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『白暮のクロニクル』(ゆうきまさみ)、1・2巻感想


不老不死の種属――<オキナガ>。日本には現在、推定10万人ほどが居住していると見られ、その存在は厚生労働省の管理下にある。
厚生労働省の職員である伏木あかり(26歳)は、研修先の保健所の業務で立ち入り検査に入った焼き肉店で男の死体を発見。それがオキナガであった事と、現場でそれと知らずに厚労省参事・竹之内に噛みついた事から、厚生労働省夜間衛生管理課――通称「やえいかん」へと配属される。そこであかりは、見た目18歳、実年齢88歳のオキナガ・雪村魁と出会い、この<オキナガ>連続殺人事件の謎を追う事になる……。
不老不死の種属の存在が認められている現代日本を舞台に、そのオキナガの連続怪死事件を追う、猟奇要素ありのミステリー。
探偵役は、見た目18歳美少年だけど実態は88歳偏屈老人のオキナガと、真っ直ぐで正義漢の強い新人公務員。色々な点でデコボコなこのコンビが謎を追う前に立ちふさがるのは、お役所の流儀だったり、2年前の事件だったり、IT格差だったり。
基本は探偵ものでありますが、本格志向というよりサスペンス寄りで、軽妙なやり取りを交えながらテンポ良く進んでいき、実に面白い。
特に改めて、ゆうきまさみのキャラクターデザインにおける、リアリティとデフォルメのバランスは、絶妙です。そのお陰で、かなり多い登場人物が(少なくともその立ち位置は)すっと頭に入ってきて読みやすく、それがテンポの良い面白さを増させています。この、わかりやすさを面白さに繋げる、という技巧がお見事。
主要登場人物は概ね、表向き見た目通りの性格をしており、見た目通りの劇中ポジション。伏木あかりこそ高身長というワンポイントを置いていますが、最初にキャラ付けのインパクトを持ってくるというよりも、類型的と言われても構わないわかりやすさを提供しながら、そこに少しずつ味付けしていく事で、キャラクターを面白くしていく。
特に竹之内参事と久保園さんが顕著ですが、竹之内参事はどう見ても怜悧な切れ者だし、久保園さんは見事な中間管理職だし、劇中でもまさにそういった役割を与えられています。このわかりやすさが、容姿と立ち位置の繋がるリアリティをキャラクターに与えて、しかし同時に、しっかりと印象に残るマンガ的デフォルメも施されている。
個人的に、『鉄腕バーディー』の巻末おまけマンガが印象深いのですが、『鉄腕バーディー』という作品は役者さんが演じているという設定の裏舞台で、例えば、バーディーを演じている女優さんはこんな人で……といった事が描かれているのですが、今作もそれに近いようなニュアンスを感じ取れます(ゆうきまさみ作品に共通するニュアンスかもしれませんが)。
そしてそれは劇中において、役者が役柄を演じているようなリアリティーと、劇中の登場人物が日常生活の中で自分の役柄を演じているリアリティーと、二重のメタ構造として機能している。
だからこそ、不意にその役柄を外れて見せる、閃きや、狂気が、実に劇的。
個人的にゆうきまさみは、岩明均と並んで、急に登場人物が人殺しの目をするので怖い漫画家です。
また2巻で、“色々なものを見過ぎてしまった顔”として登場する巻上さんも、逆に印象深い。
率直に、画力で引っ張るというタイプの漫画家ではありませんが、つくづく、マンガが巧い。
1巻で意味ありげだった人物が2巻でまるまる登場しなかったり、色々な仕込みの匂いなど、かなり長いスパンの仕掛けを用意しているようなので、連載、順調に続いてほしい。個人的に、人と“人でなし”というのは好きなテーマなので、3巻予告から、その辺りの方向性も期待したいです。そして、表があれば裏がある。各登場人物達が、これからどんな顔を見せていくのかも楽しみ。
コミックスでまとめて読んだ方が面白そうなタイプの作品ですが、週間連載なのも嬉しい(笑)