◆Space.5「9人の究極の救世主」◆ (監督:杉原輝昭 脚本:毛利亘宏)
悪代官に投石する子供を見て「なんか面白くなってきたなぁ!」と宣い、「名前を聞いてやる!」と繋げるラッキーの、飼い慣らされた豚や犬どもには名前を聞く価値もないという姿勢がホント凄い。
なにしろ、「名前は?」でも「名前を教えてくれ」でもなく、「聞いてやる!」なので、顔を上げて抗う、お前達の名前には覚える価値を認めてやる、という態度にしか見えません。
思い返せば、
キュウレンジャーになろうと考えたのは、黄緑黒が幕府軍を蹴散らしながら人々を救出している姿を見たから。
ガルに手を伸ばしたのは、ガルが幕府に反乱を起こした過去を持ち、腑抜けた今も殴り返してくる牙をまだ持っていたから。
金銀コンビを仲間にしたいと思ったのは、幕府軍を爆破していたから。
と、他者に鎖をかけて奴隷にしようとする世界に対して、自分の足で立ち上って抗う反骨精神こそが、ラッキーが認める人間の価値なのではないかと思われます。
勿論、第2話において金銀コンビの裏取りを全くしないように、ラッキーの選択は極めて危なっかしい事が多いのですが、出来ればその結果オーライや、「俺は信じる」にあっさり命を賭けられる理由を、強運だから、とするのではなく、ラッキーの出自と上手く繋げてほしい所です。
是非とも、お茶の間と仲間達がドン引きして3日ぐらい落ち込むような壮絶な過去を笑顔で語った上で「でも俺は今もこうして生きている、よっしゃラッキー!」ぐらいな感じでお願いしたい。
毛利さんを、信じてる!(こんな時だけ無責任なエール)
そんなわけで現状、私にとって『キュウレンジャー』が面白くなるかどうかは8割方ラッキーの過去にかかっているので、それ次第では今後、物凄くテンション下がる可能性がある事を、先に予告しておきたいと思います(え)
メンバー揃って落ち着いてからの展開の中で、さりげなくラッキーの過酷な経験を窺わせる言行が少しずつ織り交ぜられていったりしないかなぁ……。
「大人を守ってあげないと」とバク代官に雄々しく刃向かう兄弟・小太郎&次郎と仲良くなるラッキー達だが、そこにキュウレンジャー抹殺を命令された射手座家老とスティンガーが出現。どうも知力より筋力過剰にパラメータを割り振っているらしい御家老のアローレインを浴び、キュウレンジャーはあっという間に変身解除。御家老から小太郎と次郎の抹殺を命じられたスティンガーだが、二人を捕まえて人質とし、8人揃ってキュータマを持ってこいと交換条件を突きつけてくる。
翌日、待ち受ける幕府軍の前に降り立った8人は兄弟を助ける為にキュータマを渡すが、御家老は当然、人質を解放せずにキュウレンジャーを攻撃。スティンガーに兄弟の始末を命じるも断られた御家老は、自ら殴る蹴るのお仕置きを敢行する。
「銀河を一つにする為に必要なものはなにか! それは圧倒的な恐怖だ! その身に痛みを、恐怖を刻み込めぇ!」
小さい……。
御家老、惑星一つレベルのボスならまだ許容範囲なのですが、星系の統治者であり、多数の代官を束ねる立場にしてはあまりにも器が小さすぎて、今作(宇宙幕府)のスケール感が全く見えてこないのが実に困った所。悪としてのわかりやすさ優先であり、その不足を補う為のキャスティングではあるのでしょうが、世界観と直結するだけに、もう少し、大物に見える工夫が欲しかったです。
「よーく見ておけ。これが宇宙幕府ジャークマターのやり方だ」
自ら兄弟を始末しようとするのも、子供にさえ容赦しない冷酷非情の宇宙幕府というより、スカウトした新人に反抗された腹いせに子供に刃を向ける小悪党、みたいな具合に。最前線に立つ大物、という表現もありますが、すっかり、最前線に立つ小物、になってしまいました(^^;
兄弟に武器を振り下ろそうとする御家老だが、それを止めるスティンガー。
「貴様、やはり裏切るつもりかっ」
「裏切る? 違うな。貴様は俺を怒らせただけだ」
兄弟に対しては優しい表情を見せていたスティンガーは、尻尾でキュータマを8人の元へ飛ばし、合流。
「よっしゃラッキー! 信じてたぜぇ!」
「なーにがラッキーだ。お前等に加勢したわけじゃない。ただ一つだけ言っておく。俺はスパイだ」
前半と後半の内容が繋がっていませんが、知力低いので仕方ない……。
「そーだったそーだった、忘れてた〜。スティンガーは僕ちんがジャークマターに送り込んだスパイなの」
司令官の告白により、惑星ニードルに向かわせた事がそもそもスティンガーを潜り込ませるの仕込みだったと明らかになるのですが、対決の本当らしさを出す為に真実を伝えなかったのは納得が行くとして、チャンプとラッキーの意見の衝突を見ながら事ここに至るまで黙っていたのかと思うと、実に悪辣。
食わせ物路線の司令官はここまでやったからには、宇宙解放の為には手段を選ばず全ての業を背負う気でいるという、“結果的に外道”なのではなく、“自覚的に外道を辞さない”人であって欲しい。
そしてスティンガーが最初からスパイだった事で、ちょっとキュウレンジャーと戦っていたからとスカウトした喧嘩馬鹿を連れ歩いてショーグンとの会見にまで同席させてしまう射手座家老の迂闊さと頭の悪さが目も当てられない事に。
「チャンプ、俺の言った通りだろ」
「弁解はしない。俺は俺の正義を求めるだけだ」
「んモウ〜〜〜、めんどくせー! とりあえずやるぞぉ!」
前回はラプターがワシピンクになった途端に、スパーダにはスパーダの理があったという点が忘れ去られてしまい、スパーダが一方的に反省して手の平を返すような描写にされ、今回はスティンガーがキュウレンジャーだと判明した途端に、チャンプの復讐心が場外に投げ捨てられてしまい、仕方が無いのでチャンプが思考停止。
真相はさておき、チャンプの感情的問題は何も解決していないのですが、それを「戦隊として戦う勢い」で置き去りにして踏みつぶしてしまっており、どうして2話連続で、同じような失敗をしているのか。
チャンプに関しては構成の問題が大きいですが、前回も今回も、キャラの心理に納得力を増す為のワンクッションを挟めない、というのは監督の若さが出たかなとも思う所。
ラッキーにとっては、「キュウレンジャーである=キュータマに選ばれた究極の救世主である=非道な殺人者ではない」が成立しても、チャンプにとっては「キュウレンジャーである=アントン博士の仇ではない」というのは成立していない筈なのですが、そこが話の都合で混ざってしまったまま、解きほぐされずに進められてしまっています。
そして現状、スティンガーの「罪は償う」「弁解はしない」をラッキーの理屈と矛盾しないようすると、アントン博士は救世主に始末されるべき人物だったという結論しか残らない気がするのですが、思考停止でいいのか(まあ高い確率で、真犯人はスコルピオだと思われますが)。
9人のキャラクターを動かすに際して、一人一人をキャッチーに特徴づけるというスタートは切れたものの、それぞれを絡み合わせると途端に雑また雑で、ハードルを蹴り倒しまくり。
「よーし! ここからが本当の戦いだ! 9人揃ってキュウレンジャー! みんな、行くぞぉ!!」
サソリ野郎が調子に乗っているので、ラッキーの相棒は俺ガル、と一人だけ前に進んでラッキーの横に並ぶガル(笑)
『カジキ・カメレオン・オウシ・オオカミ・シシ・サソリ・テンビン・ヘビツカイ・ワシ・キュータマ』
『セイ・ザ・チェンジ!』
「「「「「「「「「スターチェンジ!!!」」」」」」」」
一同揃って変身から名乗りを決め、遂に並ぶ、9人の究極の救世主。
変身前にガルが一歩前に出たのは、揃い踏みバンクでオオカミブルーが皆より前に居る、というのも踏まえてでしょうか。もふもふヤクザらしく、鉄砲玉の役割の模様。そして、地味に謎のポーズを取る銀。
「よーし、おまえらの運、試してやるぜ!!」
キュウレンジャーは一気呵成に幕府軍へと切り込んでいき、戦闘開始。獅子レッドに対してはバク代官の特殊攻撃が迫るが、桁違いの大きさを持った夢が、その中からは溢れ出す。
「もっと食えよ! 腹減ってんだろ!!」
前回の時点でやりそうなネタだとは思っていましたが、ラッキーの巨大すぎる夢に怪人がおののく、というのは毛利さんの特撮脚本デビュー作である『仮面ライダーオーズ』オマージュも感じる所として、夢を吸わせるだけで怪人を爆死させるレッドはさすがに史上初でしょーか。
「俺の夢、どんなもんだぁー!」
夢を凶器に他人を破裂死させて、誇らしげなのは、きっと初。そしてこの、“夢で人を殺せる男”というのは、割とラッキーというキャラクターの核なのでないか、と思う所。
キュウレンジャーと幕府軍の戦いを、固唾を呑んで見守る地球人達の姿に気付き、自分たちの戦いの意味に気付くシシレッド。
「俺わかった! 俺たちが戦うから、みんながジャークマターと戦おうと思える。希望が生まれるんだ」
ここで、ヒーローと大衆の関係性を物語に組み込みつつ、少しずつ希望を与える象徴となっていく所から始まる、という今作における救世主のスタンスを明示。
「そんなまやかしの希望、叩き潰してやる!」
ヤクザアローを放ってくる御家老に対し、地球人の声援を受けるキュウレンジャーはラッシュ攻撃を仕掛け、9人揃ったオールスタークラッシュが炸裂。深傷を負った御家老は宇宙船を呼んで逃走し、バク代官も巨大化するが、時間の都合によりメテオブレイク(蹴り)で瞬殺。天秤の必殺攻撃時は「トリックブレイク」だったのに、今回は前回と同じ「メテオブレイク」なのですが、左腕がワシだと全てメテオブレイク?
キュウレンオーは射手座戦艦と宇宙で激突し、キュウレンオーと余った4ボイジャーで一斉に救世主ビームを放つ、スーパーメテオブレイクで戦艦は轟沈。射手座家老は「ジャークマター万歳」と叫びながら、これといって冴えないまま宇宙の塵となるのであった……。
射手座家老は本来、ジャークマターとはどんな悪なのか、を視聴者に見せつける、物語のスタートにおいて非常に重要なキャラクターの筈だったのですが、早期リタイア前提に話の都合を丸出しで描きすぎて、腰が軽くて粗暴で頭空っぽの人になってしまい、必然的にジャークマターにそのイメージが反映されてしまうという、立ち上がりで大きな失点。
…………或いはジャークマター、あれよあれよと言う間に銀河を征服してしまって、人材が足りていないのか。
最終回、
ショーグン「よくぞここまで来たキュウレンジャー。貴様等に私があっという間に全銀河を支配できた秘密を教えてやろう……それは、私が超ラッキーだったからだ! 銀河通販で買ったこのブレスレットを手にして以来、宝くじは全て1等賞、裏山を掘ったらレアメタルが埋蔵されていて、彼女も出来た! ラッキーよ、私の運と貴様の運、真に強いのはどちらなのか、星々をチップにした、大宇宙チンチロリンで決着をつけるぞ!!」
とかだったらどうしよう。
御家老とショーグンの会話から、地球には何か秘密があるらしい事を報告したスティンガーは、地上に残って独自に調査を進める事に。もしかして、幸運のブレスレットの原材料が掘れるのか。
チャンプとの関係性があるのでさすがにオリオン号同行は避けましたが、しばらくは従来作における追加戦士的な役回りになるのかも。一族を裏切った自分の兄であるスコルピオを探している事、そのスコルピオはショーグンお抱えのジャークマター最強の殺し屋である事、という背景も描かれ、キャラクターとしては全体の中でも主要な位置づけになる様子。
「俺は決めたぜ、まずは地球からだ。骨のあるヤツがいるってわかったしな。ここから始めようぜ。ジャークマターとの戦いを」
ラッキーが重視するポイントがどこにあるのかが明確で、やはりこの辺りは、意図して描いているのだと信じたくなる所です。
「俺はラッキーに従うガル」
率先して腹ばいの賛意を示す
前回は自分の意見を示したガルですが、油断するとすぐに、魂の共鳴する無二の相棒というより、ラッキーを持ち上げる腰巾着になってしまうのは引き続き不安点(^^;
メンバーの人数が多いため、とりあえず一人でもラッキーの無茶に同意してくれるキャラが居ないと展開しにくいのでしょうが、これならいっそ、ガルは最初から「ラッキーのアニキー!」的な弟分キャラ(但しオオカミ一族として土壇場での誇りは持っている)にしてしまった方が良かったのでは。……まあスティンガーの背景と被ってしまうので、その辺りの調整の都合もあったのでしょうが。
今回も冒頭、地球の扱いに関して皆の意見が割れるシーンを入れてはいるのですが、何故かラッキーの発言をきっかけになぁなぁで地球へ再上陸が決定してしまい、特に意見もまとまっていないのにラッキーが主導権を握ってしまう理由が、赤だから、だけになってしまっていて説得力を上手く持たせられていないのは、気になるところ。
これが5人戦隊だったら、多少意見が割れていても強行で動けますし、メンバー個々の意見の違いを擦り合わせる過程も描いていけるのですが、人数の多さが露骨にデメリットになってしまっています。
そこを上手く描けないのだったら、明確なリーダーシップの持ち主か、仲間内で人望厚い調整役か、のどちらかが必要だったと思うのですが、調整役かと思われたスパーダが現状特に機能せず。
今回冒頭でいえば、ラプターがラッキーにボールを投げる→ラッキーが意見を言う→じゃあ今回はラッキーの言う通りにしてみよう、とまとめる役割の人が居ないと意見の一本化が成立しないわけなのですが、そういった描写が抜け落ちているのは改善されてほしい部分。
そしてチャンプはラッキーの「満場一致」発言(この時点でチャンプはリアクションしていない……)に飲み込まれて、1・2・3・ダァーッ! とかやっていないで、そこの司令官に4の字固めを仕掛けて知っている事を洗いざらい吐かせるべきでは。まず間違いなく、アントン博士殺害事件について全て知っているぞ、その人。……まあショウ司令、恐らくいくら拷問しても口を割らないタイプですが。
…………は?! ドン・アルマゲ→アルマゲドン→「ハールマゲドン!」であるならば、ショウ・ロンポーの「ロン」は、ドラゴンコンドルを示している?! つまりショウ・ロンポーは第5の(以下略)
9人のメンバーが揃ってプロローグ終了、という序盤の一山でしたが、母屋崩壊まではいかないものの、とにかく随所にひび割れが目立って、今作の数々の問題も改めて浮き彫りに(^^; どれもこれも、放置しておくとヒビが広がって手遅れになると思うので、倒壊前に穴を埋めていってくれる事を期待したいです。
下手をすると、ラッキーという建物の芯が内側から外壁を食い破って、最終的に芯だけが力強く屹立している、みたいな事にもなりそう。
しかしまあ、「やはり地球に……ここからが本当の勝負だ」と、地球に何かが、というのは話のわかりやすさとしては構わないのですが、作品世界のハッタリにリアリティを持たせるという観点からも、出来ればここまで来るのに1クールは欲しかったなぁと思う所です。
近年のフォーマットで行くと、第12話前後でチームの結束を改めて描きつつ新合体ロボ投入、というパターンが多いですが、そこまでにどのぐらいの水準で、キャラ話と補修作業をこなせるかが先々まで影響する鍵になりそう。