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『鳥人戦隊ジェットマン』感想36

◆第48話「死を呼ぶくちづけ」◆ (監督:蓑輪雅夫 脚本:井上敏樹
「健気だぞ、マリア」
戦闘員と訓練を行うマリアに、セクハラをしに姿を見せるラディゲ。
ベロニカの動力を吸収し、ゴミ捨て場ダイブを経験したラディゲが以前よりも強い力を得ているというのはマリアも認めている所らしく、冒頭から、前回ラストのトランザをぐりぐり踏むシーンをプレイバック。……何も開始直後からそこを流さなくてもという感じで、舘大介さんが石を投げられたのは、井上敏樹ではなく蓑輪監督のせいではないのか(笑)
……まあ、それ以外だと、調子に乗って突撃したらレッドホークに見事に返り討ちに遭うシーンしか無いので仕方がない。
「強くなりたいか、マリア」
「――誰よりも」
「今の俺なら、おまえの夢を叶えてやる事が出来る。俺の力を得て、おまえは悪の女王として、誰よりも華やかに、輝くだろう」
力を求めるマリアに、ラディゲは自らの血より生み出したヒトデを貼り付ける……。
ラディゲが折に触れ自分の血を「聖なる血」と言うのは、ラディゲの駄目な感じが一言に集約された、今作でも屈指の名表現だと思います(笑)
その頃、基地でおめかししていた竜は、買い物帰りのアコに囃し立てられる(なおこの際、香がアコと連れ立っているのがポイント)。
「……パーティなんだ。知り合いの、バースデーパーティ」
花束とバースデーケーキを用意し、竜が向かったパーティ……それは瀟洒なレストランでの、葵リエ・エア誕生会であった!!
そこには居ない恋人に向けて笑顔を向ける竜の姿が、真剣なだけに超怖い。
もともと竜の抱えていた狂気というのは、リエを失った事を受け止め切れない事による心の防衛反応に基づく、復讐の原動力としての純粋戦士主義だったのですが、リエ=マリアと知り、仲間達にも自分達の事情を話した第32話以降はそれが少し変質しています。
以前は「戦士」にこだわる事で意識を「復讐」(表向きは、「地球を守る正義の戦い」)にだけ向けてリエを失ったという現実から心をガードしていたのですが、リエを取り戻すという希望を抱いてからは、「リエを取り戻すのに失敗する」という恐怖から目を逸らす為に戦士の狂気が機能している。
竜はリエを取り戻す事を誓いつつ、実は取り戻せない事に恐怖しており、しかしレッドホークとしてそれを認められない。その抱える揺らぎが、リエの墓をそのままにしておく事や、前回その墓に花束を持って訪れている姿に現れているといえます。
ここで興味深いのは、この竜の抱えているものが、「ヒーローの狂気」から、竜自身も知らない内に「人間の感情」に近づいている事。
この場合「ヒーローの狂気」というのは、“リエは必ず取り戻せると信じ抜く事”であり、それに対して「人間の感情」とは、“リエを取り戻せない可能性に恐怖する事”となります。
これはある意味で当たり前の感情と言えるのですが、いつの間にかヒーロー物がそれを「ヒーロー性」によって無自覚に歪めていたのではないか(逆に言えば、本来それは、自覚的にやるべき描写ではないか)、という所を突いているのが、実に今作らしい部分。
「リエを取り戻すのに失敗する」と考える事から目を逸らす為に、竜は戦士の狂気にすがらなければならない。しかし竜は確実に自分の幻想が作り出したともいえる「純粋ヒーロー(の仮面)」から「人間」に近づいており、竜の恐怖はいわば、第18話の凱における「香……怖いんだ。本当はどうしようもなく。死にたくねぇ! 死にたくねぇぇっ!!!」にあたるといえます。
第18話は、形骸化しつつあったヒーロー物において、そのフォーマットを抑えながらも、結城凱という男を通して“生身の人間”を描き出そう、という『ジェットマン』の野心的試みが一つ実を結んだ記念碑的エピソードなのですが、それがここで竜に重なってくるという、実に見事な構造。
定期的に呟いていますが、改めて見ると、本当に良く出来ているなぁ……。
「リエ、誕生日おめでとう。……今日で、おまえも22歳」
妄想リエと会話を始める竜……て、リエ若っ! というか、ふけが(以下検閲)。
まあ戦隊も、しばしばキャラクター造形よりマイナス5歳ぐらいというファンタジー年齢が設定されている場合がありますが、今更ながら今作もそうであった事が判明。
妄想「今日はどうもありがとう。次の誕生日もまた一緒にいられるかな」
「ああ。それじゃ乾杯しようか」
妄想「乾杯」
妄想のリエと会話し、妄想のリエとグラスを合わせる竜――映像的にはリエ役の女優さんを置く事によって、ああ、竜には“見えている”し“聞こえている”のだなぁ……というのが真に迫っており、東條監督に負けじとばかりに、蓑輪監督も攻められるだけ攻めてきます。
(リエ……来年の誕生日は、きっと2人で)
だがそのリエ=マリアは、ラディゲから得た力の求めるまま、次々と男達を毒牙にかけて血を吸い尽くす赤い薔薇の女と化していた。
「見るがいい、グレイ。人間の血を吸い続ける事によって、マリアは魔獣へと変貌していく。やがて完全に変貌を遂げた時、マリアは己の心を失い、俺の操り人形となる」
「――?!」
「フッ、永遠に俺のものとなるがいい……マリア」
マリアを気遣うグレイに向けて、事細かに解説するという嫌がらせを敢行するラディゲ。グレイは実力者かつ劇中で崩しにくいポジションという事で、これまであまり嫌がらせを受ける事が無かったのですが、ラディゲの性格の悪さと現在の力への自信が見えると共に、いわゆる説明の為の説明台詞が、きちっと物語の中に入り込んでいるのが巧い。
「マリア……。もういい。マリア……おまえはラディゲに利用されているだけだ」
「うるさい!」
爪と角が生え、醜い魔獣の姿へ近づいていくマリアを止めようとするグレイだが、マリアはグレイにすら攻撃を仕掛けると姿を消す……。
その頃、凱は後楽園ゆうえんちで面白くなさそうに、香ではなくガールフレンド2人をはべらかしてデートしていた。先にスカイキャンプで、香がアコと買い物から帰ってくる場面が描かれており、凱と香の関係の変化がそれとなく匂わされています。
そんな凱の前に現れる、赤い薔薇の女。
(おおっとぉ……積極的)
素晴らしい、駄目人間ぶりです(笑)
だが凱は、すんでの所で怪しい気配に気付いて女を突き放し、女の正体がマリアである事に気付く。凱の連絡でジェットマンが集合するが、その時、突如ビル街に巨大な怪獣・ラゲムが姿を見せる。
ベロニカの動力炉から脱出後のラディゲの体の異変が繰り返し挿入されており、明らかに正体はラディゲなのですが、前回の次回予告がマリアの変貌からこの映像にナレーションで繋げ、この怪獣はまさかマリアの変身?! と含みを持たせていたのが、かなり秀逸。本編もテンション高くボリューム濃厚で素晴らしいのですが、「帝王トランザの栄光」辺りからの、次回予告は非常に良い出来。
「竜、ここは任せた!」
「すまんみんな」
マリアを竜に任せ、凱達はジェットイカロスを召喚。ここで凱が素早く竜の気持ちを汲み取って、手分けしての対応を指揮するのが格好いい。
「リエ、思い出せ……思い出してくれ、俺達の楽しかった日々を」





(しばらく、いちゃいちゃ回想をお楽しみ下さい(※何度目だ))



だがマリアは竜の言葉に耳を貸さず、半魔獣化。
「リエぇぇぇぇぇぇぇ!!」
絶叫した竜は変身し、銃を構えて覚悟を決める。
「たとえぶっ倒してでも、おまえを基地に連れていくっ」
マリアの激しい攻撃に押されながらも、反撃に転じるレッドホーク。
「愛を取り戻せ! リエ!」
狂気の執念が奇跡を呼んでしまったのか、何故かその一撃を受けたマリアは、リエの姿に。
「竜……あたし……あたしはいったい……」
「……終わったんだ、リエ……。もう二度と、何があってもおまえを離さない」
竜は変身を解き、枯れ葉の舞い落ちる中、抱擁する2人。――だがその時、マリアの瞳に再び悪意が宿る。
「愚かな事。だが殺しはしない。私の奴隷となれ、天堂竜!」
聖なる血のヒトデが竜に張り付き、藻掻き苦しむ竜は爪と犬歯が鋭く伸びた人ならぬ存在へと変貌していく……!
一方、ジェットイカロスは出現したまま微動だにしないラゲムに攻撃を仕掛けるも、あらゆる攻撃を跳ね返され、グレートイカロスに合体。だが必殺のバードメーザーもあっさりとかき消され、「昼寝してたのにいてーよ」みたいな感じで無造作に繰り出されたラゲムの一撃で、あっさり腹を突き破られてしまう!(※通算3度目)
果たしてラゲムとは何物なのか?! 竜はいったいどうなってしまうのか?! 肉体の異変を感じるラディゲ、ジェットマンを倒す為に全てを賭けるマリア、それを見つめるグレイ……終局へ向かう戦いの中で、熱情のメロディは今、最終楽章を奏でようとしていた。
――次回、マリア、散る。