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宇宙の小石――『Gのレコンギスタ』感想・第19話(Bパート)

◆第19話「ビーナス・グロゥブの一団」◆ (脚本:富野由悠季 絵コンテ:越田知明/斧谷稔 演出:越田知明)
謎のMS部隊が迫っているとはつゆ知らず、クレッセント・シップではメガファウナのクルー達が、“遠くの物も近く見える”宇宙空間における彼我の距離感について、クレッセント副長の指導の元で体感訓練を行っていた。
「ここからあそこまで、1キロぐらいあるなんて……見えない。数字だけの理解は、数字だものな……」
姫様は引き続き、自分見つめ直し中。
この辺り、“旅”の過程において、宇宙での活動描写と噛み合わせながらキャラクターの心情を描いていく、というのはSFとドラマの融合として、いよいよ今作の真価が出てきたところ。また、身体性をともなった実感を描く事により、物語が“宇宙へ出た”意味を付け加えてもいます。
例えば第17話で、ガランデンから飛び出してしまったコンテナをマックナイフが回収するという、極端に言えば物語上なくてもいいシーンがむしろ時間を取って描かれていましたが、そういったディテールを細かく盛り込んでいく事により「宇宙での生活」にリアリティが生じ、そしてそのリアリティが存在する事により、「価値観の変化」が説得力を持ち得る。
割とさらっと宇宙に上がった今作ですが、そこで時間を重ねていくことにより、否が応でも「宇宙と人」が対比されていき、それは物の見方に変化を生じさせる。
そこに、旅の意味がある。
表面上の大騒ぎとは裏腹に、実は全てがひっそりゆったりと進んでいる今作ですが、そろそろ作品構造の意味が見えてきた感じもあります。
「何がおかしいんです?」
ヘルメット内部に聞こえてきたベルリの声に、反応するアイーダ
「みんな聞こえていますよ」
「オンマイク?!」
「切っちゃいけません。命取りになります」
宇宙ゆえに洩らした呟きは、宇宙ゆえに一人に収めておく事もできない、とこの状況設定も鮮やか。……言わないと姫様、迂闊にマイク切りそうだし(笑)
「わかっています。私の父は、間違った事を教えたんですか?」
「ええっ?! 軍人さんとしては、立派な方ですよ。ぼ、ぼくの運行長官の母は、無骨者ですけど、責任感の強い、立派な母です」
ベルリ、必死のフォロー(笑)
同時に、実の両親の意志というものを感じてしまった上でなお、ベルリがウィルミット母を好きである、という表明にもなっていて、良かった所。
「オーシャンリングというからには、海があるんでしょうか?」
「海に似たようなものです。我々がそのようなものを作ってまでここで暮らしてきたのも、地球が、決定的に貴重な星なのだという証拠でもあるのです」
体感訓練を終えた姫様はエル・カインド艦長に問い、そこにベルリがやってくる。
「その地球では、キャピタル・タワーを取り合おうと、宇宙艦隊が睨み合っているんです」
「経済的に豊かになってきからでしょう」
「そんな大人の理由はいいんです! 僕はそういう戦いを止めさせる為には、姉さんのような人には、ヘルメス財団の偉い人に会わせたいし、ビーナスリングとか、オーシャンリングといったものを見て貰って! ……宇宙にある海の夢といったものを見つけ出して欲しいんです!」
「ベルリ……」
ここでハッキリと、自分の方針、現状の目的を口にして、意志として伝えるベルリ。
これが一連の流れの中――つまりオンマイク宣言である、というのは重要で、ベルリもその自覚はあって、ある意味では、自ら、オープンにする事で退路を断っている。
その上で、基本的に頭の回転が速くて如才ないベルリが、口ごもった後で「宇宙にある海の夢」というちょっと飾った言い回しになる辺りは、ベルリには珍しく、少年の照れ、みたいなものも窺えて、それゆえに生っぽい。
さて、ここで個人的にちょっと気になるのが、カインド艦長の「地球が、決定的に貴重な星」発言。
従来、富野監督の『ガンダム』タイトルにおいては、人類の生息圏は地球と月、その周辺のスペースコロニー群、そして番外にして特異点としての木星が置かれているだけで、その“外”に世界が広がる事はありませんでした。
勿論、劇中の科学技術の問題もありますし、地球−宇宙で戦争状態という背景もありますが、それら様々な事情をひっくるめて、物語そのものの中に、“その外の世界”への方向性そのものが存在していませんでした。
個別の作品世界の枠組みは、その作品で何を描きたいかと密接に繋がっているので、広げればいいというわけではなく、その点で富野『ガンダム』シリーズは宇宙に広がりつつもあくまで地球中心の視点の物語でした。
その旧作に対して、今回、金星圏、という新たな舞台が登場している。そして今作の物語そのものが、外へ外へと広がっていく、という構造をここまで取っている。
にも関わらず、金星圏で暮らす人々もまた、相変わらず地球に強いこだわりを持っている。
勿論、旧世紀を経てリギルド・センチュリーで約1000年が経過したとはいえ途中で人類文明の挫折と衰退が生じており、人類の生息圏が広がったとはいっても宇宙的視野に立てば金星はまだほんのご近所に過ぎません。そこで生きる人々にとって、地球を中心とする感情は当然のものとはいえます。
しかし、意図的に視聴者に(そして主人公達に)見える世界を少しずつ広げてきた今作において、金星圏で出会う人々の在り方がやたらと地球に拠っているのは、物語の構造としてどうも、意図された違和感、とでもいったものを覚えます。
SFにおいて、人類が別の恒星系へ進出して久しい世界で、地球が取るに足らない扱いを受けている、場合によって存在さえ忘れられている、というのは50年以上前からある目新しくないアイデアですが、今作の到着点はむしろそちらではないのか。
金星圏の人々が地球を大事にしているという描写が逆に、ベルリ達が目指す未来は地球から解放される事ではないのか、という物語の先行きを暗示しているのではないか、などとふと思い立ったのでありました。
……とか書きつつ、監督の志向は多分そちらではないだろうと思ってはいますが(^^;
敢えてやる、という可能性もあるかなーという話。
カインド艦長は、現在の財団の統率者ラ・グーは高潔な人物であると請け合い、ベルリのオンマイク告白を背景の方の通路で聞いていたノレド、ラライヤ、マニィの3人は喜びのスクラムを組む。
ラ「なんか、良かったわね」
マ「ベルは、アイーダさんを姉さんと受け入れられたんだ」
ノ「強い子だよね。耐久力ある」
思いの外しっくり来る女子トリオですが、この3人にとってはメガファウナの目的よりも、ベルリが立ち直れるかどうかの方が重要である、というのも微笑ましいといえば微笑ましい。
そんなこんなで人間関係が一山越えたクレッセント・シップに、ビーナス・グロゥブからの出迎えを名乗りMS部隊が接近してくるが、それはカインド艦長らも見た事のないMSであった。
ベルリ「あれがビーナス・グロゥブからの出迎えですか?」
ケルベス「伝説のMSのように見えるな」
ラライヤ「こ、これって、G系のものじゃありません?」
外に出ていたクルー達は、デッキに降り立つ3機のMSに、不穏な気配を感じる。
ベルリ「あのポーズ、出迎えですか?」
ケルベス「穏やかじゃないな」
妙な様子に即座に頭くっつけて意見交換するベルリとケルベスの呼吸が、キャピタル・ガード鉄の掟! という感じで素敵。
先に「クレッセント・シップをいただく」と宣言しMS部隊を率いる男はブリッジに接近すると、クレッセント・シップの解放を要求、地球人はメガファウナへ戻れと指示。この際、男に向けて手を振って、一足先に姿を消しているフラミニア。
男はそのままブリッジに乗り込んで来ると、ジット・ラボラトリィ技術保全局長キア・ムベッキを名乗る。
行動といい、粗野な雰囲気といい、どこか懐かしのベッカー大尉を思わせるキア(名前も似ている)ですが、宇宙山賊みたいなノリ。……いや、れっきとした会社員を名乗ってはいるのですけど。
メガファウナが勝手な行動を取ったら!」
「了解しています」
「ぬ……可愛くない女だ」
なんか、姫様への反応が新鮮で面白い(笑)
外に出ていたメンバーもひとかたまりになってブースターで船内へ戻ろうとするが、何故か格納庫のハッチが開いている事に気付く。急ぎG−セルフの元へ向かったベルリは、何者かがハッパを突き飛ばすのを目撃する。
「何してるんです、貴方たちおわぁぁぁ?!」
船内とはいえ外に向けて扉が開放された状態では、どんな一大事になるかもしれないので、咄嗟にハッパさんの手を掴むベルリの表情が必死なのが非常に良く出来ています。
「G−セルフを盗み出すつもりだ!」
「誰が!」
コックピットに居たのはフラミニアと、その助手ヤーン。


「パネルもスタイルも、ユニバーサルスタンダードなのに、なんで私に動かせないんだ?!」
「この機体は両親からの遺産です! ユニバーサルなものじゃないんです。僕と姉とラライヤだけのものなんですよ」
「宇宙で使う道具は、誰にでも使える物でなくてはなりません!」
「G−セルフだけは違うんです!」
「それはタブー破りです!」
突然の激しい音楽とともに、豹変したフラミニアがベルリに注射器を突き立てる!
17話の感想で、

それにしてもこの感じだと、17話になってもまだわざわざ台詞にする「ユニバーサルスタンダード」というのが、壮大な伏線であるという可能性にドキドキしてきました(笑)
と書いたのですけど、本当に伏線だった!(笑)
成る程「宇宙で生活する」という事において、「ユニバーサルスタンダード」は命の担保として非常に重要なものであり、それに該当しないG−セルフというMSは、そもそも極めて異質なものであった、と。
今作、何故G−セルフが特別視されるか? という点について初期からあまり説明が無かったのですが、ここでようやく、それがリギルド・センチュリーの人々にとっての原理原則、生活に根付いた哲学にとって異質だから、という事がハッキリしました(同時に、レジスタンスの老人2人が如何に強烈なタブー破りを行っていたかが露わになる)。
それをここまで引っ張ってきた事の意味、というのはまあ、全体通して見た時に考えてみたいと思いますが、個人的にはフラミニアの豹変が刺激的で面白かったです。
フラミニアに睡眠薬を注射されて意識を失う寸前、ベルリがぼそっと、「ガンダ……」と呟いているのですが、これはどこから出てきたのかなー。
どうやらキアと繋がっていたらしく、G−セルフを強奪しようとしたフラミニアのもくろみは失敗に終わるが、クレッセント・シップはキアの支配下に置かれ、危険分子としてブリッジに集められて寝袋にくるまるメガファウナの面々に通信が届く。
メガファウナのクルーに教えておく! 我々はトワサンガのハザム政権から、貴公らの処分を頼まれたという事もあって、出迎えたのである。それは承知しておいてもらいたい」
今作ここまで、明確な善玉/悪玉という描写は無いなりに、初期の宇宙海賊だったりキャピタル・アーミィだったりドレット軍だったり暴走気味のクリムだったり、好んで戦火を広げようとする存在をベルリが戦う相手の側に置いていたのですが、ここに来て、ジット団に情報を流したのは、ドレット軍と軋轢のある政権側だった、というまた一つ、ねじれた展開。
まあ政権側は政権側で、リンゴ情報以外には何を考えているのかほとんど描写は無かったわけではありますが、ドレット軍とジット団を繋げてしまえば簡単になる所を、徹底して、簡単にする気が見えません(笑)
クレッセントシップのブリッジではそんなキアにカインド艦長が抗議し、「ロザリオ・テン」という名前が登場。組織名なのか個人名なのかはわかりませんが、雰囲気としてはヘルメス財団の意志決定機関みたいな感じか。
トワサンガの政権と手を組み、どうやらそのロザリオ・テンに反攻しようとしているらしいキアは呟く。
「月は満ちたのさ」
ビーナス・グロゥブを目前に、緊迫する事態。果たしてベルリ達は、ヘルメス財団のお膝元で何を目にするのか?!
メガファウナキャピタル・テリトリィに向かう道中を主に描いた第9話と似た、月からビーナス・グロゥブへ向かうメガファウナ宇宙航海記、とでもいった構造でしたが、非常に面白かったです。実は『ガンダム』どころか富野作品というくくりでも非常に珍しい、戦闘らしい戦闘が無い回でしたが、そんなエピソードに注ぎ込まれる凄い作画リソース(笑) しかし冒頭のマラソンに始まって、それが大正解。価値観の変質していく旅、というものを細やかに描いた傑作回でした。
今回、春番組の予告が入る都合でTV放映版の次回予告が15秒バージョン。ベルリがまたも天才宣言をしていたりするのですが、公式サイトで公開された30秒バージョン予告ではナレーションが全く違うものとなっており、だいぶ印象が違います。15秒バージョンはキーワードの使い回しとかやっつけ感が漂うのですが、実際、やっつけ疑惑……(^^;