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『仮面ライダーW』感想26

◆第32話「風が呼ぶB/今、輝きの中で」◆ (監督:諸田敏 脚本:三条陸
ウェザーに仕留められそうになるフィリップと翔太郎だが、忘れ去られそうになっていたアクセル戦車が割って入り、アクセルがウェザーと交戦。
「フィリップ、もう一度ダブルに……」
「もう、君には無理だ」
捨 て ら れ た ーーー
ここで無音になるのがショックを強めて良かった所。
フィリップはサイクロンメモリをアクセルに渡し、アクセルはそれを剣に装着。凄まじい力を発揮するアクセル剣サイクロン滅多切りにより切り刻まれたウェザーの手から熊は崖下に落下し、ウェザーは撤退。
微妙に気まずい空気の中、サイクロンメモリをフィリップに返す照井の横でがくっと崩れ落ちる翔太郎。
「俺はもう、ダブルになれない……」
廃人になった翔太郎を置いて、凍結ガスを浴びた尾藤を病院に連れて行く為に、残りのメンバーは下山。一方、井坂の失敗により丸は冴子達と手を切る。と、そもそも井坂先生がビーストをじっくりたっぷり舐めるように触診したかっただけかとは思われますが、ミュージアムサイドは事件から手を引く事に。
山荘で、尾藤の言葉を思い返す翔太郎。
(薄っぺらい男の人生はいてえ。今にでかいもん失うぞ)
「今度はフィリップかよ……」
このまま世捨て人一直線かと思われた翔太郎だが、「ダブルがまともにつとまらねえ俺には……探偵しかねえ」と、雨に濡れながら、熊を捜索。こーいうのは翔太郎の長所であり、職持ちライダーとして「職業への誇り」が描かれているのも、作品として良いところ。
また、熊探しを手伝うサポートアニマル達が落ち込んだ翔太郎に優しくて、機械の人情がぽっかり空いた心の穴に沁みます(笑)
翔太郎は熊の中に隠された何かを見つけるがそれについては口をつぐみ、熊と思い出の写真を尾藤に渡してくれと亜樹子とフィリップに託して、どこかへ。そんな翔太郎の湿気たマッチの様な姿に、大きな決断を下そうとするフィリップ。
「照井竜。僕と組む気はあるかい?」
「フィリップ……つまらない質問をするな。俺は1人で奴等を追う」
だが照井課長は、いい男なのでフィリップを振る。
もはや別にロンリーウルフだからではなく、2人の絆を強さと思っているからこそ、即座に断るのが照井の格好いい所。
翔太郎役に立たねーし、と怜悧な選択をしようとするフィリップに詰め寄る亜樹子。
「弱い弱いっていうけど、それは翔太郎くんが心の優しい奴だからでしょ! でもそれって、あいつのいいところじゃん。それに、翔太郎くんは戦いの道具じゃ無いんだよ! 翔太郎くんは、ハーフボイルドだからこそ、何かやる男なのよ!」
「……そうだ――! 翔太郎がああいう顔をする時、それは決まって、何か甘い考えで無茶をする時」
亜樹子はプラスの意味で「何かやってくれる」と言っているのに、フィリップは微妙にマイナスの意味で「何かやらかす」と言っているのが、そこはかとなく切ない(笑)
フィリップが熊の仕掛けとその奥に隠されたメモに気付いた頃、翔太郎は鈴子の元を訪れていた。
「ガイアメモリについて、聞かせて下さい」
翔太郎が手にしたメモリを起動すると、鈴子の首筋に浮かび上がる生体コネクタ。鳴海荘吉が木彫りの熊の中に隠していたのは、かつて鈴子が使っていたメモリ。そう、10年前の現金強奪事件は丸/ビーストの単独犯ではなく、鈴子も共犯だったのだ。2人は最初から計画ずくで、尾藤の好意を利用して彼が自首するように仕向けていたのである。
……どうしてこの作品は、メインテーマが「事件の陰に女あり」なのか。
もはや定番すぎて驚きもひねりもないのですが、むしろ、これが芸風と割り切っている節があって、問題は、どうしてそこを割り切ってまで、このテーマにこだわっているのか、です(笑)
これは、子供達にあらゆる女性に不審の目を向けさせようという、バイ○ロン的な陰謀なのか!
真面目な話としては、作劇としてはパターン化の傾向が強くてマイナスと言えるのですが、ここまでこだわっていると仕方のない気もしてくるのが困った所(^^; それで面白くないかといえば、そういうわけでもないですし。
尾藤に謝罪してほしい、と償いを求める翔太郎だが、不意打ちでメモリを取り返した鈴子はゾーンドーパントに変身。
ここまで1−2話と幹部クラスの登場回を除けば、1エピソードで2体の着ぐるみドーパントは出していなかったのでどうするのかと思いましたが、ゾーンドーパントは人間の頭大のピラミッド型の立方体に昆虫のような足が付いている、という非人間型タイプで、造形物とCGで処理。
基本的にドーパントの共犯による事件が無いというのはやや物語のパターン幅を狭めていたので、こういったデザインで2体の悪役ドーパントを出した、というのは良かったと思います。
任意の物体を瞬間移動させるゾーンの能力により翔太郎は吹っ飛ばされ、鈴子はその能力により現金を回収する為、10年前の事件で現金輸送車を隠したダム湖へと向かう。
その頃、園咲家の地下空洞には琉兵衛と若菜が集っていた。ミュージアムの未来に繋がる記念すべき一瞬の到来を若菜と一緒に見たい、と告げる琉兵衛。
「地球が来人を呼んでいる――」
丸の動きを警戒し、クワガタメカにダム湖を監視させていた照井は、姿を見せた有馬夫妻と交戦。だがアクセルは、空間に架空の罫線を引いて盤面を作り出し(将棋好きという前振りあり)、ゾーンが次々とビーストを瞬間移動させるという連係攻撃により、追い詰められていく。
亜樹子とフィリップは、川を流れていた翔太郎を拾得。
「また真犯人に甘さを見せて、殺されかかったね?」
「相変わらずお見通しか。やっぱ薄っぺらいなぁ……俺」
「それでいいんだ、翔太郎」
「え?」
ここで、黙って二人から距離を取る亜樹子が、とてもいい味。
「完璧な人間などいない。互いに支え合って生きていくのが――」
「――人生というゲーム。……おやっさんの言葉」
フィリップは、熊の中から見つけたメモを翔太郎に見せる。そこに書かれていたのはおやっさんから尾藤へのメッセージだった。


サムへ/ Nobody’s perfect
「Nobody’s perfect……誰も完全じゃない」
鳴海荘吉は事件の真の黒幕を伝えるメモリだけではなく、尾藤を励ます言葉をそこに残していたのだった。それは鳴海荘吉の厳しさであり、優しさ。ただ罪を暴くのではなく、それに関わる人の心をいたわるという想い。
「君は彼と同じ事をした」
「でも俺は…………無力だ」
「だから、Nobody’s perfect、だってば。僕は大事な事を忘れていたんだ。鳴海荘吉の意志を受け継いだダブルは、戦闘マシンであってはならない。強いだけのダブルに価値はない。君の優しさが必要だ、翔太郎」
フィリップは翔太郎に手を伸ばし、それを握り返して立ち上がる翔太郎。
「それがもし、弱さだとしても――僕は受け入れる」
「……ありがとよ……フィリップ」
引きこもりだけど運動能力も低くない事がそれとなく描かれていたフィリップですが、前半はどちらかというと世知に長けた翔太郎の庇護対象という描写だったフィリップの方が、実は知性と肉体能力においては完璧超人に近い存在であり、翔太郎の立場はむしろそのサポート役、とここで明確に相棒間の役割ヒエラルキーが部分的に逆転。
しかし同時に、パーフェクトソルジャーであるフィリップに欠落したもの――人の優しさこそ、「戦士」ではなく「ヒーロー」であるダブルに必要なものであり、「本当のヒーローって何だろう?」という今作のテーマへの一つの解が示されてもいます。
実際、フィリップ×照井のダブルは、戦闘回路が発達しすぎてオーバーキルとジェノサイドを繰り返す破壊の化身になりそうな気がするので、必要なのは、ブレーキ。
そう、良太郎は、ダブルの良心回路にして自省回路だった!(笑) (※またメタ的には、現代的ヒーローにおける「社会性」のシンボルでもあると思われます)
割と怖いのは、言動から解釈する限り、ダブルになれないなら仕方ないよね、とフィリップが本気で翔太郎を捨てようとしていた事(笑)
翔太郎の必要性がよくわかります。
「行こう、相棒」
ここから、鳴海荘吉を演じた吉川晃司が自ら歌うおやっさんのテーマ曲「Nobody’s perfect」をバックに、タンデムでダム湖に急ぐフィリップと翔太郎。効果音すら入れず、完全に挿入歌だけと、大胆にやりました。

さぁおまえの罪を数え 魂に踏みとどまれ
愛する物を 守るために 立ち向かえばいい

アクセルが追い詰められた所に間に合った二人は、ガイアメモリをその手にする。
――『サイクロン』『ジョーカー』――
「「変身」」

Nobody’s Perfect
それだけが 命の証

「「さあ、お前達の罪を、数えろ」」
完璧な人間などいない――支え合って戦う、それが、二人で一人のヒーロー、仮面ライダーダブル
「何をしているの、ライト。そいつでは何も出来ない」
心意気はともかく、パワーバランスのズレはいかんともしがたく苦しむダブルの姿を外野から観戦するシュラウド、とうとう「そいつ」呼ばわりで、手厳しい。
だが、自分の弱さを認めた翔太郎は、厚さが3mmぐらい増していた!
「おまえは全開で行け! 俺がついていくから! こんなバチバチ、なんてことはねえ! 耐えきるさ! おまえが相棒だと思ってくれてる内は、俺は二度と折れねえぞ!」
サイクロンジョーカーは怒濤の連続キックで猛攻をしかけ、ビーストを徐々に上回っていくとダブルの体に異変が起こり、そこにエクストリームメモリが飛来する。
「まさか……あの光は?!」
ダブルの体から上空に二条の光が伸び、それに導かれる形でドライバに上からくっつくエクストリーム。そして――
「なんだ? この湧き上がる力は? まるで地球そのものと一体化したような」
「それだけじゃねえ。俺たちの、心と体も」
「「一つになる!!」
誕生・フィリ太郎!
……ではなくて、ダブルは自らその割れ目を左右に開くと、外見がやや角張るとともに、緑・銀・黒の三色からなる新たな姿へと進化を遂げる。
「だだだだだだダブルが開いたぁ! しかも中見えたぁ」
園崎家の地下空洞では、これに呼応するかのように、まばゆい光が噴き上がっていた。
「ははははははは、そうだ、この時を待っていたのだ。エクストリーーーーーーーーーーーーム!!」
「あの二人が、地球を手にした。今ダブルは、地球という無限のデータベースと直結している」
進化したダブルは体内から盾と剣のセット・プリズムデッカーを取り出すと、プリズムメモリを装着。ゾーンによる瞬間移動を先読みして迎撃し、盾にサイクロン・ヒート・ルナ・ジョーカーの4つのメモリを付けると、プリズムビーム砲でゾーンを撃破。激高したビーストも、その再生能力を遙かに凌駕するプリズムダイナミックの一撃でメモリブレイクする。
“心と体が一つになった”表現なのでしょうが、必殺技名を叫ばなくなったのが、ちょっと寂しい(笑)
「新しいダブルになった……俺、おまえについていけたんだな」
「ああ、翔太郎。君と僕が、完全に一体化した姿だ。サイクロンジョーカー――エクストリーム」
……長い。
えらく吊り目になったエクストリームは顔にバリが付き、の意匠なのでしょうが、今作なので、風車の羽のイメージも入っているのかしら。
格好いいか格好悪いかを問われると悩ましい所ですが、とりあえず、強さとしてはこれ以上ない、ど派手なお披露目となりました。平気で盾に4つメモリつけてマキシマムドライブを発動していたので、通常状態のツインマキシマムに今後出番が無さそうなのが、個人的にちょっと残念(^^; あれ、裏技としては使い所がありそうで好きだったのですけど。
「まさかエクストリームにまで到達するなんて。どこまで私の計算を超えるの、左、翔太郎……」
そして翔太郎はまた、知らない所でシュラウドの憎しみを買うのであった。
早朝ジョギング中に配達の牛乳を盗み飲みした事がある、ぐらいの勢いで恨まれているけど、本当に何したんだ翔太郎。
事件は幕を閉じ、尾藤を気遣う翔太郎は、デコピンをくらう。再出発した尾藤は何故か、クイーン&エリザベスと手を組んでリンゴ飴の屋台を出していた。屋台の中に、おやっさんの形見として、木彫りの熊とメモ、そして10年前の写真が飾ってあるのがいい。
「いいか。事務所潰したらいかんぞ……後釜」
一発軽くはたかれる翔太郎。
「……おう!」
なんかやっぱり翔太郎、こういう人に小突かれるのが好きそう(笑)
(俺とフィリップは新しい力を得た。これからも俺は必死で走るしかなさそうだ。追いつかなきゃいけない人が、たくさん居るからな――)
元々が、未熟者と未熟者がくっついてヒーローをやる、というコンセプトなのでテーマ的にはやや繰り返しなのですが、格好つけて誤魔化しがちな翔太郎が自分の弱さと向き合い(ジミーには色々言っていたけど、翔太郎タイプの人間には非常に厳しい試練である)、力に引きずられそうになっていたフィリップが自分に必要な物を見つめ直し、改めて原点回帰するという形でのパワーアップ。
いわば翔太郎を良心回路として置く、というのは今作らしい古典へのオマージュを感じる所ですが、その良心回路とはなんぞや、という所を丁寧に描いてきたというのが、現代的な再構成。
つまり今作は32話をかけて、正義とは――人の良心とは何か、という部分を描いてきたともいえ、そうやって描かれた良心回路(翔太郎)を組み込んだパーフェクトソルジャー(フィリップ)こそが、厳しさと優しさの両面を持って人を救う「ヒーロー」たる仮面ライダーダブルである、という形で、正義の背景を個人の人生とシンクロさせる形で収束。
かなりアクロバットな手法といえますが、オマージュ的な要素にまとめた部分が強いので、個人的にはもう一歩先を見たい所。まあ、ある意味ではここが『ダブル』のもう一つのスタート地点であり、後半戦でこの先の一歩二歩があるのだと、期待しています。
今エピソードでの難を言えば、演出的に盛り上げすぎて、サイクロンジョーカーのままビーストに勝てそうになってしまった事(笑) 翔太郎が計算以上の力を出してエクストリームが発動したというより、エクス鳥がおいしい所だけかっさらった感じになってしまい、正直、エクストリーム発動よりその前の方が盛り上がった(笑)
あと、エクストリームどころか、竜巻アクセル剣に完敗したウェザーは、しゃしゃり出てきた為に激しく株価を下げる事に。そろそろやられキャラっぽくなってきてしまったので、井坂先生の逆襲に期待したい。