◆第32話「恋する漬け物!!」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:扇澤延男)
今回の迷台詞。
「地球人を、漬け物にさせはしない!」 (甲斐拓也)
アースアカデミアに市民から、街の風景を撮影していたら奇妙な光景が映っていた、というビデオが届けられる。そこに映されていたのは、和服姿の老婆が、背中に背負った樽の中に人間を吸い込むという恐るべき映像であった。老婆の正体は、次元から次元を渡り、その次元の土着生物を漬け物にして好事家へ売りつけている、異次元漬け物屋・ババンバ。
ババンバの漬け物樽の中身を確認しようとするビーファイターだが、よってたかって老人をいじめていると誤解を受け、通りすがりの義侠心厚い丸川繁造老人にババンバの身許をかっさらわれてしまう。
若い頃に妻を亡くし、身よりも無く長く一人暮らし……という丸川に関する情報収集のやりとりを、にこやかに河川敷を自転車で走る老人カップルの図に声だけ被せる、というのは面白い演出。
「うちはどこだい?」
「流れ者に、うちなんてあるかい」
「寂しい暮らしをしてたんだなぁ、あんたも」
ババンバの態度に一度はへそを曲げる丸川だったが、花を愛でるその姿に、ときめきゲージが急上昇。
「どうも、俺、あんたに、一目惚れ、しちまったみたいだな」
そして、いきなりの告白(笑)
丸川が席を外した隙にババンバの身柄を確保したビーファイターは、脅迫により漬け物にされかけていた人間を救出。別の次元へ立ち去ると告げるババンバだったが、社長命令でやってきたジェラが今回も《交渉》スキルを発揮して儲け話を持ちかけ、まんまと乗せられたババンバは拓也を樽に吸い込んでしまう!
拓也を漬けて逃げるババンバ、それを追う大作と舞、ババンバに熱烈アタックを仕掛ける丸川が入り乱れ、恋と狂気が大混線。
「もう俺はびびったりしねぇ。本気で肚決めたからよ。てめぇと夫婦(めおと)になるってな!」
「このわけのわかんない爺め!」
ババンバの正体を見せられても怖じ気づかず、腹に膝蹴りを決められながらも追いかけ続ける丸川。
「お、お、俺と夫婦にー!」
凄く、タチの悪いストーカーです。
異世界から来た女性に恋をした男が……というプロット自体はよくある物なのですが、その男女が老人になるだけでファンタジー感が凄まじく薄れて見えるのは、私の偏見なのか(^^; それはさておくにしても、一体このエピソードはどこへ向けて見せようとしているのか。
「ブルービート甲斐拓也は間もなく死ぬ。漬け物地獄で悶え苦しみながらなぁ!」
ババンバの漬け物樽に封印を仕掛けたジェラは、嫌すぎる死因を宣告。
「この樽一つしかないんだ、あたしには……封印されたら、もう漬け物が作れなくなる。この樽は、あたしの命なんだぁ!」
地球産甲斐拓也漬け@濃厚な昆虫魂の味わい、で大儲けという話の筈が、ジャマールに利用された事を知るババンバ。更にジャマール戦闘機が出撃し、「これがジャマールのやり方なんだ!」と緑が叫ぶのですが、普段のジャマールはどちらかというと部下を使いこなす系の組織なので、現地雇用のアルバイトを使い捨てる今回の作戦は、むしろ“らしくない”為、かなり粗雑(^^; 更に、甲斐拓也の大ピンチに、ブラックビートが何の反応も示さないというのが、致命的に雑。
部屋にこもって新技の特訓でもしていたのか(^^;
「守り抜く、あの樽は、儂が守り抜いてみせるぞぉ!」
戦闘機の爆撃に巻き込まれた樽めがけて、丸川老人が愛の火薬ダッシュ。
「見ろ。爺さん、あんたの為に命がけなんだぞ!」
「なぜ信じる気持ちを、心を持とうとしないの!」
ここで、舞を掘り下げたゴルゴダル回を踏まえているのは悪くないのですが、基本的にそれどころではないので、凄く困ります。君ら、一般市民の老人が爆撃の雨に飛び込んでいるのを、放置するな。
「守ってやっからよ。この樽が、てめぇの命なら、俺の命はてめぇなんだからよ」
「あんた……」
だが丸川は愛の力で樽の確保に成功し、その勇姿にほだされてしまうババンバ。
「守るんだ。樽も、樽の中の拓也も」
「あの二人の命も」
ビーファイターはようやくビートマシンを召喚し、かつてない扱いを受ける主人公。
「あたしなんかの為に戦ってくれているのか。こんな樽、あたしにはもういらない」
「ババンバ……」
「探してたんだ。本当はずっと探してたんだ……落ち着ける場所を、心を許せる相手を。それが今やっとこの地球で」
「そうよ。旅の終わりをてめぇは見つけたんだ」
二人は協力して石を叩きつけて樽を破壊し(封印とは何だったのか……)、拓也は浅漬け寸前で復活。3人揃ったビーファイターがメガビートフォーメーションを発動してジャマール要塞を撤退させ、流浪の旅の末、命同然だった樽の代わりに、自分の居場所を選んだババンバは、丸川老人と平穏な生活を手に入れるのであった。
社会に疎外感を抱く者達の共感と、静かに暮らせる此処ではない何処かを探す旅の終わり、という物凄く扇澤ワールドで、何かを得る為に何かを失う事を選び、閉じていた世界から抜け出すという過程がヒーローの復活と逆転に繋がるというクライマックスもそこまで悪くない筈なのですが、とにかく全体的に話運びが雑(^^;
そしてこの、執拗に感情移入させない作りは、一体どういう狙いなのか。
例えば、丸川とババンバの年齢を動かさないにしても、そこにメインキャラの心情を寄せたり応援する理由を劇的に作る事で視聴者に感情移入のフックを与える手法はあるのですが、意図的にそれを避けていると思われ、なんとも困惑するエピソード。