はてなダイアリーのサービス終了にともなう、旧「ものかきの繰り言」の記事保管用ブログ。また、旧ダイアリー記事にアクセスされた場合、こちらにリダイレクトされています。旧ダイアリーからインポートしたそのままの状態の為、過去記事は読みやすいように徐々に手直し予定。
 現在活動中のブログはこちら→ 〔ものかきの繰り言2023〕
 特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)

手を取り合って――『Gのレコンギスタ』感想・第17話(Bパート)

◆第17話「アイーダの決断」◆ (脚本:富野由悠季 絵コンテ:牧野吉高/斧谷稔 演出:居村健治)
ガランデン(クンパ大佐)の動きを警戒しつつ、瓦礫掃除の名目で出撃するベルリ達。ラライヤはネオドゥに乗り込むが、調整ミス?でオーバーロードしたネオドゥが制御不能に陥り、接近していたビフロンを意図せずハエ叩きでひっぱたいて先制攻撃してしまう。
以前にアルケインもやらかしていましたが……メガファウナの呪い?
ラライヤによるとネオドゥは「1000年使われてきたMS」との事ですが、リギルド・センチュリーでは兵器(MS)の強化・開発を行う必然性がなかったわけで、前世紀の遺産を部品の交換などしながら延々と使い続けてきた、という事か。
ブリッジでは老人達が自分達の責任ではないとアピールしたり、突然の接敵に指揮系統が混乱したり。
「ケルベス、オリバー、姫様は連れ戻せ!」
「えー?! ケルベス中尉、なんで出したんです?!」
「艦長、命令したんじゃないんですか」
と、Aパートのクリム達のやり取りとも重なる、それぞれの自己主張が楽しい。
ネオドゥとビフロンは、光って回る腕vs巨大ハエ叩き、というよくわからない戦闘をスタート(笑) ビフロンのポーズと攻撃には、『オーバーマンキングゲイナー』の、ゴーレムを思い出してしまう所。
ちょっと気になる点としては、富野演出の基本的な文法で言うと、“今回の脅威”であるビフロンが上手(画面右)、それに立ち向かうネオドゥが下手(画面左)に配置されるのが通常なのですが、終始、ネオドゥが上手に居る事。……まあ実際に戦闘ではネオドゥが押しっぱなしだったので、今回はそういう事でいいのか?
ビフロンは発進前にもバララがネジを締め直しているカットがありましたが、戦闘中にコックピット内部でパーツが飛ぶなど、とんだ不良品(笑)
技術部に関しては、トワサンガよりアメリアの方が有能なのかもしれない。
ジャハナムヘカテーも参戦し、マックナイフがプラズマクロー(電撃パンチ)を披露。マスクに名前を呼ばれたのが良かったのか、天才相手に善戦を見せるステファン。
リンゴの赤モランはトワサンガの戦力だと思われたようでヘカテーの攻撃を受けるが、腕ミサイルで反撃、と短い交戦ながら新たなギミック見せ。これまでろくに戦闘シーンの無かったリンゴくんも、そこそこやれる所を見せました。
戦況が混沌としてくる中、瓦礫掃除用の網を持ってロックパイ率いるモラン部隊がそこへやってくる。
「地球人はどこでも戦争をするな!」
ここはやや下手寄りなのですが、正面(それも北部=ニュアンス的な上方)から来る事で、仲裁者としての劇的な意味が付加されています。
道理をわきまえない地球人に対し、ヘルメス財団の重要性を説くロックパイ
「彼等を怒らせたら、フォトンバッテリーは配給されないんだぞ! そしたら地球上の電気は全て消えて、お湯のシャワーなど使えなくなる!」
前話のアイーダ「時代は、年寄りが作るものではないのです」に続いて、かなりストレートな台詞。
また、ヘルメス財団ヘルメス財団で独立独歩であり、ドレット軍は地球に対してエネルギーという生命線を握って優位に立ち回れるというわけではない、という事が裏打ちされてきました。


アイーダ「エネルギーと道具は、道徳的に正しい使い方が出来れば!」
ベルリ「それが出来なかったからっ、人類は宇宙世紀に全滅しそうになったんでしょ!」
アイーダ「カーヒル大尉は!」
クンパ「神にでもなれるような、方だったのかな?」
(第3話より)
逆に、ヘルメス財団スコード教が凡俗を超越した存在として、黙々と地球にフォトン・バッテリーを供給し続ける意味と理由というのが非常に気になってくる所です。
「宇宙の道理というのはだな! クレッセント・シップカシーバ・ミコシは、フォトンバッテリー運搬の為のヘルメス財団の船であるのだからして、石っころ一つぶつけるわけにはいかんのだ! 貴様達も瓦礫掃除を!」
「「手伝っていただく!」」
やたら大仰に見得を切りながら、ネットを広げて前進するロックパイ達。
ベルリ「ならば人類の、平和の為に!」
マスク「しまった! 先を越された!」
バララ「マスク、やるのか?!」
マスク「G−セルフに負けていいのか!」
クリム「やるからには負けられん!」
ミック「戦いがどうであれ、エネルギー源は生命線ですからね」
勇壮な音楽をバックに、誰が一番沢山瓦礫を集められるかレースがスタート(笑)
馬鹿っぽく演出されてはいるのですが、皆それぞれ、ヘルメス財団へのピーアール合戦も兼ねているわけで、手に手を取り合ってというわけでもありません。この、いっけん手を取り合えそうで、実際に手を握ってみたりもするけれど、でも腹の中では相手を出し抜く事ばかり考えているというのも徹底していて、そしてそれを徹底している物語上の意味も段々と見えてきました。
「ベルリは反射神経であれをやってしまう……けど、私は、お馬鹿な馬鹿姫にしかなれない」
メガファウナの防御についていたアイーダは、お掃除レースを見つめながらコックピットの中で考え込む。
落ち着いて自分を見つめ直してみた結果、株価がどん底である事に気付いてしまった姫様ですが、ここの姫様のベルリ評「反射神経であれをやってしまう」は、凄く、面白い。
ベルリ・ゼナムという、頭の回転が速く、咄嗟の判断力と行動力に優れる少年の、“最適解を実行してしまう”部分を巧く捉えています。そしてベルリはその反射神経によりカーヒルとデレンセンを殺しているわけで、作品としては必ずしも、それが無条件に良い事だとは描かれていない。
姫様は戦闘中にも、素直にメガファウナの護衛に戻りながら、
「それぞれの任務か……私の役割は、なんだろう」
と独白しており、やはり13話以降、明確かつ大きな変化が描かれています。
大騒ぎの中、ランチでこっそりとメガファウナ接触したクンパ大佐は、そのままメガファウナ内部へと単独で潜入する。
ここでエレベーターで降りてきたフラミニアとレジスタンスおっさん(茶)の
「全部教えてしまえばいいのですよ」
「時期尚早だよ」
という会話が流れてくるのですが、果たしてこれはいったい、何の事か。
おっさん茶は船内を漂うクンパ大佐に気付くと、フラミニアを誤魔化して途中でエレベーターを降り、急に不穏な音楽で会話をかわす2人。ちょっと長いですが、今後の展開に大きく関わりそうなので、やり取り書き起こし。

「ニュースを見てまさかと思ったが……」
大佐「ロルッカ・ビスケス殿がご健在であれば、G−セルフには核の自爆装置も仕込みましたかな?」
「貴公こそ、ヘルメスのタブーを破って、何をしようとしているのです」
大佐「私は争いの種を揉み消す為に地球に降りたのです」
「貴公が地球に降りた頃から、ゴンドワンアメリアでは、宇宙世紀時代の武装が拡大をしたのだぞ」
大佐「ここから地球に流れ込んだ技術者達が、薔薇の――」
「貴公ぐらいのタブー破りが出ない限り、地球人には宇宙戦艦などは建造できなかった」
−−−
(ここで一旦、緊急ハッチの開閉に気付いてやってきたアイーダと、フラミニアの会話にカットが切り替わり、空白)
−−−
大佐「私はG−セルフが現れるまでは、私が地球に捨てた赤子がどこで育てられているか知らなかったのです」
「何?」
大佐「貴公のやった事の方が悪辣なタブー破りでしょう。旧世紀の人類そのままに、憎しみ合いを増幅させるだけで」
「そ、それは」
大佐「違いませんよ。専門家と言われる人々の物の考え方はいつも一直線で」
ここで姫様がやってきてクンパは口を閉ざすとその場を飛び去り、その背中に声をかけるロルッカ
ピアニ・カルータ!」
なんと、クンパ大佐の正体は、前回ちらりと名前の出てきた、アイーダとベルリを地球に亡命させた人物”であった!
作画が怪しくなる中、衝撃の事実が発覚。
クンパ大佐の発言は額面通りに受け取れないという前提はありますが、クンパによると「地球に捨てた赤子がどこで育てられているか知らなかった」という事。また、「争いの種を揉み消す為」とも言っており、月での政争の火種を地球に捨て去る事で回避した、と匂わせています。
前回、2人を預けた先にはそもそも政治的思惑があったのではと推測しましたが、この発言を素直に受け止めるなら、そういった意図は全くなかった模様。一方で、ロルッカはヘルメスの薔薇の設計図を地球へ流出させたのはクンパでないかと指摘。これまでの大佐の、戦火の拡大を望むような動きとも合致しますが、大佐はこれを否定。
逆に、アイーダとベルリの行方を突き止めようとしたロルッカを悪辣なタブー破りと糾弾していますが、レイハントンという家の因縁を利用しようとした事への批判でしょうか。Aパートの感想で触れましたが、今作がどうやら意図的に“憎しみの連鎖のない世界”として描かれてきている事を考えると、「旧世紀の人類そのままに、憎しみ合いを増幅させるだけで」という言葉にも何やら重い意味を感じます。
結局クンパ大佐の真意は謎のままなのですが、「地球に捨てに行った」のか「地球に捨てに行かされた」でも変わりそうで、後者ならば、地球へ片道切符で降りざるを得なかったトワサンガ人としての怨念が、何かしらあるのかもしれません。
大佐はランチに戻ってメガファウナを離れ、アイーダはロルッカに自分の決断を告げる。
「レイハントン家とドレット家の争いの元も、ヘルメス財団にあるというのなら、財団のある所へ行ってみる必要はあります」
果たして、そこに宇宙の道理は見えるのか。冒険の旅は、更なる世界へ――。
最後は、外のみんな仲良く瓦礫掃除の光景を映し、鎮座するカシーバ・ミコシに焦点を合わせて、つづく。
姫様に対してロルッカが「ビーナス・グロゥブですよ……」と返しているのですが、名前と態度からすると財団の本拠地は金星に存在しているのか? ヘルメス教団という名称を考えると、更に水星に何かあってもおかしくはないですが。
さて今回、注目したい登場人物の大きな変化が二つ、あります。
一つ目は、ノレドがメガファウナの為に働くシーンが描かれた事。
そしてそれに繋がる形で、戦闘中に医務室でのノレドのシーンが、3つ、挿入されました。

軍医「え? ただのカナリアにはなりたくない?」
看護師「どうしたの?」
ノレド「わかんない」

ノレド「ラライヤはネオドゥに乗ったら、輝きだしているもの」
看護師「ラライヤさんが自立したんで、さみしくなったのよ。ね?」
軍医「そんな暇は無いぞ。アイーダ姫様のブレーキ役とか、ロルッカさん達に持って来てもらう不足品のリストアップとか、やる事はいっぱいある」
今回初登場の気がするのですが、しれっと姫様に失礼な事を言う軍医(笑)

ノレド「リストアップの仕事が終わったらさ、看護師になる勉強をしたいな」
看護師「あなたは歴史政治学を、やりなさい」
どこに行ってもお気楽極楽に見えたノレドですが、慣れない環境でラライヤの面倒を見る事により思いの外、母性による安定を得ていた事が窺えます。また、これまで最低でも2回あったメガファウナを降りるチャンスを使わず、ベルリについてきたノレドが、ただベルリの側に居られればいい、という以外の事もしっかり考えていた事も見えてきました。
そしてもう一つが、13話ぐらいから示されていた姫様の着実な変化が、今回も素直にメガファウナの護衛に回る、周囲の動きを見ながら自分の役割について考える、という事で明確に描かれた事。
この二つの変化が重要なのは、これまで話が進む程にどんどん要素が拡散していた今作において、これまでの物語の積み重ねが目に見える形になってきた、という点にあります。
ノレドがメガファウナの為に働くシーンが描かれなかった事、姫様が突貫娘である事、これまで何故そうだったのか、というのがしっかりと意図を持ってここで繋がった。
以前に姫様は「操縦が下手なのではなく、戦闘のセンスがないのだ」という話を書きましたが、アイーダ・スルガンというのは、総合的に自分が見えていない人だったのだな、と。そう考えると、カーヒルとの関係も、理屈めいた事を言う30男(いや実際の設定年齢は知りませんが)にころっと引っかかる小娘、という関係性は凄く納得できます。
ベルリのアイデンティティとモチベーションがぐらついているタイミングで、2人の少女が一歩先へ進もうとしている、という劇作の構造も綺麗。
あと、シンプルにお世話になった気持ちで「看護師になる勉強をしたい」と言うノレドに対し、そんなに簡単に決めなくていいと若者に学問を進める看護師さんが、とてもいい味。
この際、下手から上手に向けてお尻を押すという演出がともなっており、かなりポジティブに描かれています。
それから、チュチュミィ、医務室で見つかる!
そういえば、艦長がどこかから借りてきたと言っていた記憶があるので、もともと医務室にあったセラピー用アイテムだったのか。
正直なところ『Gレコ』は、1話1話は凄く面白いのだけど、トータルの物語としてはとっちらかったまま終わってしまうかも……という危惧というか覚悟を抱きながら見ているのですが、ああちゃんと段取りを繋げる気があるんだ、と今回で少し安心しました(笑)
この先への期待感が増した、という点でこの第17話はかなり大きい。……まあ、次の話でまたとっちらかる可能性はありますが(笑)
それにしてもこの感じだと、17話になってもまだわざわざ台詞にする「ユニバーサルスタンダード」というのが、壮大な伏線であるという可能性にドキドキしてきました(笑)
どんな伏線になるのかは、さっぱり検討もつきませんが。
最後にちょっと、まだ思いつき段階なのでメモ的なものなのですが、今作が「宗教」を一つのテーマに置いているのは確かとして、憎しみの連鎖が描かれない代わりに、どんなに話し合っても火種の収まらない世界というのは、宗教的欺瞞を間接的に描いているのかもしれません。
クリムの「みんなお友達」や今回のマッシュナーとサラマンドラ艦長の握手などは露骨ですが、どたばた戦った挙げ句に、最後はみんなで神輿を守る為にネットを広げてゴミ掃除、だけど誰も彼もこの先の戦争の事しか考えていない、というのは痛烈に皮肉げ(ゆえに今、アイーダが何を目指し、ベルリをどこへ導くのかが物語として問われている)。
R.C.は「宗教によって救われた(ている)世界」なのは確かとして、とすれば今作が描こうとしているのは、“宗教が人を救った後(次)の世界”なのか?
普通に考えると宗教戦争に突入するのですけど、そういう気配ではないので、ではそこをどう描くのか、この先の展開に期待が募ります。まずは、ヘルメス財団がどんな存在として描かれるのか、楽しみ。次回、とりあえず変なMSと戦う。