帯刀。
「そう、おまえは黒い天使だ」
ここで帯刀を殺っちゃえば、万事解決するよーなしないよーな(笑)
「何もかも破壊する……俺は、俺は生まれながらの黒い天使なんだ!」
千々に乱れるエンジェル、ついに魔道へ。
若干、「俺の右手が疼く……みんな、離れろ!」的なものを感じないでもありませんが(笑)
善良そうなロボットが実は悪の目的で誕生した存在だった……というのはここまでにも何度かあったパターンですが、それを鏡として、ジャンパーソンが孤独でなくてはいけない理由が描かれているのが、今回、踏み込んだところ。
文字通りに堕天したエンジェルは帯刀の命令で次々と様々な施設を襲撃し、新聞報道でそれを見た町工場の仲間達は困惑するが、耕作(仮)は、エンジェルを信じようとする。だが、正義の鉄槌はそんなエンジェルの元へ迫っていた――破壊活動を続けるエンジェルに向け、風を切るJPカード!
「ジャンパーソン……」
「なぜ破壊を重ねる。もうよせ」
「おまえは正義に生きることを望まれて生まれてきた。俺は、破壊する事だけを望まれて生まれた」
「裏切ればいい」
「おまえは自分を裏切れるか? 正義を捨てられるか? 誰も背負って生まれた運命には、逆らえないんだ」
「どう生きるかを決めるのは、自分自身だ!」
「運命が全てだ!」
胸甲の間に挟まったJPカードを、地面に投げ捨てるエンジェル。
今回は通して、簑輪監督が気合いの入った好演出。
完全決裂したジャンパーソンとエンジェルの戦闘開始。
TVの前の良い子のみんなは、前回、もう少し話が通じそうだった時に問答無用で襲いかかった事は忘れてね☆
翼を駆使しての3次元攻撃に、よろめくジャンパーソン。やはり、飛行タイプは苦戦フラグなのか? しかし、JPさんにはサポートメカが揃っていた! 空を舞うエンジェルvsスカイジェイカーという、珍しい空中戦の末、機銃がエンジェルの左翼を破壊し、地に墜ちるエンジェル。
「よくも翼をぉ、俺の翼を!」
「黒い天使に、翼はいらない」
JPさん、詩的(笑)
ジャンパーソンの攻撃はエンジェルの両翼をもぎ、追い詰められて地を這うエンジェル。その時――ジャンパーソンの脳裏に響く、合成音声。
「悪を、倒せ……悪を倒せ……」
「?! この声は……」
「完全破壊しろ」
自動シークエンスで発射準備される、ニーキックミサイル。
「撃つな、吹っ飛ばさないでくれ!」
やけっぱちで破壊活動した割には、基本、潔くないエンジェル(笑)
まあ今回、“翼”が悪の象徴とされているので、両の翼を失って、思春期を卒業した、というシンボライズの流れ、という要素もあるのですが。
「本当に粉々にする必要があるのか」
「邪悪な犯罪者を許すのか」
「許しはしない。しかし……」
「ジャンパーソン……?」
「完全破壊しろ。部品一個この世に存在させるな。その為に俺は生まれたんだろ」
・
・
・
おおおおお、す・ご・い!
なんとまぁ
ここで、こう来たかっ!!!!!
いや凄い、これは凄い。
いつものラスボス展開から思わぬ異変発生で、そこからこう持ってくるかっ。
今作の根幹に関わってくるであろう部分なので、扇澤さん単独のアイデアというわけではないと思いますが、ここまで基本的にロボット性善説であり、“悪のロボットとして作られなかったロボットはイコール正義のロボット”であり、劇中で非業の最期を遂げた悪のロボットに「正義のロボットとして生まれてきたかった」と言わせてきた『ジャンパーソン』世界で、
“正義のロボットに生まれた”というのは本当に善なのか?
という、正義と悪の根本的相対化がなされる。
前回14話の感想で、 「「正義」と「悪」という概念の扱いが10年ぐらい戻ってしまって、物足りない所ではあります」
と書きましたが、いやはや、思わぬボールが飛んできました。
悪のロボットが正義に生まれ変わったのではなく、正義のロボットは本当に正義なのか? という所へ突っ込んできたのが素晴らしい。
「その為に俺は生まれたんだろ」
という台詞は、今作がここまでそれを全肯定していただけに、物凄く重い。
たまたま「正義のロボットとして生まれてきた」為に、ヒーローとして祭り上げられ、恥じる事なく自分の好きな事を好きなようにできると羨ましがられてきたジャンパーソンが、実は、生み出された自分の宿命と戦っていた!
ここで遂に、ジャンパーソンが口にしてきた「ジャスティス」という言葉に、重量が生まれる。
それは誰かに与えられたのではない、ジャンパーソンが辿り着いた正義(多分)。
「DEDICATE MYSELF TO JUSTICE(私を正義に捧げる)」
※JPカードに刻まれた文字。……まあ、一番大きくは、「WARNING!」て書いてあるんですが(笑)
今後どこまで拾われていくかはわかりませんが、現時点では作品のメインテーマとなったようなので、この要素は是非、真っ正面から掘り下げてくれる事を期待。6話、9話あたりも踏まえているのですが、12話、14話、と同テーマが続いたのは、今回の為の布石だったのか! 振り返って誉めるべきかはともかく、色々な軌道修正について腑に落ちた気はします。まあ、転換が早すぎて、失速しそうな予感は凄いするのですが…………が、頑張っていただきたい。
「黙れ……どうして今になって目を覚ます」
「こんなものじゃ甘い……完全に木っ端微塵にしろ」
膝ミサイルの起動を解除したジャンパーソンだが、謎の声はジャンパーソンの左手にジャンバルカンを握らせる。
「私は昔の私ではない。もうおまえの声には従わない」
だが、ジャンパーソンは自らバルカンを振り落とし、ジャンデジックだけをエンジェルへと向ける。
「眠れ、黒い天使」
……まあ、やる事は変わらないんですが!
光線銃を受け、崩れ落ちるエンジェル。
「ジャンパーソン……同じロボットなら、俺も、俺もおまえのように生まれたかった。愛し愛される、そんなロボットに」
ここまで劇中で何度か繰り返されてきた台詞が、これまでと全く別の意味を持ってくるという、このアクロバット!
「エンジェル、私も生まれたときは違ったんだ……」
「俺なんか、初めからこの世に生まれてこなきゃ良かったんだよな」
ジャンパーソンの手の中で機能を停止するエンジェル……事件の結末は新聞に報道され、町工場の人達は背後の事情がわからない中、やりきれない思いを抱えていた。
「忘れろ……エンジェルは、エンジェルは、天国に帰っていったのよぉ。なにしろ野郎は、天使だもんなぁ……」
だがその時、町工場を訪れたロボット……それは、破壊された筈のエンジェル!
「一度は死にました。それをジャンパーソンが、生まれ変わらせてくれました」
これまで一度もそんなサービスした事ないのに……これはこれで、脳の中の声に、昔の私ではないアピールをする為に、JPさんが意地になったという気はします(笑)
エンジェルの復帰を喜ぶ4人だったが、エンジェルは首を左右に振る。
「生まれ変わっても、私の犯した罪は消えません。これから、自首します」
「わかった。待ってるぜ。戻ってくるのをよ」
「もうここには戻りません。私は、汚れた手を持つロボットです。皆さんには、ふさわしくありません」
「エンジェル!」
社長、エンジェルを平手打ち。
「わかったような口をきくんじゃねえよ、このロボットが! 行き倒れになったのを拾ってやったのは、誰だ! てめえみてぇな出来損ない、有り難く引き取ってくれる所がどこにある! この俺たちの他によぉ!」
更に耕作(仮)に、出所してきた頃には生まれているであろう赤ん坊を、是非ともおまえの……天使の手で抱いてやって欲しいと言われ、4人の心に打たれたエンジェルは、必ず工場へ戻ってくる事を約束、自分が生まれてきた価値を、自分が手に入れた「幸せ」を信じるのであった。
「私は……私は……やっぱりこの世に生まれてきてよかった。本当に」
ありがとうございました刑事さん、もといジャンパーソンによってダークジェイカーで連行されていくエンジェル。ますますこの世界のロボット法とかが理解不能になっていくと同時に、これまでのJPさんが罪を償える可能性のあるロボットを私的に抹殺していた事案が浮き彫りになりますが、フォージャスティスなので仕方ない。
「エンジェル。私も決して、祝福されて生まれてきたわけではなかった。おまえと同様、忌まわしい生い立ちをもつ。しかしそれを自らの意志で断ち切った。どう生まれたかが問題ではない。どう生きていくかが重要なんだ」
連行する車内で自慢始まった(笑)
このラストは、少し喋りすぎたかな、という気はします。わかりやすさを優先したのでしょうが、ここは敢えて語らずに、先に回しても良かったような。ジャンパーソンの過去とシンクロした事で、当面の作品のテーマは完全にここになるようですが。
この、修理されたエンジェルが町工場に戻ってくるという大団円は、悪くはないけどさすがに都合が良すぎるけどそういう世界観という事で仕方ないかなと思ったら……そこからもう3回転半ひねって刑事物にした!!!!!!!
というか、人の心とロボの心を救った!!!
いやいやいやいや、ここで《レスキューポリス》にしてしまうとか(しかも『ジャンパーソン』世界と違和感ない範囲で)、どれだけアクロバットなのか扇澤延男!
本人も心の中で引っかかり、やり残した思いがあったのかもしれませんが、前作のメインキャストの一人がゲスト出演している回で、『ジャンパーソン』世界を用いて、前作超えをはかるとか、滅茶苦茶すぎる。
凄いわー、前回酷かったけど(良くも悪くもこの落差が持ち味ではある)、扇澤延男は、本当凄い。
復活したエンジェルは、おそらくジャンパーソンによって戦闘能力が解除されているのでしょうが、そういったロボットの機能として生まれ変わるだけではなく、刑務所でお務めを果たす事で生まれ変わってやり直す、という要素が入っているのもお見事。これにより、ロボットがただの機能に左右される物品としてではなく、一つの人格として存在する事が示されてもいます。
とはいえ今後、悪のロボットをJPさんが救っていく人情展開だと、それはそれで相当うまくやらないと白けるのが目に見えているので、どこにバランスを置くかに注目。今回も、主軸がロボットなのに時代劇に始まって刑事物で着地して前シリーズを拾ってしまうという離れ業あってではありますし、毎度は通用しない。
ただこの離れ業により、これまでの14話が新しい別の意味を持ち、迷走著しかった今作が、完全に切り替わった、というのは、実にお見事。
なお普段はエンディング飛ばして予告を見るのですが、今回のエピソードは、そのままED突入すると、また実にいい。
あいつも夢を 見るのだろうか
誰かを愛して いるのだろうか
ところで……
JPさんは「どうして今になって目を覚ます」と主張してしまいたが、えー、今までも時々、目を覚ましていましたよね? 戦闘中とか、月のない晩とか。そこは正直に白状してほしい所です。
「ジャンパーソン・フォー・ジャスティス!」
次回、精神注入棒……!