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『鳥人戦隊ジェットマン』感想33

◆第45話「勝利のホットミルク」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:井上敏樹
「凱……どんなに強い相手でも、俺達に出来るのは戦う事だけだ! 修理を急ごう」
3人の仲間をさらわれ、グレートイカロスは損傷、窮地に追い込まれるジェットマンだが、竜と凱は諦める事なくグレートイカロスの修復を急ぎ、小田切長官はベロニカを打ち破る為の方法をシミュレートする。
その頃、ベロニカのコックピットではラディゲがこそこそしていた。
「トランザ……このままで済むと思うな」
翌日、ベロニカが姿を現し、応急修理で出撃するグレートイカロス
「正義とは悲しいものよ。負けるとわかっていても、戦わねばならぬとはな」
分の悪い戦いを強いられるグレートイカロスは、戦闘中に応急処置のエネルギーチューブが外れるアクシデントにも見舞われ絶体絶命に。凱が腕力で回路を強引に繋いで何とかその危機を脱出するも、再び、触手攻撃で土手っ腹に風穴を開けられてしまう。だがその時、ラディゲが嫌がらせの仕掛けを発動させ、トランザが吹き飛ばされて機能停止。竜はその隙に、触手を辿ってベロニカ内部へ突入する事を決断する。
「凱! 今度は俺が行く。後は頼んだぞ」
「竜! …………この戦いが終わったら、一杯おごるぜ」
「ああ。ホットミルクを頼む」
「砂糖抜きのな」
戦場で絆を結んだ男同士のベタなやり取りなのですが、凱がいつの間にか、竜の好みを把握している所がおいしい。
トランザとラディゲが醜い内輪揉めに盛り上がっている間に、仲間達を救い出すべくベロニカの中へと入り込む竜。
とことんまで足を引っ張り合うバイラム幹部ですが、結局、悪はその精神性ゆえに負けるという点は物語を通して徹底されています。
悪は弱いのでも間抜けなのでもなく、他者を見下し認める事が出来ないという、悪の本質ゆえに負けるのだ、というのはいっけん善悪を単純に割り振っているようですが、「悪」とは何かを真っ正面から描く事で、一歩間違えると自分達が簡単にそちら側へ転がっていってしまうという鏡像を見せる事であり、大事な部分であると思います。
特に今作ではジェットマンが団結するまでに長い時間がかかった事から、その部分がより鮮烈に物語を貫く形で描写されており、色々な仕掛けの張り巡らされた中、物語の芯にはかなりストレートに、「善」と「悪」とは何か、というテーマが織り込まれているというのは面白い所。色々と眩惑しながらも『ジェットマン』の本質が決して奇をてらった問題作、ではない事が窺えます。
「ラディゲ、貴様の命……ベロニカに捧げるがいい!」
今日も一騎打ちでトランザにのされたラディゲ、とうとう養分にされる。
グレイとマリアはとりあえず2人の泥試合を放置し、グレートイカロスを仕留めようとベロニカを操り、1人コックピットに残った凱はその猛攻を必死に凌ぐ。
「死んでもこの手を離さねぇ! 頼むぞ、竜ぅぅぅぅぅぅぅ!!」
ラディゲを動力炉に叩き込んだトランザはレッドホークの前に立ちふさがるが、ここで、死の間際で何かに目覚めたのか、思わぬ力を発揮する裏ミントン伯爵。
「俺は死なん! トランザぁぁぁ!!」
何とラディゲはベロニカのエネルギーを逆に吸収すると、戒めを脱出し、急な動力停止に困るグレイとマリア(笑)
ジェットマン、お前達は俺の獲物。トランザの手にかかってはならん!」
満身創痍のラディゲは嫌がらせに雷太を解放し、ようやく自由を取り戻した3人はトランザに追い詰められていた赤のピンチを救うと、揃って脱出。トランザもコックピットに戻り、いよいよ、グレートイカロスvsベロニカ、最後の戦いがスタート。長官が修理していたテトラボーイが復帰し、バードメーザーに乗せてテトラボーイを打ち込むという、シャイニングテトラアタックによって、ベロニカを撃破するのであった。
バイラムの内輪揉めを挟みつつ、凱の献身、竜の突撃、竜を救う雷太達3人、長官が新必殺技を発案、とそれぞれの見せ場がしっかりと盛り込まれての大逆転。
バイラム幹部は何とか本拠に戻り、額から流れ落ちる自らの血に愕然とし、次いで嗤い出すトランザ。そしてラディゲの姿は、そこには無いのであった……。
(ラディゲ……いったい、どこへ……)
明らかに嫌いそうなのに、マリアがなんだかんだ随所でラディゲを気にするのは、洗脳のついでに条件付けでもされているのかしら。
ジェットマンの方は、祝勝会。
「凱、ごめんね。心配かけて」
「ああ、心配したさ。俺達は仲間だ」
後半の台詞をアコと雷太に向けてかけると、凱は背後のカウンターに座り、マスターに注文。
「ホットミルク、砂糖抜きでな」
「こっちはマッカランのストレート」
私服の長官が入ってきて香達のテーブルに近づき、2人の男の背中を微笑ましく見守る中、お互いの飲み物を交換した竜と凱が約束の乾杯をして大団円……なのですが、このシーン、非常に意味深い要素が盛り込まれています。
それは、香が明らかに凱に向けてアピールしているのに対し、これまでなら間違いなく香にアピールを返した筈の凱が、台詞の後半を「仲間」に向けている事。他のメンバーの事も本音では心配しても、そんな事は口に出さなかったであろう凱がそれをストレートに口にしている、というだけならただのいいシーンなのですが、ここでは香が他のメンバーとフラットに扱われている。
そしてその後、香の表情が一度も明確に映されません。
凱はテーブルに背を向けてカウンターに座り、後から来た長官がテーブルに近づくも香の表情は見えず、そこから一度、長官にズームアップした後、カット変わるとカウンターに座る竜と凱を手前に、その間に奥の長官が見える、という構図。




長官

雷太 〔机〕 香
アコ 〔机〕  

竜   凱

−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(カウンター)

カメラ

ここで周到なのは、“男達の背中を見守る長官”に焦点を合わせる(物語上の意味を与える)事で、ごく自然に、竜と凱の背中に、香達3人を隠してしまっている事(カット上は、竜・凱・長官、の3人しか映らない)。
普通にやるとこのシーン、普段の扱いから考えると長官が出てくる必要性はほぼ無いのですが、そこに長官を出す事によって、極めて違和感なく凱の背景に香を消してしまう事に成功しており、(恐らく)長官が珍しい私服姿なのも含め、かなり計算されたシーンになっています。
恋人達の遠ざかる距離をちらつかせながら、物語はいよいよ終幕へ……の前に、トマト大王がやってくる。