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久々の石持浅海

短編連載が増えて文章が粗くなったり、一時期ちょっと血なまぐさい方向に走りすぎている感じがあって、碓氷優佳もの以外からは離れていたのですが、数年ぶりに石持浅海を2冊。
◇『二歩前を歩く』


 ひとりでに廊下を歩くスリッパ、なぜか自分の前をよけていく通行人、消した筈なのに帰宅すると点いている風呂場の灯り……日常の些細な謎を解き明かす時、そこには思いもかけぬ真実が浮かび上がる……。
とある会社の研究所に勤務する30がらみの男・小泉を探偵役にした連作短編集。連作、といっても各エピソードに物語的な繋がりはほとんどありませんが、小泉が同僚から相談を受け、それを分析していく事で謎が明かされる、という形式が共通。
作品としての特色を書くと直接ネタ割れに繋がってしまうという難儀な作品なのですが、いや面白かった。
巻頭の「一歩ずつ進む」が最も衝撃的でしたが、その後も趣向を凝らし、共通の形式からどう着地させるのか、というのを最後まで楽しむ事が出来ました。短編集としてのアベレージも良好。
◇『八月の魔法使い』

 洗剤や清掃用具を販売する株式会社オニセン。毎年恒例8月15日に行われる、企画部の役員報告会議。暇を持て余す取締役達の興味を引いて時間を使わせる、そんな軽い会議の筈だった……その書類がスクリーンに映し出されるまでは。一方、書類事務で総務部に向かった営業企画部の小林拓真は、定年間際の万年係長・松本が、たった一枚の書類で総務部長の顔を青ざめさせるという思わぬ光景を目にする。それは、存在しない筈の工場事故報告書であった――。
東証一部上場企業の会議室と総務部を舞台に、存在しない筈の書類の謎を追う長編ミステリ。物語は「会議室」と「総務部」という限定された空間で交互に展開し、ある種の閉鎖空間・登場人物達が延々と議論して話を進める、という、作者お得意の構造を取りながら、謎の中心にひねりを入れています。
途中までは、この謎をどう持っていくのか、という面白さがあったのですが、終盤の展開は個人的には残念。タイトルで示唆されているといえばそうなのですが、大人の会社ファンタジー、みたいな作品。
ミステリとしては鈍い切れ味になってしまいました。