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妖怪と古本

○『絶対城先輩の妖怪学講座』(峰守ひろかず)1〜5


 東勢大学文学部四号館四階四十四番資料室には、怪異と怪奇の専門家にして自ら「妖怪学」の学徒を名乗る黒の羽織の怪人、絶対城阿頼耶が居る。幼い頃から奇妙な耳鳴りに悩まされる湯ノ山礼音は、絶対城の助けでその耳鳴りを解消してもらうのだが、その代価として絶対城の手伝い――妖怪カウンセリングの雑用――をする羽目に……。
語り手にして ヒーロー ヒロインにして体力担当の湯ノ山礼音、博覧強記の妖怪学徒で ヒロイン ヒーロー兼探偵役の絶対城阿頼耶、絶対城の貴重な友人で理工学部の癒やし系メガネ杵山明人、の3人が、資料室に持ち込まれたオカルト絡みの相談を受け、妖怪と思われる何かの正体を突き止めていくというのが基本的な構成。
概ね1話完結型で1話1妖怪を扱いながら、1巻通して1エピソードになるという長編と連作短編の間のような形式で、小説としてはミステリの文法です。
基本的に妖怪(超常的な何か)は実在しないが、妖怪として語られる事になった何かは存在する筈、というスタンスで進み、多くの文献や研究資料を土台に置きつつ、絶対城の考察を通して今作なりの妖怪の真実を創作し、ところが……?! と民俗学とファンタジーの境界を縫う案配が面白み。
特に4巻のクライマックスはそのバランスが取れて絶妙な具合の○○○○○○となり、素晴らしかったです。
4巻全体のネタ割れになってしまうので詳しく書けないのが難ですが、○○+○○というジャンルには、ロマンが溢れるなぁ。
最後に○○○が○○する辺りが、特にお見事。
逆に5巻は少々やりすぎたかなと思いましたが、シリーズ全体としてどのぐらいのバランスに収めていくのだろう、というのは今後が気になる所。
余談として、作者が濃いめの特撮ファンだというのは知っていたのですが、2巻が『ダイナマン』で5巻が『メガレンジャー』でした(笑) 多分、気付いていないネタが他にも色々ありそう……。


○『追想五断章』(米澤穂信
追想五断章 (集英社文庫)

追想五断章 (集英社文庫)


 学資不足で大学を休学中の菅生芳光は、伯父の経営する古本屋に居候しながら復学の道を探っていたある日、客から叶黒白という作家の小説を探してほしい、という依頼を受ける。報酬に目がくらみ、伯父に内緒で叶黒白の遺した5つの短編を探す内、芳光はそれぞれの短編が20年以上前に起きたある事件と関係する事を知っていく……。
叶黒白の短編――いずれも結末の書かれないリドルストーリー――が作中作として本編と交互に織り込まれ、小説を探す依頼人の謎、小説を書いた黒白の謎、小説そのものの謎、が交差しながら展開していくという趣向。
小説の構造はやや変化球ですが、物語自体は割とオーソドックス。
その上で個人的には、物語も登場人物も、あまりツボに入りませんでした。
あと、一つ首をひねったのが、平成4年という物語の時代設定。バブル崩壊による不景気、というのが登場人物それぞれに影響を与えているのですが、その設定が物語全体として集約されるのかと思ったらそういうわけでもなく、今作のモチーフになっている事件と年代を合わせる為でもなく、なんだか設定の為の設定になってしまった印象を受けました。
……私の気付かない、時代設定ならではの仕込みがあったのかもしれませんし、全体として、そういう小説、を意図したものかもしれませんが。