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『鳥人戦隊ジェットマン』感想32

◆第44話「魔人ロボ!ベロニカ」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:井上敏樹
クレジットに並ぶ、凱のガールフレンドという不吉な文字(笑)
本編は、バイラム本拠を斜め見下ろしの構図で取る、というちょっと面白いカットからスタート。いよいよ最強のロボが誕生し、トランザはジェットマンを葬り去る為にそれを起動しようとする。
その頃、香は凱と最近うまく行っていない事をアコに相談していた。
「ま、なんだね、私としては駄目になると思ってたよ」
女子高生は、凄く、ストレートだった(笑)
一方の凱は、ブーメランビキニパンツを装備して、プールサイドで女をはべらせていた。
揺らぐ水面に映る香の笑顔――数話に渡って描かれてきた、離れつつある凱と香の心の距離ですが、前回今回である程度ハッキリしたのは、「凱は香個人は愛しているけど、香に付随している要素は愛していない」という事。
まあ、よくある話ではあるのですが、劇中で成立したメンバー間カップルに対して、男女関係におけるそういうリアルを投げ込んできた、というのが今作の淀みのない所。
凱は香を愛しているけど、香の生きてきた環境や香の持っている物を受け入れる事が出来ない……今のところ「俺の事を本当に愛しているなら全てを捨てられる筈だ」と言い出していないだけマシですが、凱のこれは明確に、凱の身勝手さといえます。
で、どうして諸々の人間関係が丸く収まっていた流れからこの終盤でその身勝手さによる亀裂を描かなければならなかったというと、凱がそういう身勝手で我が儘な男だから、と言う他ありません。
そしてそれは今作において、外せない部分である。
凱って、その立ち位置と人気から、実際以上に美化されたイメージが広がっているキャラクターではないかと思っているのですが、基本的に非常に自分勝手で我が儘な男としてその描写は一貫しており、そこから生じる格好悪さというのもしっかりと描かれています。
いっけん悪ぶっているけど情のわかるいい男……かというと、実はそういった“おいしい”キャラクターというよりも、こいつは駄目な男だ、という描写が多い。
にも関わらず、凱には確かに“格好良さ”がある。
それが何かといえば、凱が常に「自分」を貫き、“譲れない一線”を持っているという所にあります。
凱の身勝手さも我が儘さも「自分」であろうとしている故であり、そしてそんな「自分」に胸を張って生きようとするが故に、凱はその譲れない一線で必ず命を張る。
純粋「ヒーロー」である(たらんと望む)天堂竜に対し、己の為に生きる「人間」の象徴として置かれているのが凱ですが、アンチヒーローであると同時にそんな自分勝手で我が儘な男がギリギリの所で誰かを守る為に命を賭ける事で、より鮮烈にもう一つの「ヒーロー」の姿が浮かび上がる、というのが、今作のベースにある構造。
そして凡百の作品なら、そこで凱を単純に「ヒーロー」にして後は綺麗に均してしまう所を、今作はそこで手を緩めない。「人間」結城凱を描く事が今作における「ヒーロー」の対比としての「人間」を描く事であるがゆえに、凱の持つ身勝手さという負の部分を、簡単に消してしまわない。
変化や成長は確かにあっても、凱は自分が自分である事にこだわり続け、“譲れない一線”を引く……何故ならばそれは、凱にとって命を張るに値する事だから。
結城凱は結城凱であるが故にジェットマンとして戦い、結城凱であるが故に己に忠実であろうとする――良い面も悪い面も全てひっくるめて、結城凱とはすなわち、己が己自身である事に誇り高い男、と言えます。
だから凱は、自分にお仕着せの衣装をまとわせようとする香に不満を抱くし、香の両親に対して「人をレッテルでしか判断できねぇ」と強く反発する。
個を捨てて大義に生きようとする竜の姿にいびつさを感じて苛立ち、しかし同時に、一廉の男と思わざるをえない竜に自分を認めさせたい。
普通に生きていれば出会う筈がなかった鹿鳴館香という女の心を自分に向けたい。
「俺を見てくれ! 俺を見ろ!」
第13話で香に向けて放ったこの言葉こそ、恋愛感情の吐露だけではなく、結城凱という男の在り方なのでしょう。
ここで興味深いのは、今作において「ヒーロー性」の対極に置かれている「人間」結城凱が、「社会性」の欠落、というヒーロー要素を抱えている事。
「ヒーロー性」と対比する形で「人間性」を描く時に、社会との連結、を用いるのはスタンダードな手法ですが、むしろ凱は、社会にコミットしていない。社会に埋没しない「自分」をこそ、他者に認めさせようとしている。
…………あーそうか、実は長らく、なぜ鹿鳴館香は今作のヒロインなのか? というのが今ひとつ掴めていなかったのですが、今やっと、腑に落ちた気がします。
鹿鳴館香は今作における「社会性」のシンボルである。
香は一応、第4話で婚約者を袖にして生まれ育った上流社会に背を向ける事で「ヒーロー」としての解脱を果たしているのですが、第8話では社交界の付き合いでダイヤのお披露目パーティに出席していますし、その後もしばしば、鹿鳴館家での生活が描かれています。シンプルに“お嬢様”キャラという特性を見せる為だと思っていたのですが(勿論、その要素はあるでしょうが)、繰り返し登場した爺やの存在も合わせ、香と社会の連結が織り込まれていたのか。
言ってみれば、ヒーロー作品における、「ヒーロー性」「人間性」「社会性」という要素が、
「ヒーロー」=竜
「人間」=凱
「社会」=香
に振り分けられていた、と。
香にとっては個人は所属する社会の中に存在しているものであり、自分を愛するという事は自分を構成している周辺要素を含めて受け入れるのが当然。
第22話において竜に連れ出された香が、「会わせたい人がいる」 と言われて、すわ竜の両親?! と大興奮するのですが、あれは香の都合の良すぎる乙女妄想ではなく、香の中では、恋愛のステップとして比較的早い内にお互いの社会的背景といえる両親に挨拶するのはごく当たり前であり、てっきりギャグだと思っていたのですが、ギャグでは無かった……!
かくして凱と香の恋愛関係は、凱が「自分」を捨てるか、香が「社会」を捨てるか、の選択を迫る所に行き着いてしまっており、必然的な亀裂に帰結する。
こう見ると、辿り着いた時に改めて書こうと思いますが、竜の存在を含めて最終回へ凄くロジカルに繋がっているのだなぁ……。
あと同時に、個人的に香に関していまいちピンと来ない理由がわかったのですが、社会に対する帰属性の強さというのが、特撮ヒロインとしては一種の“つまらなさ”に見えているのかも。
香と凱の心の揺らぎを描くこの二つのシーンでは、気付かない内に市民がバイラムにさらわれている光景が挟まり、そして市街地の真ん中に、巨大な黒いモノリスが出現する。バイラムは更に次々と市民をさらっていき、その生体エネルギーにより、モノリスの中から最強のロボが起動する!
「魔人ロボ・ベロニカ、出陣」
出現したベロニカは雨宮慶太デザインで、ここまでと大きく変わったラインが、存在感を際立たせます(ある程度、セミマルを汲んでいるのかな、という感じはありますが)。
トランザの嫌がらせ(或いは不在の本拠で変な工作をされない為か)によりベロニカにはラディゲ、マリア、グレイも乗り込み、トランザに不満たらたらの割に、背後で真面目にパネルを操作しているマリアは、根の真面目さが窺えます(笑) マリア、記憶は無いし人格も改造されているっぽいのですが、多分、3割ぐらいリエの素が残っている。
出撃したジェットイカロスロケットパンチやアックスを浴びせるが、ベロニカは敢えてそれを受けて倒れてから、余裕の反撃。ハンマーを両断してイカロスを蹴散らし、応援に来たガルーダを口からビームで撃墜すると尻尾アンカーでぶん回し、合体グレートスクラムも掟破りの妨害、とかなり気合いの入ったミニチュア市街地バトル。
戦隊でここまでずらりとミニチュアのビルを並べたロボ戦もちょっと珍しい気はするのですが、ベロニカが全方位ビーム放っても、ロボが激突しても、火薬は飛ぶけど周囲のビルが壊れないのですが……映画とか、別の作品のセットでも借りたのか。或いは、次回、派手に壊れるのか。
「貴様達の悲鳴ほど、心地よい音楽はない。最後だ、ジェットマン。ふふふふふふふ、ははははははは」
いよいよジェットマンが追い詰められたその時、ラディゲの脳裏に走馬燈のように浮かぶ、屈辱と友情のめもりぃ。
ジェットマンは俺の獲物! どけぇ! トドメはこの手で刺してやる!」
ラディゲはトランザを殴り飛ばし、おいしい所だけいただこうとするが、すかさずトランザに殴り返される(笑)
「ラディゲ、貴様ぁ……!」
この局面で、芸術点が大量に加算されそうな華麗な内輪揉めによりベロニカが動きを止めた隙に窮地のイカロスは反撃し、損傷したベロニカは退却。
まあ、嫌がらせで横に座らせたのが悪い。
ラディゲとトランザの足の引っ張り合いは、端から見ていると実に最低なのですが、本人達はプライドを賭けて争っているつもりなのが、実に素晴らしい(笑)
バイラム本拠で修繕を終えたベロニカが再出撃し、イカロス修理中だったジェットマンテトラボーイを時間稼ぎに送り込むが、これまで最強レベルの戦力だったテトラボーイすら、ベロニカにあっさり踏みつぶされてしまう。修理が終わって出撃したグレートイカロスのバードメーザーも通じず、ベロニカの胸から伸びた触手が、遂ににグレートイカロスの装甲を突き破る!
巨大ロボの胸のど真ん中に大きな穴、というのはなかなか衝撃的なカット。
やむなくグレートイカロスを放棄するジェットマンだが、脱出中に分断され、香、雷太、アコがトランザに囚われてしまう。トランザは3人の生体エネルギーをベロニカの動力に用いると言い残して姿を消し、ジェットマン完敗、残されたのは竜と凱の2人……という絶体絶命の局面でつづく。
いよいよ最終盤ですが、ここでバイラムの繰り出してくるのが巨大ロボットで、しかも幹部4人が乗って操る、というのは、定期的にバイラム幹部が嫌な上司打倒の為に一致団結する姿を見せてきただけに、妙なおかしみを与えています。もちろん絆の力が発動するわけはなく、むしろ絶好機に仲間割れを誘発するのですが、恐怖と猜疑心による統制は身内の暗闘しか生まないという所も含め、今作らしいスパイスの利いた所。ベロニカの強さを見せつつ一時退却させる理由付けとしても、ここまでの物語の蓄積が効いており、ご都合部分を巧く和らげています。
次回――男の友情パワーは果たしてどちらに微笑むのか。竜、凱、トランザ、ラディゲ、男達の意地と誇りがぶつかり合う!