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『鳥人戦隊ジェットマン』感想37

◆第49話「マリア…その愛と死」◆ (監督:蓑輪雅夫 脚本:井上敏樹
次々と吸血を繰り返すマリアの前に現れるグレイ。
「以前のおまえに戻るのだマリア。……美しかったおまえに」
「くだらんっ。今の私に必要なのは、人間どもの真っ赤な血だけ」
マリアがマリアで無くなる事に耐えられないグレイは、マリアを止めようとするがまたも拒否される。
グレイのマリアへの思慕というのが、人間の男女の感情に近いのか、芸術/宗教的な賛美に近いのか、というのは解釈の分かれる所かと思いますが、少なくともこの前後編、マリアがその辺りの男に抱き付いて首筋に噛みつくシーンを繰り返し中継されるのが非常に腹立たしい、という要素は入っていると見ていいと思います。
いっそ自分が噛みつかれて血を吸われるわけにいかない機械の体のやるせなさ、という要素は第42話(G2回)を拾っていると思われ、むしろ前回・今回を通してグレイがそういった“感情”を自覚したからこその、慣れない説得と、この後の行動か。
予告だとグレイが草笛を吹くようなシーンがあったけど、カットされてしまったようで、ちょっと残念。
一方、何やらおかしな様子で基地に戻ってきた竜は、グレートイカロスの修理中に香に襲いかかろうとして長官に見咎められ、基地内部に拘束されていた。ラディゲ細胞を貼り付けられた竜は異形の姿に変わって吸血衝動に苦しみ、そこへマリアからの通信が届く。
「これ以上犠牲者は出せねぇ! 竜を……頼むぞ!」
かけがえのない友を、かつて愛した女に託し、雷太とアコを連れて出撃する凱。
凱と香の別れというのは劇中でハッキリと明示はされていないのですが、ここでも凱の台詞回しや演技にそれとなく織り込まれており、また、竜の為に怒り、竜の代わりにチームを先導しようとする凱が描かれています。同時に、恋愛としてはうまくいかなかったけど、今の竜を託せるのは香しかいない、という凱の無言の思いが溢れているのが、切なくも格好いい。
後この終盤、以前に長野で撮った集合写真が端々で画面の中に入る(一度どこかの回で強調した以後は、アップにはしない)のは、ベタな演出ですが、今作の積み重ねゆえに、ここでそういうベタな小道具の使い方をしてくる、というのが非常に効いていて素晴らしい。
マリアの元へ向かう凱達3人だが、その前にグレイが立ちはだかる。しかし、黒い鎧の騎士は、銃を手にせずに言葉を重ねる……。
「……マリアを、頼む……」
「なに?」
「マリアはおまえ達と同じ人間。傷つけてはならん」
「は! 何を言ってやがんだ。今のマリアは人間じゃねえ!」
「私にはわかる。マリアには人間としての心が残っている。人間に戻れる、可能性がある」
その言葉に、グレイの中の、確かな想いを感じ取る凱。
「……グレイ、何故だ。何故貴様がそんな事を」
「マリアを魔獣にしたくない。それならば人間に戻してやりたい」
「…………覚えとくぜ。おまえの言葉」
何よりも「人間」であるが故に、敵味方を超えて、グレイの想いを“男”として理解してしまう凱。この場面、グレイは組織も立場も超えて自分の感情の為に行動しており、対して凱は「ジェットマン」としてリーダーシップを取っているという逆転の構図があった上で、お互いが根底で通じ合ってしまう。
また、やり取りの前半を見る限り、どうも凱はマリア(リエ)を殺す覚悟を固めていた節があり、その上で竜の元には香(何があっても竜を支えてくれるだろうと信じている女)を残し、そしてグレイの想いを受け止めてしまう所に、結城凱という男の格好良さが滲み出ています。
だが、魔獣化の進むマリアはますます凶暴になっており、説得に耳を貸さずに3人を叩きのめす。
その頃、スカイキャンプでは竜が吸血の禁断症状に藻掻き苦しんでいた。
「血をよこせぇぇぇぇぇーっ!」
そんな竜の姿に、覚悟のキまった女として、牢屋の中に自ら飛び込む香。
「勝つのよ竜! 自分の欲望を乗り越えるの!」
香を押し倒すもギリギリで衝動を抑え込んだ竜は、絶叫しながら何故か、いちゃいちゃ回想モードに入る(笑)
俺は! リエと! もう一度、いちゃいちゃするんだ!!
迸る愛のパトスがラディゲ細胞を引きはがし(たようにしか見えない)、宙を飛ぶ細胞は状況をこっそり監視していた長官が檻の外からシューティングで撃墜。
理性や使命感で欲望を乗り越えるのではなく、欲望で欲望を乗り越えるというのは、今作らしいか(笑)
後は久々に、香が振り切れた所を見せたのがポイントです。
魔獣マリアに苦戦する3人の元へ駆けつける、正気に戻った(?)竜と、香。
「リエぇぇぇぇぇぇ!!」
狂気と狂気の相乗効果、ラブパワー全力充填でマリアへ突撃を敢行するも、攻撃を受け、倒れる竜。
「役立たずめ。貴様の血を一滴残らず吸い取ってやる」
だが竜は、近づいてきたマリアを不意打ちで抱きしめる!
「リエ、おまえがどんな姿になっても、おまえへの気持ちは変わらない」
そして竜は醜く変貌したマリア/リエの唇を奪う!
角とか何やらで肝心の所は隠れているのですが、熱烈なラブシーンで蓑輪監督が攻めました。
「自分の心に耳を澄ませリエ。俺達2人の思い出に」
キスを通じて注ぎ込まれたラブパワーによっていちゃいちゃ回想がマリア/リエに感染し、もうこんなバカップルの体は勘弁だ! と外れるラディゲ細胞。……いやまあ多分、人間の純粋な愛情に、邪悪なラディゲの血が拒否反応を起こしたとか、そんな感じの解釈だとは思うのですが。…………ん? あまり違ってない?
そしてこの影響で、マリアはリエの姿に戻り……という所までがAパート。
「竜……私……?」
「元に……元に戻ったんだな」
見つめ合う恋人同士だが、そこへ実況席から間男が乱入。
「マリア。おまえは俺のもの。バイラムの幹部として生きるのだ!」
今作、難を言えばこの、ラディゲのマリアへの執着の理由、というのがいまいち弱く感じるのですが、劇中の描写を繋ぎ合わせると変態的性癖という所に着地するのですが、それでいいのか。まあいいか(確か小説版だと、侵略した先の“美しいもの”をコレクトする趣味がある、みたいに補強されていましたが、小説版はあくまで小説版)。
基本的には、弱い生き物を玩具にしたい、というような所なのでしょうが、もう少しわかりやすく見せてしまっても良かった気はします(その辺り、ラディゲの感情面はわざとわかりにくくして解釈の幅を持たせた方が良い、という判断があったのでしょうが)。
「リエ!」
「寄るなぁ!」
ラディゲの姿と言葉に、何かを思いつき、そして思い詰めた表情になったリエは、竜を拒絶し、ラディゲの側に立つ。
「リエ……」
ここの竜の、歓喜から絶望へと一転し、呆然とした表情は非常に良く、今回後半、竜の剥き出しの感情の熱演が素晴らしいです。
「竜、確かに昔、私はおまえと愛しあった。だが今はバイラムの幹部! これからもずっと」
「なに言ってんだよリエ!」
「よく言ったマリア。それでいい。それがお前の定めなのだ。そして貴様達の定めは!」
手から怪光線で5人を吹き飛ばし、高笑いする間男。
「ふふふふふふふ、はははははは、あはははははははは――――?!」
得意の絶頂で、後ろから刺された!!(笑)
最高だ、最高だよラディゲ!!
ラディゲ屈指の名シーンです(笑)
「貴様ぁ……はかったな……マリア!!」
「せめて、せめて一太刀! おまえに浴びせたかった、ラディゲ!」
マリアであった時も含めて全ての記憶を取り戻したリエは、自分を弄び続けたラディゲの背中を、落ちていたレッドホークの剣で突き刺すも、ラディゲの剣で袈裟懸けに切り裂かれてしまう。
「マリア……おまえは俺のもの……レッドホークには渡さん! ふふははは、あははははは……」
ラディゲは退くが、リエは近づこうとする竜に剣の切っ先を向ける。
「竜! 来ないで! ……これで、これで良かったのよ、竜。私の手は、血で汚れてしまった。……もう、昔には戻れない。あなたの腕に抱かれる資格は、私にはない」
それでも駆け寄ろうとする竜だが、そこにグレイが現れてリエの横に寄り添う。
「もう、助からない……最後にお願いよ竜。忘れて。私の事を」
「やめろ……」
「あなたの胸から、私の記憶を、ぬぐいさって……」
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
グレイは致命傷を負ったリエを連れて姿を消し、後には竜の慟哭だけが響き渡る……。
基本、リエが死ぬのは決め打ちではあるのでしょうが、マリアの時の悪事だと怪人を用いたり間接的なので、この前後編で徹底して直接の殺害行為を描写しているのが容赦ない。
グレイはリエをお姫様抱っこで海岸へと運び、その腕の中で弱っていくリエ/マリア。
「マリア……」
「…………ありがとう……グレイ」
「これで良かったのか? マリア」
「ほんとは……死にたくない」
キラキラした光のエフェクトの中で、息絶えようとするリエと、取り残されて崩れ落ちる竜のシーンがしばらく交互に。
「もう一度…………もう一度……一から、竜と、やり直したい……竜……」
ただ、竜の名を呼び続けるリエ……慟哭する竜……そして――
「竜…………」
「マリア……!」
グレイに看取られる形で、葵リエ、死亡。
グレイはリエ/マリアを抱えたまま海辺へと歩み、その目から流れ落ちた涙のようなものがリエ/マリアに降りかかると、リエ/マリアの体は光の粒子となって飛散し、海へと溶けて還っていくのであった。
悪の幹部であるものの、悲劇のヒロインポジションという事で、美しい散り際で、マリア退場。
「リエ……なぜ……くあぁっ!!」
「見るんじゃねぇ。そっとしておいてやれ……!」
凱の促しで4人はその場を後にし、竜はただ、絶叫する。
「リエぇぇぇぇぇぇぇ!!」
竜の心の中で、白いワンピースで手を振りながら走ってくる妄想リエの姿が途切れ途切れになり、そして消えて――……つづく。
Bパート! ほぼ修羅場だけ!
地球を守る為の正義と悪の戦いというよりは、完全に、男と女の痴情のもつれです。挙げ句、背後から腰だめにぶしゅっっっと刺される間男(笑) 演出も脚本も役者陣も、やり切りました。会心の高笑いから刺される(切られる、ではない所のポイントの高さよ!)ラディゲが最高です。
加えて凄いのが、この期に及んで、各々の想いのすれ違いが盛り込まれている所。
マリアとして犯した罪を自覚したリエは、何より自分自身がそれを許す事が出来ずに、愛する竜の重荷にならないよう、竜を救う為に、マリアとして死ぬ事を決意する。
一方の竜は、リエがマリアとして犯した罪を含めてリエを愛し続けると伝えているのだけど、リエがそれを受け入れなかった事で、取り残されてしまう。
そしてリエは、マリアとして死ぬ為に利用したグレイの前では、リエとして死んでいく。
もしリエが竜の腕の中でリエとして死んでいたら……、或いは、リエがグレイの腕の中でマリアとして死んでいたら……、それぞれに別の道があったかもしれない(しかしそれは結局、両立はしない)、と、考えさせられる所です。
シンプルに作れば、リエが竜の腕の中で息絶える形になってそれで充分といえるのですが、そこであくまでリエはリエとしてあり続け、物語の道具にならない最期を迎える、というのは今作の凄味。
リエの最後の愛は、果たして竜を救えるのか。マリアが去り、残されたラディゲとグレイは何を思うのか。いよいよ、決着の時迫る――。