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『鳥人戦隊ジェットマン』感想39

◆第51話「はばたけ! 鳥人よ」◆ (監督:雨宮慶太 脚本:井上敏樹
「見たか、これが俺の真の姿だ。貴様達が何をしようと、この俺を倒す事は出来んのだ。フハハハハハ」
夕陽をバックに立つラゲムに対し、ジェットマンジェットイカロスを召喚し、最終決戦は夜戦で展開。イカロスの攻撃はラゲムに通じず、久々のイカロスハーケンから火の鳥を当てるが、やはり無効。
最後のイカロスバードアタックは、ジャンプからそのまま変形、ラゲムに弾き返されてバラバラに吹き飛んだパーツ(CG)が空中でまたロボット形態に戻る(スーツに)、と格好いい映像。
クローが開閉するギミックの格好いいラゲムの繰り出す攻撃の連続でイカロスはあっという間に苦境に陥り、5人の変身も解けてしまうが、そこへ修理を終えたジェットガルーダが飛来する!
「「長官!」」
「合体よ、みんな」
……普通に、長官が乗って(笑)
どうも以前から仕込んでいたらしく、合体したグレートイカロスのコックピットでは、竜の後ろに補助席が展開し、ちゃっかりとセンター後方に陣取る小田切長官。最終決戦に自ら参加する長官……は戦隊だけに探せば他にも居そうな気もしますが、歴代でもかなり珍しくはあるか。
だが勝負付けは既に済んでおり、さしものグレートイカロスもラゲムの前に手も足も出ない。しかしその時、長官が召喚したテトラボーイの不意打ちパンチが、想像以上のダメージをラゲムに与える。
「リエが……リエがラディゲにつけた傷だ!」
全てが取り戻され、そして終わったあの時……リエ/マリアが命がけでラディゲに浴びせた最後の一太刀が、巨大化の影響で開き、無敵のラゲムの唯一の弱点となったのだ!
敗因:得意の絶頂時に女に背中から刺された傷とか、素晴らしすぎますラディゲ(笑)
話の流れとして単純に面白いのですが、リエをただ“悲劇のヒロイン”としてだけ終わらせるのではなく、最後の最後で“地球を守る戦士”としての役割を与えている、というのはお見事。退場したからそれで終わり、ではなく、物語の中でもう一押し、存在に意味が出た、というのも素晴らしい。
グレートイカロステトラボーイの連携による、こっち向いたら後ろから殴っちゃうぜ? ほらほらどーした裏次元伯爵様よー? 攻撃によりラゲムに有効打を浴びせるジェットマンだが、ラディゲはなんとバイロック(バイラム本拠地)を召喚して合体、フルアーマーラゲムへと更なる進化を遂げる。
「墓穴を掘ったようだな、ジェットマン。これで我が聖なる体は、完全無欠のものとなった」
最強テトラボーイも八つ裂き光輪で両腕を切断されて倒れ、バードメーザーも無効。決定打を与えられずに再び追い詰められてしまうジェットマン
「一か八か……みんな、合体を解除するぞ」
竜は単身ジェットガルーダを操り、残りのメンバーがイカロスに。長官が平然とイカロスのセンターに座ったらどうしようと思いましたが、さすがに凱の席と交代でした(笑)
ラゲムの攻撃を受けてイカロスの左腕が吹き飛び、最終決戦で各ロボットも満身創痍。攻撃後の硬直を突いてラゲムに躍りかかったガルーダはアーマーの破壊に成功すると、ラゲムに組み付いてその動きを止める。ラゲムの背中の弱点をイカロスに向け、ガルーダもろとも貫くように決死の指示を出す竜。
「俺に構うな! みんな! 頼む! ――やるんだ凱! 全人類の……いや、俺達の未来がかかってるんだ!」
地球の為――、人類の平和の為――、正義と大義と名の下に己を殺すのではなく、その中に己を見いだし、その上でなお命を懸ける事。
それは死を厭わない覚悟ではなく、生きる為の戦いであり、未来を掴む為の覚悟である。
前回、竜が辿り着いた真の「戦士」としての姿を、我が身を犠牲にするような行動と、それを支える信念の台詞を重ねる事で、『ジェットマン』のヒーロー像として、見事に活写。
今作の歩んできた道のりが凝縮されたシーンです。
で、この『ジェットマン』におけるヒーロー論というのは、小難しいわけでも特別に衝撃的なわけでもなくて、むしろシンプル。
非常に大雑把にまとめてしまえば、

「人間」である事を忘れるな!
「人間」として他者を慈しみ愛せるからこそ、「ヒーロー」は悪に打ち勝ち、平和を守る事が出来るのだ!

とでもいうものになります。
これを見つめ直そうとしたのが『ジェットマン』であり、色々とスパイスをふりかけつつも、「ヒーローとは?」「正義とは?」という命題に対して1年間をかけて真っ正面から丁寧に組み立てていったのが、今作の真髄と言えます。
ゼロではないが、無意識に塗りつぶされがちになっていたものを、もう一度見つめ、組み立て直し、そこに立つ意味を問う事。
少しメタ的な視点も含めて言えば、天堂竜という男を通して、“忘れていたものを思い出す”物語というのが、今作の真の構造なのだと思います。
そして辿り着いた竜の叫びがあるからこそ、『鳥人戦隊ジェットマン』は戦隊史におけるエポックメイキングとなり、一つの金字塔としてその後の東映ヒーローに大きな影響を与える作品になったのでしょう。
恐らく戦隊史上最も「ヒーローとは何か?」(同時に「人間とは何か?」)を突き詰めた作品であり、根源的すぎるが故に再現の困難な、様々なタイミングや事情が重なった末の時代が生んだ傑作。
「……おまえの命、俺が預かった! バードニックセイバー!!」
竜の決意に覚悟を固めた凱がジェットイカロスを操り、右腕一本で放った渾身の一撃がラゲムの傷口をガルーダごと貫き、血を吐くラディゲ。
「ぶぁぁ、くぁぁ……っ! これで、このラディゲを倒したつもりだろうが、俺の魂は、裏次元から永遠に貴様達を呪い続けるだろぉぉっ!!」
呪いの言葉を残し、ラゲム、大爆死。
ラディゲは変身の都合で、ラスト、顔だけの芝居になってしまったのはちょっと残念でしたが、最期まで、とことん潔くない、素晴らしい悪役でした(笑)
爆発の瞬間、竜はレッドホークに変身して辛うじて脱出した所を、朝焼けの海岸で皆に発見される。
「勝ったのか……俺達……?」
「ああ!」
物音に視線を向けると、ラディゲのヘルメットだけが岩肌に引っかかっており、虚しく転がり落ちる、というのは、トランザ、グレイに続き、どこか虚無感の漂うバイラム幹部の最期が繋がっていて、好演出。
「終わったのよ、竜。何もかも」
「違うわ。これから――始まるのよ。私達の、いえ、人類の……平和な日々が」
海岸で並ぶ6人が、ここでボロボロのロボット3体に視線を向けるのが、“戦友”感が出てとても良かった所。ご臨終のテトラボーイとガルーダに挟まれて、片腕にバードニックセイバーを握りしめたイカロスが仁王立ちしているというカットも素敵で、前後編などの場合さくさくロボット戦がキャンセルされがちだった今作ですが、決して添え物では無しに、ロボットをしっかり使い切ったと思います。特にグレートスクラムは、歴史的名合体。
かくて裏次元からの侵略者は滅び、新しい一日の始まりを見つめる鳥人達と長官……ラストバトルが夜戦というのは珍しいかなと思ったら、夕焼けに始まり、朝焼けで閉じ、そしてまた始まる、と見事に流れが決まった所で物語はBパートのエンディングへ。
――3年後。
雷太はまさかの再登場を果たしたサっちゃんとよろしくやっており、アコは何とアイドルに。アコのマネージャー役は東條昭平監督の特別出演なのですが、OPで丁寧に「東条庄兵」名義でクレジットされていた(笑)
香が結婚する事になり結婚式に集う仲間達……その結婚相手は、天堂竜。
「今日はめでたい日なんだ。親友が結婚する」
式に遅れて薔薇の花束を買い求めていた凱は、花屋の店先で起きた引ったくりを捕まえてハンドバッグを取り返すが、逆恨みしたチンピラに刺されてしまう、「なんじゃこりゃぁぁ」案件。
竜と香が結婚の誓いを交わしている頃、教会のオルガンが鳴り響く中、腹を押さえてよろけながら教会へ向かう長い階段を独り上っていく凱。その姿が切なくも美しく、改めて通して見て“ラストで凱を殺す必要はあったのか”について、どう思うのか自分の事ながら興味があったのですが、この映像で吹き飛びました(^^;
参列者による胴上げが終わり(体育会系)、外のベンチに座っていた凱に気付く竜。
「……どうした? 顔色悪いぞ。ちょっと待ってろ」
たぶん香を呼ばれたくなかったのか、竜の腕をがしっと掴んで引き留め、平気な顔で男の格好つけを貫く凱。

「……なぁに、例によって二日酔いさ。……ああ、空が目にしみやがる。綺麗な空だ」
「ああ、俺達が守ってきた、青空だ」

アコがそんな2人にカメラを向け、凱は竜をぐっと寄せて写真に収まる。
「ありがとう……竜」
集合写真を撮る事になるが、それには参加しない凱。
「あれ、凱は?」
「疲れてるみたいだな。少しそっとしておいてやろう」
心配そうな香に向けて凱は笑顔で手を振り、幸せそうな仲間達を見つめながら煙草をふかし、そして、ゆっくりと崩れ落ち……
ここで音楽が途切れて竜のアップになり、竜がそれに気付くのかと思いきや、竜は微笑むリエの姿を目にする。そこでED「こころはたまご」の前奏が流れ出し、消えていったリエの姿に、忘れるのではなく、受け入れて、前へ進む事が出来た竜は笑顔で頷き返す。
はしゃぐ竜達の姿からカメラが上に動いて青空を映し、EDの歌が始まってスタッフロール&名場面集に。
竜→凱→雷太→香→アコと来て長官がワンカット入った後、5人揃って変身ポーズ→変身ブレスのアップ→青空

……からカメラを降ろすと、Bパートアイキャッチ(変身後)

に重なる形で、Aパートアイキャッチ、すなわち変身前の姿に

凱とアコが立ち上がり、並んだ5人が微笑み合って――おわり。
EDスタッフロールへの入りから、青空をキーに繋げ、アイキャッチを活用したラストカットまで、戦隊最終回のエンディング演出としては、完璧なものの一つ。
特に通常、Aパート(変身前)→Bパート(変身後)と使っていたアイキャッチを逆に用いる事で、戦いの終わりと、若者達の旅立ちが示されるというのは、実にお見事。
また、やや異彩を放つバラード調のED「こころはタマゴ」が、ここで完全に作品とシンクロ。実のところ、かつて最初に今作を見た時はこのEDがずっと馴染めなかったのですが、最終回を見た後に、むしろこれしかない! とあっさり転向した過去があります(笑) 通常のED映像がそれぞれの「夢」を描いているのと合わせ、ぴたっと収まりました。
さて本編エピローグ、上述したように、“凱を殺す必要はあったのか”という点について、改めて通しで見る事でロジカルな組み立てが見えてくるか、何か他に思う事があるか、自分なりに書く事が出来るかな、と思っていたのですが……是非はさておき、一つ一つの台詞や表情などが、ドラマとして美しすぎて、言葉を失うとはこういう事だな、と(^^;
これはもう、意味を求めるのではなく、こういう物語なのだな、と。
一応補助線を引いておくと、第18話で結晶化寸前の凱に、
「へっ。まあそうマジになりなさんな……俺が死んでも、空は青い。地球は回る」
という台詞があり、今作の計算を考えると、100%やり切れるかはともかく、恐らくある程度狙っていた仕込みだとは思うのですが、ここでは地球の事など何も関係ないとうそぶいていた凱が、最終回において竜の
「俺達が守ってきた、青空だ」
に頷いており、充足を得る。決して死にたいわけではなく、同じ「死にたくねぇ!」でも、やる事をやった男の死として描かれており、それは刹那的に生きてきた凱がヒーローになって得たものであり、
「ありがとう……竜」
という一言に万感を込めて集約される。
今作は竜にとっては“救済”の物語であり、凱にとっては“充足”の物語であったのかな、と。そして凱に向けられた「疲れてるみたいだな」という台詞には、そんな凱が仲間達の分も含めてヒーローの業を背負って羽ばたいていったのかな、とそんな事を思うわけであります。
……て、結局なんか書いてますが、とにかく美しい。
で、この美しさとはなんだろう、というのがなかなか言語化できなかったのですが、それは、基本的に自分の欲望に忠実で我が儘勝手だった結城凱という男が、“幸せな仲間達の姿に満足げになる”所にあるのだろうな、と。
ラストの、集合写真を皆で撮る事になり、「疲れてるみたいだな。少しそっとしておいてやろう」の後でBGMが入ってメンバーそれぞれを映す所はベンチの凱の視点だと思っているのですが、その眼差しは優しく暖かい。
確かに凱は、最後まで竜以外の誰かとは同じフレームに収まらなかったかもしれない。
けれど、彼等の幸いを喜んでいる。
集合写真の輪に加わらず、ベンチに座る凱と彼等の距離感は、縮まりきらなかった距離であるかもしれないが、同時に人は、その距離を超えて他者の幸いを祝福できるのだと、そんな絶妙な距離感を表しているようにも思えます。
そしてそれこそが、「俺達が守ってきた青空」である。
ここで実に今作らしく、“漠然とした守るべきもの”と“具体的な幸い”が重なり合い、それにより受け手もまた、その喜びに共感し、その美しさを知る事ができる。
――空が目にしみやがる。綺麗な空だ
それは、遠いけれど目に届く、澄んだ青空のような美しさである。
だからスタッフロールに入る前の、本編ラストは、画面一杯の青空で終わる。
それは多分、結城凱が最後に目にしたものだから――。
……あーそうか、結城凱の物語には確かに「充足」という要素があるのですが、かといって“満足した男の死”というのをここまで肯定的に描いて良いものだろうか、というのが長らく何となく引っかかっていたのですが、ここで重要なのは、凱が最期の時に、
「死にたくねぇ!」よりも(あいつらが幸せそうで良かったじゃねえか)という思いを抱いている事
なのか。
最期にその感情を得るという事が結城凱の着地点であり、作品として肯定しているのは“結城凱の死”ではなく“その感情”である。
人間は確かに愚かで身勝手で地球を汚す存在かもしれないけれど、そんな風に思える時もある。
その先に、青空があるのではないか。
それは選ばれたヒーローのヒロイズムではなく、どこにでも居る人間が抱ける思いであり、だから皆の心の中で、その思いを暖めて欲しい……。


こころはタマゴ 小さなタマゴ
あしたまで あたためりゃ
鳥にもなれる 雲にもなれる
もしかあの子が好きならば

誰かを愛する心が、やがて世界へ広がっていくように。
なお最後に竜が凱の異変に気付かないのって割と酷い感じあるのですけど、あそこで気付かれると凱が格好つけきれないので、物語が終わるまでは、凱が格好つけきったという、凱の勝利なのです。
いっそ凱は、力尽きた筈なのに式が終わってみたらどこにも見当たらない、ぐらいの勢い(最後を濁すのを含めてそういう意図がある演出でありましょうが、それによって同時にエターナルなヒーローへの昇華、という要素も含んでいる)。
ああ、後、竜と香が結婚するというのは、前回における救済もあるけど、香が今作の「社会性」のシンボルなので、竜が香と結ばれる事で、竜が狂気から日常への着地を果たす、という意味合いが補強されているのだと思われ、ここは今作のロジカルなところ。
前回のBパートクライマックスを通常戦闘にあて、最終話Aパートをロボ戦、Bパートは全てエピローグにする、という2話に渡った構成にする事で、エピローグにしっかりと時間を割いたのが良く、最後まで濃厚な、素晴らしい最終回でした。
“ここまでやれた”事には、当時の戦隊シリーズが置かれていた状況など、時代性と切っても切り離せない部分があるかと思いますが、非常に計算された、完成度の高い名作。
とにかく物語の繋がりが1年物の特撮作品としては群を抜いて良く出来ているのですが、尺が伸びドラマ性のウェイト増加も受け入れられている一方で、年間の商業的スケジューリングの厳しくなっている昨今のシリーズ作品の方が、かえって物語における計算を貫きにくかったりもするのだろうか、などと、考えさせられる所でもあります(^^;
色々な発見もあり、改めて腹を据えて再見して非常に良かった作品でした。
その他諸々はまた、総括で。