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『重甲ビーファイター』感想14

◆第15話「翔んだアイドル」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:扇澤延男)
街に出現した合成獣ブーブーブーの鼻息を浴びた人間は、ブヒブヒ、としか喋れなくなってしまう。
「私はブタじゃない! 人間の声を返して!!」
筆談で事情を聞いた被害者の、必要以上に悲痛な叫びが、なんとも扇澤さん(笑)
「ブーブーブーよ、人間どもから声を奪え! 片っ端からブヒブヒにするのだ。はっはははは」
言語というコミュニケーション手段を奪う事で人間社会に致命的損害を与える恐るべき作戦…………の筈なのですが、「ブヒブヒ」という言霊が強烈(笑) この役回りをシュバルツではなくギガロに持っていく辺りが、今作は巧い。
「なんとも珍妙な作戦だが」
「しかし、確かに人間どもを混乱に落とし込む事ができる」
「混乱が頂点に達したその時こそ、我らが侵略の手を、一気に伸ばすのだ」
……ジャマール、作戦は毎度悪くない所を突いているし、初動の手際も悪くないのですが、どうしてここまで、弱腰に落ちぶれてしまったのか(涙)
開戦直後の電撃作戦に失敗し、予算と兵力不足から決定的な打開策を打ち出せない内にじり貧になっていく、ってジャシンカ帝国(『科学戦隊ダイナマン』)と同じパターンですが、果たして、ジャマールに希望の火が灯る時はあるのか。
語感の間抜けさの一方で街に確実に混乱が広がっていく中、自動車整備工の気のいい青年・小泉守は、声がブヒブヒになってしまいマスコミに追われる憧れのアイドル・矢野かおるを助け、2人は逃避行。守は、子供には好かれるけど同僚にはいびられ、自分にあまり自信がなくて今居る場所に疎外感を覚え、何もいい事はないと言いながらも田舎への仕送りの為に仕事を頑張っている、という実に扇澤造形。
ビーファイターはブタを見つけて重甲するが、そこに飛んでくる緑のマント。
「ブーブーブーを倒せば、浴びせた鼻息の効果は消え、人間どもに声は戻る。しかぁし!」
「しかぁし!」
「人間を全てビヒブヒにするまで、こいつを倒させはしない」
ここまで、展開は割と雑なのですが、ノリノリのギガロを中心に、変に面白い(笑) また、この先の伏線になっているのですが、状態異常の回復方法を宣言しているのは、地味にポイント。
ジャマール戦闘機が出撃し、ビートマシンで迎撃している内に、ブタは逃走。空から捜索を続けたレッドルが不時着した戦闘機が修理されているのを発見して3人で向かうと、そこでは守がジャマール戦闘機を飛べるようにしようとしていた。
人目を避ける逃避行−修理の特異な整備工−ビーファイター妨害の為に出撃した戦闘機、と別々の展開を一つに繋ぐ持って行き方は、さすが鮮やか。
「二人で逃げる事にしたんだ。誰も追ってこない、誰も居ない、遠い所へさ」
「逃げる必要なんかない。戻るんだ、彼女の声」
「怪物を倒しさえすれば」
「……倒さないでよ、その怪物!!」
そしてこのひねり。
「声が戻れば、彼女は僕なんかの側から去って行くよ! ……また手の届かない世界の人になっちゃうよ」
「マモさん……」
「もうすぐなんだよ……。もうちょっとで、修理が終わるんだ。飛べるんだ。飛んでいけるんだ、二人で。翼の限り、遠い所へさ」
前作『ブルースワット』から、この「ここではないどこかへ」というテーゼがやたらストレートに押し出されるのですが、若干、過剰になっている気はします(^^; まあこれは、私が扇澤延男に注目して見ているからで、あくまで1年間の中の数話、としてはそれほどでは無いといえるでしょうが。
今回に関しては、当然アイドルの快復を喜ぶと思われた好青年が、自分の欲望に負けてしまう……悪の存在を具体的に描くヒーロー物において、“間接的な悪の誘惑”に話の焦点を移動させる、という構成はお見事。
そして――ヒーローは、それを許すわけにはいかない。
「相手の不幸につけ込むような、そんな寂しい夢は見ないで! 私は怪物を倒す。被害に苦しんでる人の為に。そしてマモさん、あなたの間違った夢を終わらせる為にも」
ブタ出現の報に向かったビーファイターは、食物を汚染して被害の拡大を企むブタを阻み、麗、火薬ダッシュから、大ジャンプで土管の上にひらり。
「ブーブーブー、罪のない人達の声を、奪い取るなんて許せない! おまえをこの手で倒す――重甲!」
更に、3方ズームアップから主題歌2番に合わせての変身、という超ヒロイック演出。
加えて、前回今回と、風邪でも引いたのか麗の声がえらくハスキーで(なんだか『ジェットマン』のマリア似)、ただでさえ高い女戦士度の上昇が留まる所を知りません。
今作自体が作風を戦隊に寄せているのに加え、今回に関しては戦隊畑の渡辺監督に対するオーダーもあったのかと思われますが、ここ数年の《メタルヒーロー》シリーズにおける、女性戦士ポジションが冴えない流れを改善しよう、という意識はやはり強く感じられます(『特捜ロボ ジャンパーソン』の三枝かおるは、女性戦士でもないのに凄い存在感を醸し出しましたが)。
(寂しい夢でも、しがみつくしない人間も居るんだ……)
主題歌そのままで場面を切り替え、食料調達から戻ったかおると共に、修理を続ける守。
「飛ばしてみせるからね、必ず。行こうよね、遠い、遠い所へさ」
一方、ブタを追い詰めるビーファイター
「人間ブヒブヒ化作戦も、ここまでよ」
ガオームゾーンが発動し、巨大ブタが火を噴くのは、『ギャバン』そのままな絵。怒りのレッドルが個人技トルネードスパークでブタを撃破し、男2人、何の役にも立たず(笑)
あ、どうでもいい話ですが、最近、ハンガーを手にすると思わずスティンガープラズマーな気分になって困ります。幾つだ。
そして――
「この配線さえ終われば、修理は完了だからね」
「いよいよ飛べるのね!」
舞踏会は終わり、12時の鐘が鳴る。
かおるの声は元に戻り、執着をぐっと飲み込んだ守は、笑顔で喜びを告げる。
「良かったね。本当にさ。帰らなきゃね。みんな、心配してるもんね。みんな……待ってるもんね」
「ありがとう」
ごくあっさりと、山の中を走り去るアイドル(笑) 途中で果物とか集めていたし、アイドルには、サバイバル能力も必要なのです。
夕焼けの中、涙をこらえて偶像を見送った男は、取り残された戦闘機の中で修理を完了させると戦闘機を再起動し、アイドルに貰った花をコックピットに残して、寂しい夢と共に戦闘機を自爆させる。
「終わった……」
それから数日後――平凡な日常に戻った守の元をかおるが訪れ、流れ出す謎のアイドルソング
「空、飛んでみたかったよね。あんなに2人で頑張って、修理したんだもん。ね?」
アイドルソングをBGMに、冒頭で守が子供から預かって修理していたラジコン飛行機を飛ばし、2人が何となくいい雰囲気になって大団円…………果たしてラスト2分は、脚本時点では存在していたのか(笑)
物語の構造としては、現状の改善よりも逃避を選ぶ性向にある守の脱皮を描くという筋立てだと思うのですが(アイドルを笑顔で見送った所でそれを果たしたと見ても良いかもしれませんが)、それが結局、幸運の女神様によってもたらされる、というのは若干の違和感を覚える所。そもそも、守のアイドル好き自体が、“TVの向こうの偶像への逃避”として描かれていたわけであり、山中逃避行でも別にかおるの偶像ではない部分を目にしたわけでもありません。そういう意味で、恋に恋する状態からあまり変質が見られない気がするのですが、「これから始まる」と麗が言っていたように、これをきっかけに変わっていく希望――飛翔――の可能性を見せたオチ、という事でいいのか。
大切な人との出会いをきっかけに変わっていく、という展開そのものはあってよいと思うのですが、「出会いによる変化」という所には劇中の焦点がなく、てっきり「別れによる変化」の物語構造に見えたので、若干、納得しがたい所が(^^; まあ、あのままだとあまりにアイドル酷すぎますし、マイルド風味のハッピーエンドは今作らしくはありますが。
……あるのですが、ビーファイター3人が二人を見守るラストカットで、大作が、凄く面白くなさそうな顔をしているのは何故だ(笑)
ところで、『翔んだカップル』のパロディぽいのに、(歩道橋から)翔びそうになったアイドル、アイドルの想いを乗せて翔べなかった戦闘機と翔んだラジコン、事件の発端はトン(豚)だアイドル、と多重に意味のかかっているサブタイトルが小憎らしい(笑)
次回――かみなり様?(ドリフ)