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『アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』(ゲイル・キャリガー)、感想

アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う (英国パラソル奇譚)

アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う (英国パラソル奇譚)


異界族――吸血鬼や人狼が実在し、昼間族――人類と共存する19世紀イギリス。イタリア人の父の血を引く為に、英国紳士の好みからはやや遠い褐色の肌と立派な鼻に加えて、勝ち気すぎる性格で婚期を逃したオールドミス、アレクシア・タラボッティには、ある秘密があった。彼女は<魂なき者>(ソウルレス)であり、彼女に触れた異界族は、その特殊能力が消滅してしまうのだ。ある舞踏会の晩、アレクシアは吸血鬼に襲われ、反撃のはずみで殺害してしまう。異界管理局の人狼捜査官マコン卿の取り調べを受ける事になったアレクシアだが、それをきっかけに謎めいた事件に巻き込まれていく事になる……。
吸血鬼や人狼が存在する、改変ヴィクトリア朝を舞台にしたファンタジー
米国では「ネオ・スチームパンク・ブームの一端を担う作品」という扱いだそうですが、日本人の感覚でいうと、スチームパンクという雰囲気はあまり感じず、歴史ベースのファンタジー、といった感じ。
主人公は、勝ち気で口が達者で社交界では異彩を放つオールドミス(といっても20代半ば)。相手役となるのは、スコットランド出身でロンドンの縄張りを得た、短気だが有能な人狼捜査官。
顔を合わせれば口論が始まる二人のやり取りは軽妙で面白く、本作の読みどこの一つ。
ミステリー・アドベンチャーをベースにロマンス成分を振りかけたというよりは、ロマンスものをベースにミステリ・アドベンチャーの要素を大幅に叩き込んだ、というような構造なので、二人のやり取りが事件の謎とともに物語の大きな柱となります。
これでもう少しロマンス成分が濃いと、ソニーマガジンとかヴィレッジブックス辺りから出たのだろうか……という感じですが、集英社コバルト文庫あたりがいけるなら、大丈夫かと思います。有川浩辺りでかゆくなると、駄目かもしれない(笑)
みんな大好き改変ヴィクトリア朝ファンタジーなのですが、異界族と昼間族の関係性についての設定が独特で面白く、例えば、吸血鬼が人を襲う、という事自体が極めて異例な事であり、それが大きな事件に関わっている。それぞれの種族のルール設定がしっかり作ってあって物語世界に深みを与えるとともに、史実に基づいた生活様式の細かい描写などもよく出来ています。特に食事と服飾に関しては細かいので、その辺りも興味があれば楽しく読めます。
また部分部分に、ちょっとしたハイテクないしオーバーテクノロジーも盛り込まれており、その辺りがスチームパンクを言われる所以かと思われます(ディファレンス・エンジンがちょっとだけ出てくるのは、恐らくオマージュでしょう)。ただこの1巻では、そういった部分にはあまりスポットが当たらず、2巻以降にウェイトが増してくるなら、それはそれで楽しみ。
物語はテンポ良く進み、ふんだんなユーモアも面白く、好みの作品でした。
シリーズ5巻という事で、続きに行きたい次第。