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『遙かなる地球の歌』(アーサー・C・クラーク)、読了


太陽の爆発による太陽系の壊滅を察知した人類は、自らの種を残すべく、遺伝情報を積載した播種宇宙船を建造し、別の惑星系へと送り出した……数百年に渡る旅の末、惑星サラッサに辿り着いたその内の一隻は、植民に成功。陸地の不足による人口統制の問題はありながらも、700年以上に渡り安定した文明社会を保持する事に成功していた。だがそんなサラッサに、思いもかけぬ訪問者が姿を見せる――。
1957年に書かれた同名の短編を元に、遠未来、太陽系が崩壊し地球が滅亡した後の宇宙で、種の存続の為に旅立った人類の姿を描いた、1985年の長編。
中心になるアイデアで、おお、と思わせるのではなく、太陽系が滅亡し他の惑星系へ植民した人類、という世界観を背景に、二つの人類の交流を通して、人間とは何か、知性とは何か、文明とは何か……というのを様々なSF的ガジェットと共に描いていく、という作品。その為、“凄い”というのはないものの、1000年単位の旅の物語を、個人と歴史を絡めながらむしろさらっと描いてみせるクラークの“巧さ”を堪能できる造り。
後年のクラークは、正直、小説家としての能力は少し落ちてきていると思うのですが、章立てを細かくして、一つの要素にこだわらずに書きたい事を次々と入れていくという形式に割り切った事で、それほどとっちらからずにまとまっています。細切れのエピソードに芯を通す役目を持ったキャラクターの一人、モーセ・カルドアが非常にいい味。
壮大な視野で描かれ、必ずしも人類の輝ける時代の物語ではないにも関わらず、全編に満ちあふれた希望と詩情はまさにクラークで、つくづくクラークはロマンの作家だな、と思います。傑作というほどではないですが、クラークらしさを楽しめる作品でした。
なお個人的にクラークの長編の傑作というと、『海底牧場』と『渇きの海』がお勧め。『渇きの海』はクラークの代表作、という扱いからはちょっと外れるかとは思うのですが、非常に面白かったです。