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『Gのレコンギスタ』冒頭10分に見る富野演出の冴え

『Gのレコンギスタ』冒頭10分&富野インタビュー配信中!!
〔『Gのレコンギスタ』公式サイト〕
さて、富野演出というと、バタバタ登場人物が死にがちな作劇や、独特で印象的な台詞回しなど、エキセントリックな部分が取り上げられがちですが(それはそれで間違っていないけど)、その技術的真骨頂は、膨大な情報をさりげない演出の積み重ねで圧縮しながら表現していく巧さにあります。
冒頭10分という短さがちょうどサンプル向きなので、『Gのレコンギスタ』を紹介しつつ、そんな富野演出の技術的な部分を取り上げて感想がわりにしたいと思います。
とりあえず、公式サイトやバンダイチャンネルなどで、配信を是非↑
まず冒頭、ロボット(ここでは敢えてこう呼ぶ)同士の追跡シーンで、パイロットのカットインが入ったりするのは如何にもな構図で、これは作り手も習い性でやってしまっている気配も感じるのですが(『∀ガンダム』の時にその辺りを反省点として触れていたので、意図的にわかりやすくした可能性も高いけど)、コックピットから飛び出す人間→それを手の中で捕まえるロボット、で人間とロボットのスケール感が最初に提示されています。
そしてダイナミックな降下シーンからタイトルコールの後、場面は教会の大聖堂へ。大きく場面転換をしながらも、カメラ方向は上→下へと連動しており、それによって、物語の方向性が連動。
宗教と結びつけつつ観光地としての描写から、ある程度スケール感を現実と地続きで意識できる教会と人間(概ね観光客と思われる)を描き、そこから軌道エレベーター、格納されているロボット、作業員、と見せて、最後にロングのカット。
と、ここまでが一連のスケール感見せ。
そして軌道エレベーターと共に、物語は再び上昇していく……と〔↓→↑〕という劇の構造。間に〔→〕が入っている事で非常にスムーズに物語が繋がりつつ、そこで世界のバックグラウンドがそれとなく語られ、更にそれぞれのスケール感が視聴者に提示されています。
このスケール感を最初に提示する事に手抜きがないのが、さすがの技。加えて淡々と見せてしまうと面白くないので、最初にチェイスシーンの急(文字通りの急降下)から入っている。
ここから物語の焦点は上昇する軌道エレベーターに合い、カメラは更に、その中の人間へ。ここでいきなり主人公から寄らず、同乗している一般客からスポットを近づけていく事で、世界が広がりつつ、場の雰囲気が表現されます。
そこへ響く鞭の音。
「なんでよけたんだ?」
「はい。常日頃、臨機応変に対処しろとは、大尉殿の教えであります」
「笑っている場合か!」
(もう一度かわして、大尉の懐に飛び込むベル)
「さすが、二階級飛び級生のベルだな」
このワンアクションと会話だけで、運動神経に優れ、優秀な能力を持ち、どこかあっけらかんとして悪意は無いけど確実に一部の人間を苛だたせるタイプ、と主人公の性質を見せつつ、スパルタも辞さない教官と、二枚目の友人との間合いまで表現するのは、もう脱帽。
ここまで、約3分!
そして実習シーンになるのかと思ったら、いきなりのチアガール闖入(笑)
この崩し方が、実に素晴らしい。
冒頭のチェイスシーンに始まり、間に教会のシーンを挟みつつも軌道エレベーターの発進と比較的張り詰めていた空気が、これで一気に弛緩。
ここですっと物語の玄関口が広がる。
……というのはだいぶ個人的な感覚なので人によりけりかとは思いますが、このきちっと1エピソードの中で緩急をつけてくる手並みも実に鮮やか。
このシーンでの、
「ガールフレンドが居ない連中の事も、考えてやれ」
という台詞が、妙にお気に入り(笑)
主人公と二枚目だけ女子が寄ってきて、後はモブなので「○○はイケメンだからなー」という世界観ではなく、劇中世界そのもののバランス感覚を感じます。
この後即座に、ベルに対して実習生の1人がちょっとひがみの入った発言をするというのも、絶妙。
そしてチアガールをニヤニヤ追いかけていた男子達だが、実習の続きをする事になると、即座に表情も口調も改まり、この切り替えの速さが実習生達の能力と宇宙への真剣味として表現されており、これまた鮮やか。
今エピソードの前半通しても、演出としては白眉の一つだと思います。
演出と、表現と、物語とが、計算されてしっかりと繋がっているから生まれるシーンで、考えられているって、素晴らしい。
チアガール達は逃げ込んだ運転席で、冒頭で大尉が拾った少女と出会い、時間の流れが示されつつ、実習生達はやや長めの台詞で軌道エレベーターの設定を説明。ここで、これ以上、台詞が続くと嫌だな、というところで動きが入るタイミングがまた、絶妙。
この、長い台詞が続いたり、画面が動かなかったり、にどの程度まで耐えられるか、というのは演出テンポに対する好き嫌いで生理的な部分が大きいので、人によってそれぞれかと思いますが、私が富野作品が好きな理由の一つは、とにかくこのテンポが合う事。もうこれ以上は画面が動かないと耐えられない(ここでいう「画面が動く」とは、例えば背景の窓を鳥が通り過ぎる、というレベルで構わない)、という所で絶妙に動きが入ってくれる。それがあまりにしっくり来るので、もはや快感(笑)
このシーンで言うと、大尉の質問にベルリが回答を始めて、
「そこはいい」
とぶった切る所とか、実に動きの入るタイミングが欲求とぴったり重なって、気持ちいい。
重ねてこれは生理的な部分がありますが(例えばよく書くけど、私は実写では長石多可男監督の演出とテンポが合う)、とにかく富野演出とはこのテンポが合うのです。
基本的に富野監督は、全く動きの無い(或いは登場人物の口だけが動く)シーンは嫌うので小刻みに動きを入れてきますが、この辺りも、富野演出で会話のやり取りが間延びしない、ごく基本だけど、しっかりと抑えられている部分です。
またこのシーンでは、
「そんなつまらない質問に……」
「また……教科書通りでいいから答えてくれ」

「……わかりきった事を」
「喋れ」
など、扱いづらい天才児と、大尉殿のやり取りが、実に軽妙で絶妙。大尉はこの後、拾った女の子をエレベーターに乗せていたのは、心神喪失状態の治療に役立つかもと考えての事だったと判明したり、好感度うなぎ登りで、Bパートで死なないように祈りたい(笑)
軌道エレベーターはファーストナットに辿り着き、チアガール女学生の「次のナットまでのチケットを持っている」という台詞で、概要はわからないも、軌道エレベーターの乗り物としての扱いが、現代的な感覚に近い所に落とし込まれているのもポイント。
そしてここから、登場人物達の動きが低重力下のそれとなり、やってきた大尉を気にして女学生達が集まるシーンで、ピンク髪の子がふわっと浮いて部屋の中を移動しながら、ちらっと視線を動かすのが、その仕草自体にはあまり意味はないのだけど、ほんとちょっとした動きで、空間の奥行きと広がりを生み出しています。
また、大尉とキャピタルアーミーとの会話で、「モビルスーツ」という単語が初出。まあこの辺りは、アイコンとしてあまりこだわる気が無いみたいですが、サブタイトルと合わせて、劇中のロボットの総称が「モビルスーツ」である事はハッキリしました。
実習生達はいよいよ宇宙空間へ出る事になり、気密室、外でチェーンを引っかけるなど、実習生の姿を通して、宇宙空間ならではの行動もスムーズに描写。この世界観での宇宙というものが、物語に組み込まれて描かれています。
そして主人公がいよいよMSに乗り込む所では、しっかり音楽で盛り上げる。
スレた視聴者だと実習用のMSに乗り込むだけなのでメタ的には大した事が無いと思えてしまうわけですが、劇的には些細な事ではないのだよ、というメッセージ性がしっかり演出に盛り込まれており、地味ながら抜かりがありません。
こういう、一つ一つの丁寧さが、富野監督の腕。
そして通信ノイズ、ヘルメットを叩く描写、宇宙海賊の出現と謎のMSの登場。と一気に物語のテンションがあがり、主人公も高揚。今作、主人公の感情表現がかなりダイナミックなのですが、その辺りは『未来少年コナン』辺りへの意識があるのではないか、という話を読んで、なるほど。
エレベーターに近づいてくるMSの機動を見て、
「うまっ!」
と主人公に言わせるのも、この台詞が実に巧い。操縦の技量を見せるシーンがまだ無い中で、運動神経も良く優秀な実習生であるベルの口から感嘆させる事で、一定の評価を与え、またそれに素直に感心を見せるベルの性格も現しています。
MSは軌道エレベーターに取りつくと、宇宙空間に向けて一発のビームを放つ――という所で、冒頭配信終了。
闇を切り裂く桃色の閃光が物語の幕開けになる所は、『∀ガンダム』を思い起こす所であります。
1エピソードとしては後半まで含めての構成になりますし、この冒頭も本編までに追加シーンが無いとは限りませんので、やや散漫になりましたが、冒頭配信の気になった部分をかいつまんでみました。
疾走感だけが激しく先行する“わけがわからない時の富野”だったらどうしよう、という不安は見るまで少なからずあったのですが、ここまでの所、かなり“バランスがいい時の富野”だと思います。
いやどちらにせよ自分は見るのですが、前者だと人に勧めにくいので(笑)
さりげない描写の積み重ねで世界観の奥行きとリアリティ、物語の立体感と登場人物達の幅を作っていき、そこへ劇的な展開を持ってくる。
一言で職人芸、と言ってしまえば簡単ですが、計算された技術の冴えは、実にお見事。
2014年も富野は富野であり、更なる輝きを期待させる富野由悠季でありました。
10月にならないと本編が見られないとか、なんという事か……!
そんなわけで、とにかくお薦めです。
元気のGだ!