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14年後の月に吠える〜『∀ガンダム』全話再見3

◆第3話「祭りの後」◆
〔脚本:浅川美也 絵コンテ:斧谷稔 演出:南康宏 作画監督:鈴木藤雄〕


ミリシャの抵抗に苛立つディアナカウンター士官ポゥによって二度目の引き金を引かれた大口径ビームはノックスの街を焼き、人々は戦争の予感に怯える。ビシニティもまた、ウォドムのミサイル攻撃の被害を受け、ハイム家の家長、ディランが死亡。ミリシャとムーンレィスの戦力差はあまりに圧倒的だったが、ホワイトドールの石像の下から機械人形が姿を現しロランがそれを操った、という報告を受けたグエンは、ムーンレィスに対抗できる戦力が手に入った、とほくそ笑むのだった……。地球の謎のMSの調査にディアナカウンターの部隊が迫る中、グエンからの辞令でミリシャに組み込まれる事になったロランは、それを迎え撃つ事になる。

「ヤツね、ヒゲがあるんです」
「ヒゲのある機械人形なのか」
「おヒゲのはえホワイトドール?」
(シド・ムンザ&グエン・ラインフォード&キエル・ハイム)



主人公、股間をブリキの金魚に潰されて脂汗をかく、の巻。
前回のラストから一転、コミカルな間合いでスタート。
キリキリするような緊張感で進めるのかと思いきや、結構な落差でテンションを緩めてきます。今はこれが普通になってしまったので特に違和感を覚えないのですが、リアルタイムで見た時は「おや?」と思ったかどうだったか……。
ビシニティではロランが遺跡から起動したMSをなんとか動かそうとする一方、
「かかしにしか見えないものなど、撃ち落としてやれっ!」
ノックスではミリシャが高射砲でMSウォドムに立ち向かっていた(笑)
ヤーニ軍曹、素敵。
大好きです。
劇中で一番好きなキャラはハリーなんですが、ヤーニ軍曹も、ベスト5には入ります。
このたまらない、駄目さ加減。
“馬鹿だけどたくましい”という、なんというか、『∀ガンダム』を体現するようなキャラ。
なお声を務める桐本琢也さんはヤーニで初めて知ったので、こういういがっらぽい声で単細胞キャラみたいなのが得意なのかと思っていたのですが、後に割と美形声で二枚目役が多いのを知って驚きました。二枚目の欠片もないぞヤーニ。
テクノロジーの差が大きすぎて、かえって戦力の違いを実感できないミリシャがムーンレィスに立ち向かう姿は喜劇的ではあるのですが、一方のムーンレィスも明らかに戦争下手。
戦争下手と戦争下手が成り行きで殴り合いを初めて、しかしそれでも人は死に、生きようともがく。
退避の為にノックスを離陸する飛行船で、キースがしれっと強引に乗り込もうとする人を蹴り落としていて、こっそりえぐい。
「本気やってんだぞっ」とポゥはミリシャの飛行機部隊を消し飛ばし、後方のノックスの街を焼くが、軍令に対する自分のミスはわかっているようで、「禁固刑でしょうか?」と上司にお伺いを立てると涙を見せ、人手不足なので当面おとがめ無しと聞くと一転、笑顔に。
シーン切り替わると、夏場で腐ってしまうから夫人とキエルの帰還を待っていられない、とディラン・ハイムの納棺が行われ、そこへふらりとやってきたキースは、くしゃみを一つ。
それぞれの場所でそれぞれの人がそれぞれの事情に無関心で、しかしそれでも世界は回る。
一つ一つのシーン自体はそれほど際だった描写ではないのですが、死体は腐るという話を淡々と挟み込んで、この繋げ方が、実に厭らしい。
兵士の立ち位置と個人の悲劇は乖離しており、既に“守るべきもの”(パン屋)を持っているキースには、他人の悲劇に構っている余裕はない。
ロランも、2年の監察期間(という設定は今回、ロランとキースの会話で明かされる)を終え、自分はもう地球人だからと、お嬢様達を守るという使命感は持っているのですが……
月から持ち込んだディアナ様の肖像入りネックレスをロランに投げ渡すキース
それを受け取ってしまうロラン
というのは対照的に描かれています。
ロランとの会話では、「戦争になるわけない」「ディアナカウンターに行こうか」「逃げようか」「戦争なんだ」と、数分の間に会話が行ったり来たりした挙げ句、最初に言ったのと違う結論に到達して友人を詰る、と混乱した言動を見せるキースですが、ここだけは、きっちり。
キースは3人のリーダー格っぽい降下時の描写や、1話の会話で見せた洞察力などからすると、知性で割り切れる為にドライな所がある、という初期造形だったぽい。
今作全体の作劇において一つ上手くいったのは、この、戦争になったらその余波で、いっけん全然関係ない所でも人が死ぬ事があるんだ、というのを物語の最初期に置いた事。軍人/民間人というカテゴリの中ではなく、「広い意味での後方」における死を象徴的に描いた事が、一つ、物語の土台となりました。
なお、「黒歴史」という単語は、シド、ジョゼフの口から今回初登場。合わせて、地球のあちこちに、そこに語られる宇宙的機械が埋まっているらしい、とグエンにより言及されました。
宇宙的機械!
この馬鹿っぽい合成語が絶妙で素敵すぎます。
アクションに関してはウォドム中心で、今回∀ガンダムのやった事は、無様に滑って転んだ事ぐらい(笑) バランサーがどうとか、説明書見つけたりとか、メカニカルな要素には言及され、また、ムーンレィスであるロランにも、基礎はわかるが未知のテクノロジーである事が表現されました。まあロランがそれほど軍事技術に精通しているわけではないでしょうから、曖昧な部分もありますが。
この3話は2話までとはまた違って、滑稽さを前面に押し出した部分が多いのですが、主役MSは滑って転び、偉い人はちょっと武器が手に入っただけで敵の戦艦へ向けて聞こえない大見得を切り、前線の兵士は彼我の戦力差を見ることなく偉い人の秘密兵器を楽天的に信じ、かんしゃくを起こした女士官は無駄に戦火を広げ、その上官は女士官可愛さにそれを誤魔化す……全てが愚かで滑稽で、しかし愚かで滑稽でも武器を振るえば人が死ぬ事はあるし、死んだ人間は腐るしかない。
そしてその現場では、自分達の愚かさというものは誰にも見えはしない。
1−2話が『∀ガンダム』の背景と基点を描いていたとしたら、その劇世界を示していったのがこの第3話といえるでしょうか。
さて、家に帰る、というのも監督の持っているテーマの一つですが、後にアレンジされてDVD1巻のパッケージイラストの中心となる、ロランがソシエを背負って歩くシーンは、凄く好き。
今作全体の中でも、かなり好きなシーンです。
ちなみにイラストの安田氏によると、富野監督の期待していたパッケージイラストのイメージとは少々違ったらしく、2巻以降のイラストはタッチを変えたとの事。
個人的には、この1巻の絵のノリで全部まとめてくれても良かったぐらい、好き。
∀ガンダム 1 [DVD]

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「だいたい運転手なんだから、あたしを家に連れて帰るのが仕事でしょ」
「そうでしたね」
ソシエ・ハイムロラン・セアック