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「私は悪の天才、ジニアス黒田」

隊長はいつ見ても超絶格好いいなぁ……!
超力戦隊オーレンジャー』17−18話、なんだか配信される度に見ている気がしますが、何度見ても凄い。
まず何が凄いって、オーレンジャーのパワーブレスを入手する為に、バラノイアの戦闘員に偽装して、子供を誘拐するフリをするジニアス黒田。この時点で問答無用で撃ち殺されても文句は言えないので、命がけです。そしてまんまとオーブルーを策にはめると、ブレスを奪うという目的機を果たした上で、高い所から落とすという、明確な殺意。
殺していいのは、殺される覚悟のある奴だけだ!
そしてどこかで見たようなマシンを背中に背負い、画面中央を突っ切って天高く飛翔するジニアス黒田の姿にかかるサブタイトル、と辻野監督の演出もキレキレで、開始3分にして、黒田が真っ当な人間の心を失っている事を濃密に描写。
人間よりもマシンの方が好きだ、とパワーブレスを取引材料にバラノイアと交渉するジニアス黒田。一人息子の茂には優しい父親の顔を見せる黒田だったが……実は茂の正体はロボットだった! という軽い悪夢のような内容が、りんどう湖ファミリー牧場協賛回というのも凄い。
なんとかパワーブレスを取り返してマシン獣を倒すオーレンジャーだが黒田と茂は姿を消してしまい……とここまでが前編第17話で、後編では黒田の狂気が更に加速。
損傷した茂を修理しながら、実は本当の茂は2年前に交通事故で死んでいた事を明かす黒田。その悲しみに耐えられなかった黒田は、コンピュータに茂の記憶を移し、マシン茂を生み出して親子として暮らしていたのである。
「でも今じゃおまえのほうがずっと大切だよ。人間の茂はちょっと車にぶつかっただけで死んでしまったが、マシンのおまえは簡単には死なない。やりようによっては、人間の何百倍のパワーも持てるし、武器だって内蔵する事ができるんだ」
死んだ息子をロボットとして甦らせるというのはままあるマッドサイエンティスト像ですが(この台詞そのものが、『鉄腕アトム』への意識が見えますし)、マシンでも愛している、というのを通り越してこの台詞に飛躍するのがこのエピソードの真骨頂。
杉村升はこれ以前に『特警ウインスペクター』第31−32話で、バイクによる轢き逃げで娘を失った科学者が“道具”に憎悪を燃やし、初めはバイクを、更には日本中の新幹線や飛行機、果ては科学そのものを崩壊させようと狂気の赴くままに特警と敵対するというエピソードを書いているのですが、ここではジニアス黒田は、死んでしまう“脆弱な人間の肉体そのもの”に憎悪を向け、もともと何を愛していたのかさえ見失ってしまう、というのが実に凶悪。
ウインスペクター』31−32話の悪役は、亡き娘の名前を付けたコンピュータであらゆる科学を否定しようとした結果、自己否定の矛盾に陥ったコンピューターに殺されてしまうという最期を向かえるのですが、愛した息子の身代わりを作り出した末に、その根源であった筈の人間に対する愛情を失ってしまうという皮肉と狂気は、実に杉村升
バラノイアから力を得、心どころか肉体までマシンと化してしまうジニアス黒田だが、マシンでありながら父を愛する人の心を持っていた茂が父の手から自立してその悪事を止め、最期は息子を思いやる気持ちを取り戻して死亡。黒田と合体していたマシン獣を倒すオーレンジャーだが、茂は損傷が元で力尽きてしまう……所に現れる、参謀長。
「泣くなみんな。茂くんは、死んではいない。機能が一旦停止しただけだ」
いつ聞いても凄い…………。
最低最悪の人は、ここに居た!!
人間の心を捨ててマシンと化した父親に対し、マシンだった息子は人間の心を得て人間として死んでいく、かと思ったらそれを何の頓着もせずにマシンとして甦らせてしまうという、真のマッドサイエンティストは愛とか憎しみとか関係なくごく普通にそこに存在している、というのが凄まじく杉村升です(笑)
作品全体のコミカル化が加速していく手前の一編で、非常に力の入った前後編、人とロボットと心の問題を主題にしたエピソードとしても良く出来ているのですが、最後の最後で、ナチュラルボーンマッドサイエンティストが何もかも台無しにしていくという破壊力が本当に凄まじく、90年代戦隊史に残る名作回だと思います。
それにしても、隊長の「超力ライザー!」の腕の振り回し方は格好いいなぁ……。