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『仮面ライダーエグゼイド』感想・第10話

◆第10話「ふぞろいのDoctors!」◆ (監督:諸田敏 脚本:高橋悠也
グラファイトとの戦いと着ぐるみ暴走で負傷したエムはペッポコピポパによってCRに連れ戻され、謎の症状で倒れた人々が大量発生したというニュース報道を見て驚愕する病院長。
……て、えー、エムはここまで運ばれてくる途中に、ゲーム病の大規模発症についてCRに何も伝えていないの???
「先生を救う為なら、僕はどんな事でも!」
「それがドクターを志す者の言葉か?!」
自分の手で日向を救う事にこだわるあまり、全て一人で解決しようとするエムを叱責する日向。
「大切なのは、チーム医療だ」
「チーム、医療……?」
オペは一人で出来るものではなく、かつてエムの命を救えたのも、様々なプロフェッショナル達が役割分担したからだ、と日向が語るのは納得できる話ではあるのですが、肝心のライダー達が、小児科医・外科医・大我(※公式サイト確認したけれど専門分野不明)・監察医、という組み合わせで、どうしてそこ、医療チームと重ね合わせられる設定にしておかないのか(^^;
今作の骨の髄まで冒す基本設定面の噛み合わせの悪さが、鮮やかに大噴出。
「ドクターに必要なのは、チームの信頼関係だ!」
そしてそもそも、ライダー4人中2人は、CRに所属していないという恐るべき現実。
審議官、まともな人材を用意できていない自分の責任を棚に上げて、エム個人の資質に責任転嫁しているのでは(適合手術が必要という事は、誰かがそれを認可しているわけで)。
「大勢の人の命がかかっている。自分一人の力を、過信するな」
「先生……」
灰色から猛スピードで墨色に近づいてきた日向の人間性はともかく、恩人から医者の本分を諭されたエムは、日向が病室に戻った後、その場にぐったりと座り込む。
「何が天才ゲーマーだ。……ゲームなら誰にも負けないって……ただ自惚れてただけだ。だから…………誰とも、信頼し合おうとしなかった」
……あ、反省した。
というか、今までのエムは本気で、医術ではなくゲームの才能で人を救える事に溺れていた男だったという事が物語の方から明示され、これまで散々、周囲のキャラを崖下に蹴落としながら正当性を持ち上げてきたエムを、ここで屋上から地面に叩き落とすという、衝撃の展開。
エム、第10話にして、ようやく人間LV1に。
しかしこう持ってくるなら、これまでの戦いにはもっとゲーム感覚を押し出していればと思うのですが、とにかく戦闘のゲーム要素(合わせて、ゲーム中のエムの変化)が巧く描けていなかった為に、これまではゲーマーとしての腕だけで調子に乗っていたのが、医者としての自分を見つめ直す、という接続が弱い事に。
また今作ここまで、医者としての能力でも、ゲーマーとしての能力でも、エムと直接比べられている人物が一人も居ないので、全てが台詞だけで展開しており、エムが“医者としては未熟だけどゲーマーとしては超一流”という事を裏付けてくれる存在がどこにも居ません。
改めて恐ろしいのですが、ここまで「天才ゲーマー・エム」を示す描写が自己申告とポッパパーピプペの台詞ぐらい、という。
その為、この台詞そのものがエムの中で完結してしまって物語としての説得力を強く持てない事になっており、立ち上がりの忙しさで様々な肉付けが後回しになってしまっていた歪みが強く出てしまっています。
一方、「ゼロ・デイなんて……もう御免だ」と、まだ続いていたグラファイト戦に乱入するバイク侍だったが、連携どころかフレンドリファイアお構いなしのライダー達は、内輪もめしていた所をグラファイトのドドド光線にまとめて弾き飛ばされ、敗北。
フィールドから叩き出された3人が罵り合っていた所にやってきたエムは、「僕が間違ってました。ごめんなさい!」と頭を下げると、大規模感染を食い止める為に協力を呼びかけるが、これまでの発言が発言だっただけに、当然のように説得失敗。
立ち位置からするとそこまで敵対的でない筈の九条は、審議官への不審を口にするという位置づけになり、今のところ、九条だけは巧く動いています。
「先生……やっぱり僕には無理でした。……チームの……信頼関係を築くなんて、僕には……」
中学生ぐらいから人間関係の勉強をやり直した方が良さそうなエムは屋上で落ち込み項垂れ、「大丈夫。エムならきっと出来る」と適当に励ますポップンペポーパ。これといった根拠もなければ、この二人の間の信頼関係も特にないので実に薄っぺらく、ここまで、説明役&賑やかし&実質的なエムのイエスマンでしかなかったキャラクターとしての厚みの不足が露骨に出る事に。
それでもパパペポピーの言葉に勇気づけられたのか、携帯電話を取り出したエムが鏡に電話をかけて取った手段は……
「やっぱり、僕にはオペは無理です。でも、優秀な外科医の飛彩さんなら、きっと……」
土下座外交
なお電話を受けた鏡は、病院の個室?でミニスカナース二人に傅かれており、第2話の変身シーンを拾った形ではありますが、ますますリアルに駄目な人に。天才外科医らしい姿を一度も見せた事がないのに人間としてのクズっぷりだけが積み重なっていき、ネタで済ませにくい描写。
翌朝――
「研修医、やっと自分の未熟さに気付いたか」
露骨なお世辞にいい気分になった鏡はエムの元を訪れるが、そこには、同じく土下座外交を受けたとおぼしきドクターライダーが勢揃い。
「おまえ……どういうつもりだ?」
「ガシャットが欲しいなら、力尽くで俺から奪ってみせろよ」
座り込んだまま何故か一瞬だけ瞳を赤く輝かせたエムは、横柄な口調で立ち上がるとベルトを取り出す。
えー……
「ドクターに必要なのは、チームの信頼関係だ!」→誰とも信頼し合わなかった事を反省→やっぱり僕には無理でした→「大丈夫。エムならきっと出来る」→土下座外交→「おまえ……どういうつもりだ?」↓
ちょっとおだてたら揃って騙されてやんのばーかばーか
って今、もしかした僅かに残っていたかもしれない友好度と信頼度を、まとめてギガデインで自ら塵に変えたんですが。
先生! 日向先生! いったいどんな脳改造をしたんですか先生!!
(まだゲームをやってないのに、エムの性格が変わった?)
そしてこれまで何となくの表現だったのを(実際、エムが変わっているのは「性格」というより「口調」だと思いますし)、ププピッポーが明確に台詞にする事で、ゲームをすると性格が乱暴になる、という何やら完全に困った人扱い。
「それとも、俺に負けるのが怖いのか?」
エムの挑発に乗ってドクター達は揃って変身し、それを見つめるドットズボン。
「それがお前の攻略法か――天才ゲーマー、エム」
思わせぶりな台詞を適度に呟く係のドットズボンですが、方向性としては、ゲーマーとしてのエムにこだわっているらしい、というのが前回と今回でやや強調されてきました。
エグゼイドはドラゴン着ぐるみを装着してライダー同士のバトルがスタートし、小突き合ったり落ちたガシャットを奪い合ったりと、とにかく器の小さいライダー達。例えるなら、『オーズ』のウヴァが4人居るみたいです。
とにかく対立ありきというコンセプトで、衝突に至るそれぞれの信念を描く部分が抜け落ちている為、戦いそのものもさして盛り上がらず、エグゼイド一人に3人で一緒に必殺技を打ち込む姿が、凄く間抜けな感じ。
2016年にライダーバトルをやろうというのなら、個々の「仮面ライダー」にどういう意味づけをするのか、というのは非常に重要な部分だと思うのですが、揃いも揃ってヒーローでもなければ魅力的な悪役にもなりきれない、中途半端なチンピラの集まりでしかないのが改めて浮き彫りになってしまい、非常に残念。
そういう点で、「仮面ライダー」とは何か?という今作中での定義付けを明確に示してきたのは、今作は必ずしもヒーローではない今作なりの仮面ライダーを描く、という宣言とも見て取れ、それ自体は意欲的な作劇なのかもしれませんが、過去作の蓄積を切り離しても成立しえるキャラクター性を確立できているのかといえば、甚だ疑問。
大きなダメージを受けたエグゼイドから着ぐるみが外れて再びドラゴンの姿に戻り、それを3人が一斉に攻撃して撃破すると、その場の全員がドラゴンを倒した扱いとなり、金のガシャットが4つに分裂!
新作ゲームは、一人がソフトを持っていれば残りのメンバーは本体(ベルト)だけでマルチプレイが出来るという、ユーザーに優しい仕様だった!
「狩りのターゲットは――グラファイト!」
いつもの雰囲気に戻ったエグゼイドが叫ぶと、何故か強制でステージに引きずり込まれるグラファイト
「この俺をゲームエリアに転送したか。いいだろう、まとめて叩き潰してやる」
細かく考えるより次々と流れてくる刺激を楽しむ作品だと思えばこれはこれで良いのでしょうが、話の都合による思いつきみたいな設定が矢継ぎ早に繰り出されてきます(^^;
「誰がグラファイトを狩るか、勝負だ!」
『ファング!』『ブレード!』『ガン!』『クロー!』
4人が揃って金のガシャットを起動すると、ドラゴンアーマーのパーツが分かれてそれぞれライダーに合体。
なるほど前回のエグゼイドの暴走は、本来4つに分けて使う筈だった力を一人で使おうとしたからであった、とここは巧く繋げてきたのですが、分割されたドラゴンのパーツが一部コピーになってしまったのは残念(^^;
てっきり、例えば頭部がエグゼイド、尻尾がブレイブ、胴体がスナイプ、両腕がレーザー、にそれぞれ装着されるみたいな事を想像していたのですが。そしてどうも、エグゼイドがログインしないと他のメンバーはマルチプレイに参加できないようで、ちゃっかり、メインのガシャット奪った?
「これって……ライダー同士が勝負してるのかな? 私には、協力して戦ってるように見えるけど!」
かくして4人のLV5ライダーとグラファイトが激突し、心は一つになっていないけど結果的に共闘になっている、という形を、突然飛んできたペッパーピッポーにも台詞で補強させるのですが、「ドクターに必要なのは、チームの信頼関係だ!」という日向の言葉から始まった筈のチーム医療作戦が、ライダー達の信頼関係を根こそぎ破壊した所で成立するという、上半身と下半身が真逆を向いているような事に。
作品によっては、正論でまとまらなかったのに別の要因でまとまってしまう、という展開が面白くなる場合はありますが、今作この流れでこう持ってくる事により、命に直接関わるチーム医療の意味の重さ(をエムがどう考えているか)・エムを今の道に進めた重要な背景である日向の言葉・エム自身の反省、がまとめて瞬獄殺、という大惨事。
一応、ゼロ・デイ再来の危機、という考慮すべき事情はあるのですが、事情があるから手段は選ばない、というのではエムが反省した意味が無く、やはり物語として両手両足が逆を向いてしまっています。
「フィニッシュを決めるのは、俺だ!」
グラファイトは俺が切除する!」
仮面ライダーは俺一人で十分だ」
「ノリノリで行っちゃうぜ〜」
『『『『ドラゴナイト・クリティカル・ストライク!』』』』
4ライダー同時必殺技により、派手に吹き飛んだグラファイトは大爆発。
序盤を集約する山場で強敵扱いのグラファイトがリタイアするのですが、そもそもキャラが薄い・主導して暴れ回ったのが前回ぐらい・展開が忙しすぎて基本どのライダーも強さを見せつけるのが初登場の時だけなので、強敵感も薄い・エピソードの焦点がエムだった為、鏡と大我と構築していた因縁がまるで活かされない・社長サイドでは都合良く暴れてくれる馬鹿なコマ扱い、という数え役満により、まっっったく盛り上がらず。
特に鏡にとっては復讐、大我にとっては雪辱の相手だったのですが、双方の因縁は共闘で倒したからOKという雑な扱い。……まあ、やはり両者の因縁が重なってしまっている点は作り手も気になったのか、大我の台詞はそれとなく別の執着にシフトしていたりしますが。
現実世界ではドットズボンが黒いガシャットを回収して去り、一歩遅れて戻ってきたライダー4人が、四角いエリアの頂点それぞれに立っている、という演出は良かったです。
「で、これって誰の勝ちになるわけ?」
「……俺が一瞬早かった」
「いや、急所を突いたのは俺だ」
結局本体のガシャット一つがエムの手元に残る形となり、さっそくその所有権を巡ってせこい主張を繰り広げる、器の小さい男達。
「判定は引き分け! これからはみんなで協力して……あ、ねぇ、ちょっ……」
ピンポンパンが仲裁に入るが効果を発揮する筈もなく、バラバラに去って行く3人……
男達の信頼度は、かくして、むしろマイナスになった!!
「はぁ……チーム医療って、難易度高いな……」
取り残されて軽い調子で呟くエムの姿からは、ゼロ・デイ再来の危機に切羽詰まって非常手段に出たという雰囲気はまるでなく(ここで「今回はこれしか無かったんだ」とでも呟けば多少話は変わったのですが)、悪い意味で、本格的に気が狂っているのかもしれない。
(仇を取る事に意味はあったのだろうか……。小姫……叶うのなら、もう一度君に……)
そしていきなりのシリアスモードで海を見つめる鏡は、早くも目的を見失っていた。
人生の重大事を4分割で済まされてしまうという酷すぎる扱いを受けた鏡ですが、リタイアの仕方からするとグラファイトは復活しそうというか、さすがにこれ、復活させないと作品が鏡に残酷すぎるというか。これだけ薄味で完結する復讐劇というのもなかなか見ないレベル。台詞からすると、グラファイトが消滅した影響で小姫が再生?みたいな方向に行くのかもですが。
CRでは、回復した日向が、これから職場に戻って今回の大規模な事件もガンガン隠蔽工作するよ! とにこやかに宣言。
今回ばらまかれた黒いウィルスに関してはガシャットの力で変異したグラファイトの特殊能力という扱いだったのかもしれませんが、グラファイト倒したらアウトブレイクが収束しました、というのは戦隊の単発エピソード並の処理で、物語のキー要素の扱いとしては、驚くべき雑さ(^^;
「永夢、本当にありがとう」
「いえ、先生のご指導のお陰です」
築けと言われた信頼関係をチャージしたロックバスターで消し炭にしたのですが、エム的には、とりあえずチャレンジしたからOK、という扱いなのでしょうか。
命の恩人にして心の師に諭されたエムが、これまでの所業を反省して医者として新たな一歩を踏み出すのかと思ったら、失敗したので諦めてゲーマーとして裏技に走る、というのは前後編エピソードの辻褄としては最悪だと思うのですが、前回今回で、鏡はクズ・大我はごろつき・エムは駄目なゲーマー、というのを作品として認めてしまった事を考えると、意図的に辻褄を合わせていないというか、意識的に傷口を広げに行っている感もあり、今作がどこを目指そうとしているのか、だいぶ困惑してきました(^^;
ここまで来ると、メインキャラ4人ともが、「“現実のヒーロー”としての医者」であるし、「“夢のヒーロー”としての仮面ライダー」でありながら、誰もその内実がともなっていないというのを故意にやっている可能性も僅かながら浮上し、今作もしかしたら、医者になれても仮面ライダーになれても、魂の伴わない者はヒーローではない、という事を描き続ける事で、逆説的に“ではヒーローとは何か?”を問おうとする、壮大なアンチヒーロードラマなのでは。
それが面白いかどうかという問題がまず一つあり、ギミックの都合に合わせてその場その場で継ぎ接ぎを繰り返しているだけという可能性も大いに捨てがたいのですが、3周ぐらい回って、段々この作品の行く末が気になってきてしまいました(笑)
そして事件の背後で暗躍するドットズボンと社長は……
「これで、全てのデータは取れたよな?」
「ああ、テストは完了だ。次の段階に移行しましょう」
次回――二人で自撮り!