みなみ様前後編、ここまで長くなるつもりは全く無かったのですが、えらく長くなってしまいました……(^^;
◆『GO!プリンセスプリキュア』#44◆
「そっちに何があるの?」
アバンタイトル、イルカをはじめ海の生き物に導かれるように海中の光を目指すみなみだが、汽笛の音に振り返り、その先に進めなくなってしまう。
「あの船は……お父様?」
光を目指すみなみの頭上に、海藤家の海上母艦が重く大きな暗い影を落とす……というきついシーンからスタート。
ノーブル学園は、クリスマスの飾り付け中。春からのパリ生活に向けて語学の本を探しに図書館へ向かったきららはみなみの姿を見かけるが、みなみは手に取っていた本を誤魔化すように片付けてしまう……その本のタイトルは、「うみのおいしゃさん」(著・北風あすか)。
今回、たぶん初めてノーブル学園の校舎がサイド遠景で描かれるのですが、なんか、山上の秘密要塞みたいな外見。 敷地が島になっているのは以前から示されていますが、なんだろうこの、改めて溢れる悪の秘密結社感(笑)
そんな秘密要塞の窓から海を見つめるみなみと、バッタリ出会うはるか。
「あ、み、みなみさん!」
「なあに?」
「あの! どうかしました?」
「どうして?」
「あ、いえ、なんとなく……」
「なんでもないわ。じゃあ」
廊下で話すはるかとみなみが、引いたカメラの左右の端に位置しているというのは、印象的な所。
今作割とロングの横カットを用いつつ、そこでキャラクターの距離感を織り込むというのが通してけっこう一貫しているので、この辺りは監督のセンスなのかなー。OPのはるかとカナタの構図から繋がっているともいえますし。
また、同じ廊下の横からのカットで、前回トワがきららの手を取ったのに対し、今回はるかがみなみの方へ踏み込んでいけないというのは、意識的な重ねでしょうか。
どうしても主人公を中心として人間関係を展開するのが基本になりますが、今作ここに来て、メイン4人の関係性の描写が群像劇的になっているのは、面白い所。
はるかと別れたみなみは座間先生に呼び止められ、進路調査書をまだ提出していないという指摘を受ける。
「先生は、どうして先生になったのですか?」
海と家の狭間で揺れるみなみは思わず問いかけ、座間先生が様々な夢を経て、教師となった事を知る。
「自分のやりたい事に何度も悩み、教師という夢に辿り着いたざます。悩む事は悪い事じゃないざます。あなたもとことん考えるざますよ」
ここで三角メガネの奥に瞳が覗き、綺麗な顔になる座間先生。
序盤にネタっぽく使われた座間先生まで、まさかの補完(笑) この終盤に来て妙に余裕たっぷりに次々と脇役を拾っていくのですが、出したキャラクターに責任を取る姿勢は素晴らしいと思います。
また、トワとクロロ・ゆいと望月先生・きららと学園の生徒達・みなみと座間先生、とそれぞれニュアンスは少しずつ違いますが、一連の展開の中で「支える」とういうほど積極的ではないかもしれないけど、見回せば「見守ってくれる」人たちがこんなにも居るという事を描いており、作品とキャラクターの世界を同時に広げているのがお見事。
第19話の寮で宝探し回で少し触れましたが、それに“気付く”という事が成長である、というのも今作のテーマの一つのようです。
「みなさん、宝物を見つけましたね。人は自分でも気付かない内に、少しずつ変わっていくものです。みなさん、鏡に映る自分は、どうでしたか」
生徒会室で仕事中(淡々とハンコ押しているので、一条らんこの像作るの?! と思って一時停止して確認したら、却下判が先に押してあって安心しました(笑))、緊急事態だときららに連れ出されるみなみだが、海岸に用意されていたのは即席ティーセットで、みなみは柳眉を逆立てる。
「緊急事態というのは嘘なのね。どういうつもり?」
「嘘じゃないよ。みなみんが悩んでるなんて、緊急事態でしょ」
「あ……」
「ハイ。借りてきたよ」
あすかの本を差し出すきららだが、目を逸らすみなみ。
「必要な本は、自分で借りるわ」
この言葉は凄くみなみ様らしくて、細かく巧い。
「読みたいくせに〜。隠さないで堂々と読めばいいじゃん」
「あなたには関係のない事よ!」
「何それ、意地っ張り!」
「それはあなたもでしょ!」
角突き合わせる二人だが、先にきららが肩を落とす。
「……はぁ〜、もう、うまく出来ないなぁ……」
「?」
「あたしはさ、みんなに応援してもらって、いっぱい力を貰ったの。だから、あたしも友達が悩んでいる時には、力になりたいなって思うわけ。……でも、こういうのはあんま慣れてないからさ。どうしていいのか、よくわかんないや。ごめんね、みなみん」
「きらら……」
「でもま、折角来たんだし、お茶くらい、さ」
珍しい組み合わせだなぁと思ったら、「頼る」とか、「相談に乗る」とか、
互いの苦手分野でした!
基本ハイスペックな二人が、ここではるか抜きで向き合って、序盤の友達いない力を発揮するというのは非常に面白かったです(笑) きららは少し友達増えたけど、みなみ様は微妙ですしね!
「最近、よく夢を見るの」
浜辺の小舟に腰掛け、お茶を手に落ち着いたみなみは、きららに海の夢について話す。ここで、光へ向かうのを止めるのが家族の船である事については濁して、水平線を行く船の汽笛が響いてくる事でそれを示す、というのはキャラクターが一線を守りつつ情感が出て良い演出でした。
「行きたいの?」
「どうなのかしら? よく……わからないわ」
正直今回、全体的に作画はそれほど良くないのですが、ここで二人の髪や服が海風に揺れるというのが非常にこだわって描かれており、心象描写に丁寧に動画が割かれています。
音楽の入れ方・会話の間合い・風景カットの織り交ぜ方など全体通して情緒的な演出は、暮田公平。以前に第25話の夏休みお泊まり回で、夏の日の明るさと黄昏と夜の移り変わりを、同じくトワの心象と季節の情緒を巧く織り交ぜて描いており、夏と冬、意図的な起用でしょうか(共に成田良美脚本でみなみメイン回でもあり)。
またこの後、みなみが口にした「なんでもない」について、はるかから聞いたトワがその日の事を思い出し、エピソードそのものが拾われています。
その頃、ホープキングダムではシャットが自分の立場を見つめていた。
「ていうか、そろそろ手柄を立てないと私がまずい! 私よ、立ち上がるのみ!」
なぜ三銃士は、追い詰めると面白くなるのか(笑)
「明日の我が身の為に、今日こそ奴等を倒すのみ」
リストラの危機に怯えるシャットは自ら出撃してノーブル学園にやってくるが、座間先生に見つかって不審者扱いを受ける羽目に。
「うるさい! 痛い目に遭いたくなければ引っ込んでろ!」
「まあ……! なんという言葉遣い。美しくないざます。とにかく話を聞きましょう。進路指導室へ来るざます」
「黙れ! 私の進路は私が決めるのみ!」
やり取りはギャグなのですが、エピソードテーマと絡んで割と深い台詞(笑)
「なんか、御免ね。うまく、相談に乗れなくて」
「いいえ、ありがとう」
「ちゃんと答が出せるといいね」
「……え?」
「そういう悩みでしょ」
「…………そうね」
学園への帰路、座間先生の「生徒達の夢を応援する」という夢から生まれたティーチャーゼツボーグと遭遇するみなみときらら。色々な夢に悩んできた座間先生の在り方が、今は教師としての夢を持っているという形で肯定されており、浮ついた夢もあったかもしれない、躓いて倒れた事もあったかもしれない、でも今はそれを受け入れて前に進んで笑っている、という今作の背骨のテーマとも綺麗に連結しました。
「プリンセスプリキュア、おまえ達の進路は! 地獄のみ!」
「人の進路を、勝手に決めないでよ!」
マーメイドとトゥインクルは変身し、フローラとスカーレットも遅れて駆けつけるが、夢への迷いから力の出ないマーメイドは、ゼツボーグに有効な打撃を与える事が出来ず、逆に一方的な攻撃を受けてしまう。
夢の力がプリキュアの打撃力に繋がるという描写は、実は初でしょうか。もしかしたら初期に台詞で説明あったかもしれませんが、最終盤に来て、フローラの溢れる破壊力の秘密が解き明かされた気分です(笑)
海風にプリキュアの髪も揺れる中、ティーチャーゼツボーグはマーメイドを集中攻撃するが、それを防ぐトゥインクル。助けられたマーメイドは座り込んでうなだれ謝罪する。
「ごめんなさい。きっと私が、自分の夢に迷いを持ってしまったから、プリキュアの夢の力が弱まってしまったんだわ」
ここで、成る程、としっくり収まったのですが、みなみ様は恐らく、プリキュア抜きにしても「夢を迷う」事自体を“罪”だと考えている。
ノブレスオブリージュで、力ある者の当然の責任として出来る事を出来る限り行い、何事にも自発的な義務感を抱いて向き合うが故に、みなみ様はそれを“捨てる”事が出来ない。
父と兄に憧れているのも、家の為に働きたいというのも、どちらも本当の想いだけれども、それがあまりにそうあって当然の事だったのに対し、初めて、義務も責任も超えて、生じた自分の望み――。
「第一、私は生徒会長が大変なんて思った事もないのよ。私のお父様とお兄様は、私よりずっと凄くて、会社でたくさん立派な仕事をしているわ。私はいつか、2人のような大人になりたい。その為には、このぐらいの仕事はこなせないと駄目なの」
「それが、みなみさんの夢ですか?」
「夢……? …………そうね」
だがみなみは、それが罪の果実であるが故に、自分の心に実ってしまった想いから懸命に目をそらそうとする。
けれど。
「誰だってあるよ。迷ったり、悩んだりする事ぐらい。マーメイドだけじゃないよ」
ここで、ぴたっと止む風。
「トゥインクル……」
見つめ合う二人の姿に、ゼツボーグをリリーで吹き飛ばし、ちょっと待ったぁ!(古い) と割って入るぷんすかフローラ。
……本当にこの娘は、みなみ様が好きだなぁ(笑)
「新しい夢が、抑えきれないんですね。……だったら、それでいいじゃないですか。夢は、変わってもいいと思います」
「マーメイド、わたくしも、聞きたいですわ。あなたの新しい夢を」
「あたしが思うにさ、大事なのは、どうしたらいいかじゃなくて、マーメイドが、どうしたいかじゃない?」
みなみ様の本質を突くトゥインクル。
「私が、どうしたいか……」
座り込んでいたマーメイドの瞳に海のきらめきが宿り、立ち上がったマーメイドは迫り来るゼツボーグを海へと蹴り飛ばす!
「本当はもう気付いていた。自分の心の奥底から湧き上がる望みに。なのに気付かないふりをしていた。幼い頃からの夢も、とても大切だったから……。でも! もう迷わない! 私は、自分の信じる道を進む!」
見返り美人からの光る海というマーメイドにしては派手な演出で、サンゴキーが単独発動。
「プリキュア・コーラルメイルシュトローム!」
サンゴ……というかむしろイルカを投げた!
マーメイドの召喚魚雷アタックで弱った所にプリキュアボンバーでゼツボーグはブルーミングされ、シャットは撤退。
みなみは目を背けようとしていた自分の中の望みと向き合い、その果実を手に取る事を選ぶ。
いわば楽園の蛇ともいえる役割を果たしたあすかですが、ただ夢の指標になるだけではなく、あれだけ自由な人だったのは、「家」という楽園の規範を守る事で自分の世界を閉じているみなみ様に対して、楽園に実った果実を手に取る「自由」(勿論それは、新たな責任を伴うものですが)を気付かせる、という立ち位置だったからか。
「会社の中で力を尽くすのも立派な仕事だけど、でも、そういう中にいると、いろんな事に縛られて、自分の夢を見失ってしまう事があるから」
「私は、海を知りたい。何にも囚われず、自分の目で見て、自分の心と体で、感じたい。だから、いつでも大海原へ飛び込めるように――自由でありたいの」
そしてその自由の象徴が、大海原である……と、第16話の大事故とその後しばらくの成り行きを見ると計算通りだったとは考えにくいのですが、なんか、綺麗に繋がった!(笑)
また、皆が支える、という構図を徹底する形でマーメイドが立ち上がりつつ、フローラやトゥインクルの持つ強固な夢が善であり正義とされてきた今作において、たとえ夢破れても夢の為に歩んできた道のりそれ自体に価値がある、という第39話で持ち込まれたテーゼに重ね、夢に悩むのも夢が変わるのも、決して悪い事ではない、と作品全体のバランス取り。
今作、背骨のテーマの説得力が薄まる危険性を孕みながらも(それを承知の上で)、第39話以降、テーマの裏側の“救済”に物凄く気を遣っているのは作品思想的に興味深い所です。大概そこは目をつぶる所で、今作も割とギリギリの境界線を走っていると思うのですが、このまま走り切ってくれれば非常に面白い。
こうして、みなみは仲間達に「海の生き物を診る獣医になりたい」と新しい夢を語って笑顔を見せるが、向き合わなくてはならないもう一つの問題があるのだった……でつづく。
◆『GO!プリンセスプリキュア』#45◆
「波は……どこから来るの? イルカさんはどうしてあんなにジャンプ出来るの? 海はどうして青いの?」
幼い日、家族でやってきた海に目を輝かせるみなみ。
「ほぅ、好奇心が生まれたか。海からは、様々なものが生まれる。綺麗だな、という感動が生まれたり。怖い、という恐れが生まれたり。みなみの心には、知りたいという気持ちが、生まれたんだな。本当に知りたいんなら、考えてるだけじゃ駄目だ。実際に、海に飛び込んでみるんだな。自分で、答を探す為に」
前回、みなみの夢の中で“海への好奇心を押しとどめる影”として描かれた「家族」の存在が、今回は“海への好奇心を後押しした存在”として描かれており、非常に対比の計算されたアバンタイトルでスタート。
「思えばあれが、私の夢の始まりでした……」
これはまた、家族の存在に、自分が感じる「義務感と責任感」を繋げてしまっていたみなみ様に、見えなくなっていたものが見えるようになった、という意味も含まれているものと思われます。
「そっか。海の生き物を通して、海を知りたいっていう夢。私と出会う前から、ずっとみなみちゃんの中にあったんだね」
それとなく、そそのかしたのを否定(笑)
「あすかさんのお陰で、それに気付く事が、出来ました」
回想から繋がったシーンで突然、前回アメリカに居た筈のあすかがみなみと話しており、みなみ様がアメリカへ渡った少し先の時制? と困惑しましたが、この後の展開を見るとそういう事でもないようで、さすがに説明抜きで都合のいいシーンを作りすぎた感あり(劇中時間では前回から2週間ぐらい経過しているのかもしれないにしても)。
もっとも、あすかさんは〔種族:自由の戦士〕なので、メールで相談を受けた途端に、「あー、丁度いいから3日後に日本の○○水族館で会おう!」ぐらいの勢いで太平洋の一つや二つ渡りそうではありますが。
ただまあ、この後のはるか達との会話の中でもいいから、少しフォローは欲しかった所です(^^;
その頃、ホープキングダムではシャットがばっちりメイクで自分を鼓舞していた。
「ディスピア様、美しさのポイントはやはり、アイメイクです! 是非、ディスピア様の」
「失敗だ。シャット、おまえは失敗作だ」
ハイ、そうですね。
正直ディスピア様、気付くのが遅すぎたとは思います(笑)
「美しさなど、我々に必要ない。愚かな。何故こうなってしまったのか……」
この辺りの台詞を鑑みるに、ロックのパーカー含め、三銃士は何らかの形でディスピアに作り出され、その上で、自我を発達させた存在と考えて良いようです。ここでこれを強調してきたのは、シャットやクローズの畳み方と関わってくるのか。
シャットが最後のチャンスを願い出てディスピアから魔獣のコアを拝領している頃、ノーブル学園女子寮ではクリスマスパーティが始まろうとしていた。
「新しい夢の事、まだ両親に話してなくて」
母親から届いたクリスマスカードに眉を曇らせるみなみ。
「申し訳なくて。ここに入学させてもらったり、習い事をさせてもらったりして感謝しているのに。期待に、応えられない……」
自分よりも家族を軸にしてきたがゆえに、家族に対して義務があると考えているみなみが、「自分の夢」を選択してしまう事に罪悪感を覚える、というのはらしい所で、簡単にすっきりさせずに、生き方の転換という重い部分に物語として向き合ってきました。
「大丈夫よ。新たな夢を目指そうと決めた時から、覚悟していた事だから」
それにしても、みなみ様は、考え方が重い(^^;
この辺り少々トワの背景と重なっている部分はあって、トワの場合は異世界の価値観も含めて単純に同じ視点で比べる事は出来ないのですが、みなみ様のテーマ性が途中で転倒事故を起こさなければ、トワの抱えている王族の責務とテーマが交差するような事もあったのか(まだ残り話数で仕掛けてくる可能性もありますけど)。
女子寮クリスマスパーティが始まり、ここに来ての学園イベント連発は、物凄く露骨に学園要素の帳尻合わせなのですが、今作における学園要素にはこんな意味があったんですよ、というのがしっかり盛り込まれており、騙されてもいいかなぐらいの説得力はあります(笑)
チアガールズ、らんこ、ゆいが次々と隠し芸を披露し、はるか・みなみ・きらら・トワは、スペシャルユニットを組んで4人ボーカルのクリスマスソングを披露。……ここで「プリンセスの条件」を歌いだしたら滅茶苦茶面白かったのですが(笑)
このスペシャルユニット、堂々と参加しているはるかの違和感が正直凄まじいのですが、クロス少年回の時、「色々な意味で学内の有名人」という点についてゆいちゃんが苦笑いして否定しなかったので、もはやはるかの学園内ヒエラルキーは、心が強すぎて、誰も手出しできないスピードの向こう側なのか。
そんな中、お母様からのクリスマスの電話を受け、涙をこぼすみなみ。
「みなみさん……どうしたんですか?」
「なんでもないわ」
「……なんでもないって顔じゃないよ」
「……お母様が、優しくて」
家族の期待に応えられない罪悪感と、家族という軸から離れる恐怖、という要素はみなみ様ならではなので、ここで重ねて強調されたのは良かったです。監督の差配もあるでしょうが、前回に引き続き、脚本を汲んで間を重視した演出(今回は、あすか回を担当した芝田浩樹)が、前後編の雰囲気を繋げてくれたのも秀逸。
「こうなったら、今すぐ伝えにいきましょう!」
前回、押して駄目なら引いてみたらきららに持って行かれたので、今回は、はるか押せ押せ。
「悩むのは、その後にしましょう」
「……はるか……」
ここは第22話
を思い出しますが、両方とも、罪を感じている相手をはるかがとりあえずそこから引っ張り出そうとする、という点が共通しており、意図的な重ねでしょうか。
「やめて。……聞きたくないわ。それを聞くと思い出す。お兄様……ホープキングダム……わたくしの……罪」
「そんな事言わないで。まずはここから出ようよ」
動いて、もし転んだら、「笑おう」と言って立ち上がるのが、それを支えて時に一緒に傷ついて、それでも笑うのがフローライズムです。
「お兄さん、なんて?」
「すぐ来てくれるって」
クリスマスだというのに、電話1本で駆けつけてしまうわたるお兄様は妹を好きすぎます(笑)
みなみ様も、どうするのかと思ったら、何の躊躇もなくお兄様呼び出すし。
外出の準備の為に部屋へ向かうみなみだが、タイミング悪くそこに、魔獣のコアに海の城の力を集めて亀ゼツボーグを生み出したシャットが出現して戦いに。
トゥインクルの時に龍が出てきたのでそうなのかなーと思ったら今回亀だったので、ディスピア様の分身ゼツボーグは四聖獣がモチーフと見て良さそうです。スカーレットの時はとりあえず犬と書きましたが、虎モチーフだったようで。虎が青だったり龍が黄色だったりと色はズレているので、こうなると最後の1体は黒い鳥とかになりそうでしょうか……って、ああ成る程、そこでクローズが来るという展開になるのか……な?
むしろクローズから逆算したのか。
亀の攻撃を受けて単独でホープキングダムに強制転移させられてピンチに陥るマーメイドだが、カナタから連絡を受けたスカーレット達がロイヤルマジェスティの力で助けに駆けつける。しかしさすがに魔獣ゼツボーグは強く、回転攻撃で4人を吹き飛ばすと、その体が触れた神殿の周囲には絶望の汚染がますます広がっていく。
「海が、更に……」
「絶望だ! お前達もこの海も、絶望に飲まれて、終わるのだ!」
なんだか久々にギャグ抜きで悪役らしい事をしている気がするシャットの指示により放たれたトドメの水流攻撃を、アイスの盾で受け止めるマーメイド。
「終わらない……! 海からは、感動や好奇心や、そして夢が生まれる!」
「何が生まれても意味は無い! 生まれた夢は破れるのみ! お前達がいくらあがこうと、最後は絶望に、終わるのみ!」
「時に、絶望や困難に、飲まれる事もあるでしょう。でも、それでも――!」
マーメイドが気合いを振り絞ると、アイスの氷が水流の勢いを上回り、逆に凍結させていく! ……トゥインクル回はさすがにどうかと思っていたのか、今作にしては割と納得度が高い逆転ギミック(笑)
「なに?!」
「絶え間なく生まれ続ける。困難だとわかっていても、かなえたい夢が生まれる! 海も、私たちの心も、決して絶望で満ちたりはしないわ!」
今作における“強さ”とは、“絶望しない強さ”ではなく“何度絶望しても立ち上がれる強さ”であり、飲まれない、ではなく、飲まれる事もある、という所にスタンスが良く出ています。
ポジティブシンキング系の主人公を置くと、後者を描こうとしているようなのに割と無意識に前者をやってしまったりしますが、今作は、はるかが最初に傷ついて転んだ所から始まっている事もあり(そういう点では、藍原少年は今作における超重要人物なのですが、果たして最後の最後で拾われる事はあるのか)、しっかりとそれを形にしました。そしてそれを、この終盤に派手に転倒した上で新しい夢を掴むという選択したマーメイドに言わせる事で補強。
……ところでここ最近、プリンセスプリキュアの姿に何かを思い出すなぁ、とずっと考えていたのですが、今回ようやくわかりました。『宇宙刑事シャリバン』のエンディングテーマだ!(笑)
強いやつほど笑顔は優しく、倒れたら立ち上がって前より強くなるのです!
何という、溢れる山川啓介イズム!
もはや、『プリンセスプリキュア』の出現を予見した歌のように思えてきます(待て)。
亀ゼツボーグを押し返したマーメイドは、サンゴキーをセット。基本はバンクになる必殺技ですが、海中モードと地上モードという事か、前回と違う演出でイルカ魚雷が次々と炸裂。
「私は海のプリンセス、キュアマーメイド。海と夢を汚す者は――私が、成敗します!」
激流に何とか耐えきり、一発逆転のプレス攻撃を仕掛けてきた亀だったが、マーメイドまさかのギャラクティカマグナム(蹴り)。
自由――それはすなわち、自ら立つ理由。
これが、自ら楽園の外に出る事を決め、心の底から湧き上がる夢を選んだ、真マーメイドの力だ!!
……物凄い覚醒ぶりで、ちょっとビックリしました(笑)
吹っ飛んだ亀は本体を現し、今回雑な感じのカナタ様の「今だ!」の合図でプリキュアボンバー。亀ゼツボーグはブルーミングされ、シャットは逃走。大いなる海の力でマーメイド城が目覚めた事により、ホープキングダムは水質が劇的改善し、空には青い虹がかかるのだった。
戦い終わって学園に戻り、迎えに来たわたるの車で両親の元へと向かうみなみ。カナタ様の扱いがひどくぞんざいだなぁと思っていたら、ここから、わたるお兄様のスーパーイケメンタイムが発動。
「どうやら、吹っ切れたみたいだな」
「え?」
「何かあったんだろ。あの時」
お兄様は見ていた。
「気付いていたの?」
「おいおい。僕はこれでも、君の兄貴なんだぜ。あんまり悩んでいるようなら、相談にでも、と思ったけど、その必要は無かったようだな」
「ええ」
「……頑張れよ」
「はい」
妹を心配して車で飛んできたり、妹の悩みにしっかり気付いたり、そんな妹を支えてくれる友達の存在を理解したり、お兄様格好良すぎです。
そういえばカナタ様にも妹(トワ)が居るわけですが、もしかしたら海藤父にも、以前出てきたイケメン執事にも妹が居て、この世界では、兄が最強のクラスなのではないか。
藍原少年は、妹を手に入れる所から始めるべき!(待て)
カット変わって、雪降る街角に立つみなみ両親の、他愛の無い会話から入るのは良かった所。どうやらわたると待ち合わせしていた様子の両親は、みなみの姿を目にして驚くが、兄の無言の声援を受けて、みなみは両親に向けて一歩を踏み出す。
「あの……どうしてもお話したい事があって参りました」
震える手でコートを掴みながら、みなみは両親に頭を下げ、自分の想いを告げる。
「ごめんなさい! 私は、海藤家のお仕事は出来ません。お父様達の期待に、応えられません。他にやりたい事が、夢が、出来ました!」
そして……
「…………おめでとう。大海原に飛び込む時が、来たようだな。ブラボー!」
「それを言いにわざわざ? ありがとう」
「え? あの……いいんですか?」
むしろ喜んでそれを受け入れる両親に、呆然とするみなみ。
「当たり前じゃないか」
「でも、海藤家で働くと! 今までずっと、そのつもりで……なのに今更、こんな我が儘」
「我が儘なものか。いやむしろ、みなみの我が儘なんて、お父さん、ちょっと嬉しい」
お父様はアバンタイトルに始まってこのラストまで、今回だけでやたらお茶目なキャラが立ちました(笑)
「あなたは昔から、優しい子だったわ。優しすぎて、いつも自分より、私たちの事ばかり。そんなあなたが、自分のやりたい事を見つけた。嬉しいわ」
「お母様……」
「海から、様々なものが生まれるように、おまえからは、夢が生まれたのだろう。みなみ、自分の信じる道を行きなさい。おまえの喜びが、私たちの喜びなのだから」
「……お父様……」
一枚どころか数枚上手だった両親は、出来過ぎだった娘が年相応に悩んだ末に、自分の答を見つけだした事を祝福。父母の言葉には、みなみの海藤家で働きたいという夢を親として嬉しく思いながらも、同時に、それを当たり前の事と思いすぎているのではないかという危惧があった事が伺え、途中に大断線事故などありましたが、亜空間ゲートをくぐり脱けるなどした荒技の末、なんとか第9話からの線を繋ぎ直す事に成功しました。
ブラボー。
そして自分が当然の責任だと思っていたが故に、それを手放した時に家族を失望させてしまうのでないか、という恐れと罪の意識を抱いていたみなみが、そこから離れた時に本当の家族の真心に触れる、という、これもまた、みなみの気付きであり、夢に縛られて自分自身を狭めてしまう事もあるという一種の夢の麻薬性を描いて、夢絶対主義とのバランス取りが図られています。
また、今作ここまで主に、“夢を見る側”に向けて描かれてきましたが、お父様の「おまえの喜びが、私たちの喜びなのだから」というのは、親が子供の夢を縛る鎖であってはいけない、そうならないで欲しい、という“夢を支える(見守る)側”へのメッセージとなっており、美しく着地。
「皆さん、続きは食事でもしながらでどうです。近くに、いいレストランを取りましたよ」
会話が落ち着いた所で、お兄様、さらりと仕事の出来る男スキルを発動し、出てくる度にイケメングレードが上がっていきます。……嗚呼、半年後に勃発するお兄様の嫁取りエピソードとか凄く見たい!(笑)
「さあみなみ、おまえの新しい夢を、聞かせておくれ」
「はい!」
笑顔を浮かべたみなみは、改めて、家族の一員、海藤みなみとなり、団欒の時を過ごすのであった……。
ところで、わたるお兄様(グループ会社10経営)とみなみ様は少なく見積もっても10ぐらい年が離れているように思えますが、今回のお母様の少々過保護な感じを見ても、みなみ様は割と遅くに出来た子供なのかもしれません。そう考えるとお父様は、むしろこれから親バカモードかも(笑)
多分、あすかさん抜きでも、海洋研究所とか作っちゃう。
というわけで、「実は夢がわからない」という初期に提示されたみなみ様のテーマ、コースアウトした所にコースを作ってトンネルを脱けてジャンプ台で元のコースに戻ってくる、というウルトラCで、立て直してみせました。
ここまで立て直しただけでも凄いのですが、第16話の大惨事の後、第36話でムーンサルトを決めるまでの約20話、ボタンが掛け違ったままの状態だったのはつくづく勿体なかったなぁ……。今回の着地を見ても、この20話の間に「家」と「夢」に関するみなみの惑いが蓄積されていって、その積み重ねが最終盤に集約されるという形になっていれば、“この先”へ行けたのではないか、というのは思ってしまうところ。
とはいえ、筋だけ取り出すとありがちな展開ともいえるのですが、丁寧な積み重ねを丁寧に拾っていく事でそのキャラクターの物語としてしっかり成立させ、丁寧な話作りと丁寧な描写で高いレベルでまとめ上げてみせる、という実に『プリンセスプリキュア』らしい集約で、良いエピソードでした。
今作、“出会い”があるから“気付き”がある、というのも一つのテーマのようですが、その“気付くという事”から、「自由」の先の「自立」というテーゼに引っ張って、みなみ様の問題と絡めてエピソード全体に散りばめていった造りもお見事。
《プリキュア》シリーズの主力脚本家、という立ち位置の特別さもあってか、今作としては珍しい同じ脚本家(成田良美)が2話連続の執筆でしたが、第16話の責任をしっかり取った形になりました。勿論、シリーズ構成をしっかり置いている作品で、監督の存在もあるわけなので成田良美だけの責任ではないと思うのですが、ここまでまとめ直したのは、素直に感嘆。
その成田良美初参加の14話辺りから押し出され、第39話から改めて連続している(ゆいちゃん除く)、それぞれの「家族」−「個人」−「夢」の関係性も大きな集約を見て、このエピソードで最も伝えたい事が描かれたのなかな、と思われます。
ところでちょっと気になるのは、きららが今年度の終わりを目処にパリへ旅立つのが明示されたのに対し、特にみなみにそういった類の示唆がない事。必ずしも旅立ちエンドである必要性は無いのですが、きららはパリへトワはホープキングダムへ(或いはきららだけパリへ)、だとどうも締まりが悪いような(^^; みなみ様が3年生だったらストレートに卒業に繋がりましたけど、2年生なのでまだ1年ありますし。逆にあと1年なのに転校するとなるとかなり強い動機付けが必要になって難しい所はあるのですが(どうしてもきららと被りますし)、この先、あすかさんから何かアプローチがあるのか。
いっそ、きらら・トワ・はるかが学園から旅立ち、みなみが残る、というのもそれはそれで面白いかもしれませんが。旅立ちが似合うという意味では、はるかの方が旅立ちは似合うしなぁ(笑)
……まあ、そこまでやるなら、みなみ様も旅だって観測者のゆいちゃんが残る形になるでしょうけど。
今回、正直あすかは無理矢理出番を作っていた感じもあったので、もしかしたら再登場あるか……?
次回……次回……えー、予告から、何が起きるのかさっぱりわからないのですが(笑) この最終盤でまさかのフォーカスをされたシャットに微笑む光はあるのか?!