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謎の整備員――『Gのレコンギスタ』感想・第22話(Bパート)

◆第22話「地球圏再会」◆ (脚本:富野由悠季 絵コンテ:宮地昌幸斧谷稔 演出:河村智之)
第3ナットに向かうメガファウナのMS一行だが、その眼前に当然、アーミィの迎撃部隊が立ちはだかる。迎撃部隊の指揮を執るのは、かれこれ12話ぶりのベッカー大尉。良かった、ジャングルでワニの餌食になっていなかった……!
先頭に立って応戦しようとするG−ルシファーをG−セルフが止めた所で、ルシファーの全天周モニターを通して、その背後にずらりと味方MSが並ぶカットが好き。
単純に味方MSを横に並べて紹介するのではなく、特徴的なモニターシステムを利用しながら、メガファウナの雑多な混成軍が一同に並ぶ様子が、奥行きを持った動きのあるカットで劇的に表現されています。
フォトントルピードを試します」
G−セルフのパーフェクトパックから光の粒が吐き出されると、触れたMSを次々と消滅させていく……と、ルシファーを止めておいて、もっとヤバいもので攻撃するG−セルフ(笑)
パーフェクトパックは武装としてはトンデモすぎると思うのですが、重量感のバランスと、本体肩部分のワンポイントなど、デザイン的には好き。
ベッカーのウーシァ部隊を蹴散らし、ベルリ、ノレド、ラライヤ、アイーダは無事に第3ナットに到着すると、前線基地となった内部で、ウィルミット長官、そしてクンパ、ジュガンらと再会。ここで、1−2話で登場した、アーミィの監視兵がさらりと再登場(特に言及はされない)しているのが、地味においしい。
「よく、無事で……」
母の抱擁を受けるベルリ。が……
「あの威力を見せてくれたG−セルフが来てくれたという事で、ここの人達は戸惑っているんだけど、私が居る限りは、タブー破りはさせませんからね」
事ここに至って、あくまでタブーという則を何事にも優先する母に、距離を感じてしまうベルリ。表情を変えるベルリと、そんな息子の姿にちょっと驚いた表情になる母、というのが、保守派の母と旅から帰ってきた息子の距離感を無言の芝居で表現。
「ジュガン司令は、クンパ・ルシータ大佐が、何を考えて」
ノウトゥ・ドレットは、法王様を人質にして、カシーバ・ミコシに押し込めたのですよ」
すっかり戦争に浮かれているジュガンに対し、クンパの思惑を明かして糾弾しようとするアイーダだが、速攻で話題をすり替えるクンパ(笑)
「事態は私の思惑など、とっくに乗り越えられています」
しれっと責任を木星の彼方へ放り投げるクンパ(笑)
長らく、先を見越しているのか見越してないのか、考えているのか考えていないのか不透明なクンパ大佐でしたが、概ね、手段が目的で、ゴールよりもプロセスに重きを置いていた――混乱と闘争こそが必要で、その行き着く先は行き着いた後でまた考える――タチの悪い演出家であった事が、ほぼ確定。
もちろん自分の保身の計算もしているのでしょうが、必ずしも状況の勝者になる必要はなく、その上で高みから地球人類を見下ろしているという事で、これまでの言動と行動に概ね辻褄が合いました。
「人って……人って、そのように動くものなのですか……?」
「あ、いや。人はもっと動きましたよ。我らがマスク大尉が、カシーバ・ミコシを占領してくれましたので、一件落着しました」
ラグーとの邂逅を得て、「人・人間・人類」、というものについて呟いているアイーダと、あくまで目の前の「人の動き」について語るジュガン、という視野のズレが、面白いやり取り。
後、ベルリが居るとどうしても活躍できないマスクが、居ない間に活躍した事になっている、のはちょっと嬉しかった所。リアリティとしても、マスクが戦功をあげておく事は必要ですし。
そんなわけで飛んで火に入る夏の豚、当然人質にされそうになるアイーダであったが、そこで戦況が動き、司令部に混乱が発生している間にそろっと立ち去る4人。
1−2話登場の監視兵が肩をすくめてそれを見逃しているのが、アーミィにも現状についていけない連中が居て、よくわからないからもう余計な事はしない、と決め込んでいるようでおいしい。
(見ちゃいられんな……)
てんやわんやの司令達、強硬にクラウンの定期運行について口を挟むウィルミットらの姿を横目に、ティーポットから紅茶を注ぐクンパは、手酌で酒をあおっているような勢い(笑)
ベルリ「まったくさ、どこに行ってたの?とか、どこに行くのぐらい聞いてほしかったなぁ……あ、ごめん」
アイーダ「そうよね」
ラライヤ「立派なお母様よ」
ノレド「立派なだけじゃ、子供がたまらないわね」
ベルリ「プライドにはなるから、いい母さんだよ」
母親の為に、というベルリが持っていた強い行動原理を補強しつつ、仕事にかまけて身勝手な親との訣別のシーン……のように見えるのですが、個人的には、従来の富野作品ほど、母親への弾劾、という要素は強くないように思えたり。
下降していくエレベーターの中でのやり取りというのは、ベルリの精神状態の落ち込みを暗示していると思えますが、同時に、ベルリを全肯定していないようにも見えます。
司令部における、無言で手を広げ、ベルリの手をさする所をアップにしてからの抱擁シーンは情感たっぷりに描かれていましたし、言葉の欲しかった子供と、言葉を与えられなかった母親のズレはあるものの、この一連のシーンにはどこか、大人の都合もわかってあげてほしい、という視線を感じます。
そもそもベルリは、女の尻を追いかけて家を飛び出していたわけで、都合の良い時だけ母親に甘えようとしているとも見て取れ、その点ではウィルミット母さんはなんだかんだ優しい母親像なのではないかな、と。
第3ナットを抜け出した4人と、先行していた他のメンバーは、スルガン総監の指揮するアメリアの戦艦ラトルパイソンと合流。宇宙用?の緑のモンテーロがちらりと登場。
ここでちょっと謎の演出が一つあって、アイーダがMSデッキからリフトに乗ってブリッジへ向かう、というシーンで、それを見送る整備員のバストアップで約3秒無言。
一応、背景で整備中のMSが動いていたり、画面外でアイーダとベルリ達の音声が入ったりはするのですが、ただでさえキャラの動きが止まるのが珍しい今作で、名無しの整備兵がアップになりしかも無言が3秒続く、というかなり不思議なシーン。
その後、リフトに乗り込んだアイーダ達のカット→再び整備兵のアップ
「あれで宇宙海賊やってたのか」
という台詞で次のシーンに移るのですが、本来この前のカットでも台詞があったのに、何かの都合で削られでもしたのか。
一方、ジーラッハの訓練飛行中だったマニィは、他のメンバーの目が離れた隙にガランデンのマスクの元へと合流を目指す。なお戦犯は、やたら決め顔で、「もうマニィは大丈夫だから護衛に回ろう」と宣ったリンゴ。
バララのマックナイフの迎撃を受けるジーラッハだが、バリアを張ってそれを防ぐと「る・い・ん・り」という光信号を送り、そのメッセージに気付いたマスクにとってガランデンへと迎え入れられる……。
散々、戦場におけるコミュニケーションの断絶を描いてきた今作ですが、ここで恋人同士が空間と通信の障壁を破って、光信号で通じ合う、というのはやたらにロマンチックなシーン。
感動的な音楽をバックに、マスクとマニィはMSデッキで抱擁し、地球光に照らされるガランデン――というすっかり主役なカットで、次回へ続く。
メガファウナがヴィーナス・グロゥブからとんぼ返りし、概ねクライマックスへの布石回なのですが、最大のポイントは、地球圏に戻ってきても各勢力が睨み合いの続行中という点。
ベルリ達がビーナス・グロゥブまで行っている間に地球圏での状況が幾つか変化し、倒すべき勢力がまとまっている、という展開も充分に有り得たと思うのですが(むしろそうするのかと思っていた)、そうはなりませんでした。
一応最もラスボスに近い候補だったクンパ大佐はしれっと責任を放棄し、誰もが自分達に都合のいい絵を描こうとしていながら、誰もまともに絵を描けていない、という構造が徹底しています。
その上で、冒頭ではジット団、ラストではガランデン、と、ベルリ達と敵対関係の強い二つの陣営が、まるで主役サイドのような演出をされる、という構成。
わかりやすく敵をまとめてしまった方が作っている方も楽に違いないのですが、あくまでそれをしない事には、作り手の強い意志と覚悟が窺え、次回よりいよいよ物語はクライマックスへ。