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春に読書の波が来た2

○『折れた竜骨』(米澤穂信

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)


 時は1190年――ロンドンから北海を行くこと3日ほどの場所にあるソロン諸島の領主ローレントが、天然の要塞であった筈の島内の館で殺害される。領主の娘アミーナは、ローレントが恐るべき魔術を操る暗殺騎士に狙われている、という警告をもたらした放浪の騎士ファルク、その従士ニコラと共に、魔術に操られ、父を殺した<走狗>を探し出そうとするが……。
12世紀末の欧州を時代背景に、「魔術」の実在する世界で、「論理」によって殺人犯を捜し出す、ファンタジー要素の入ったミステリー。
ミステリ要素のあるファンタジーではなく、あくまで異世界のルールを前提とした、ミステリー。その為、やや説明過剰というか、異世界ルールを示した上で、そこから極めて原則的なミステリの作法に則って一歩ずつ推理を進めていくという構造。舞台設定含め、あまりミステリを読まない読者層を意識した作品なのかもしれません。一方で、真犯人から目を逸らす為の物語的なミスディレクションとして、ミステリ読みほど納得してしまう論理を用いていたのは、ちょっと面白かった所。
それなりに楽しめましたが、着地点が好みではなかったのが、残念。
小説としてはしかるべき構造なので、純粋な、好みの問題(^^;


○『屍者の帝国』(伊藤計劃×円城塔

 人は死ぬと、21グラムの魂を失う。その失った21グラムの代わりに、人工的に紛い物の魂を「書き込む」事で、死者を屍者として制御し、労働力や兵士として使役する技術が日々発展をし続ける19世紀末――。ロンドン大学医学生ジョン・H・ワトソンは、英国政府の秘密諜報機関<ウォルシンガム機関>にスカウトされ、イギリス軍とロシア軍が睨み合うアフガニスタンの地へ向かう事になる。新型の屍兵100人あまりを連れてロシア軍を脱走したアレクセイ・カラマーゾフがその奥地に築いた屍者の王国に赴き、その目的を確かめる為に……。
現実とは異なる技術発展をした19世紀末を舞台に、歴史上の人物と創作作品の人物が混ざり合い、史実と創作世界の出来事が絡み合いながら展開する、スチームパンクSF。小説の基本の枠組みは、『ドラキュラ紀元』(キム・ニューマン)などを思い起こさせますが、広義の改変世界ものと見た上で、『ドラキュラ紀元』よりは、もっとSF。言語SF。
キャラクターでは、実在の人物だそうですが、英国軍の一人仮面ライダー、バーナビー大尉がいい味。
登場人物のみならず物語そのものも、先行作品の要素を取り込んで散りばめつつ、風呂敷を広げて広げて広げていく構成が爽快。
ツボに入る入らないが明確に分かれるタイプの作品ですが、ワトソンが学ぶロンドン大学に、特別講師としてやってきたヴァン・ヘルシング教授が、死者に霊素をインストールして屍者として目覚めさせる……というプロローグのくだりでときめける方向け(笑)