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『仮面ライダー555』感想29

(※サブタイトルは存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆第40話「Home Sweet Home」◆ (監督:田村直己 脚本:井上敏樹
衛星からの電波を受け、全身にストレッチパワーを漲らせた真紅のブラッディファイズは、北崎オルフェノクの攻撃を弾き、逆にパンチで吹き飛ばすという凄まじい強さを発揮。ファイズブラスターを手にコードを入力するとブラスターがブレードモードに変形し、更に……飛・ん・だ!
ファイズブラスターはブラッディモードの各種機能のリモコンも兼ねているようで、コード入力により、背中のバックパックからジェット噴射でファイズが飛翔。ギミックとして回りくどいのはまあさておき、久々の強化&長い彷徨の末の巧ファイズ復活という事で滅茶苦茶な勢いの活躍なのですが、映像としては『機動刑事ジバン』のダイダロスモードを思い出していました(笑)
今作から数えて約15年前の作品としては、主人公ジバンがいわゆるロケットベルトに近いバックパックを装着して飛行するというアクションはなかなか見応えがあったのですが、それを彷彿とさせる姿で舞い上がったファイズは、ブレードにパワーを充填。

第二条・仮面ライダーファイズは、相手がオルフェノクと認めた場合、自らの判断で犯人を処罰することが出来る。
第二条補足――
場合によっては抹殺する事も許される。
ブラッディファイズは、滑空からの強烈無比の斬撃、フライングファイズエンドでトマホークオルフェノクを両断。辛くもその一撃をかわして突撃してくる北崎オルフェノクを、背中のバックパックが可変してショルダーキャノンになる、という何やら世界観の違う攻撃方法で撃退。
「馬鹿な……俺が! 俺がやられるだとぉ!!」
退却を余儀なくされた北崎は、自負を傷つけられ、身もだえしながら絶叫するが、G3だと思って殴りかかったらゾルダだった、ようなものなので致し方ありません。
「俺はまだ君を信用したわけじゃない。いずれ君も完全なオルフェノクになる。澤田のようにな」
草加はあくまで巧を否定し、真理に謝った巧はベルトを返して走り去り……その晩、菊地家の食卓の空気はとても重かった。
いつでもどんな状況でどんな発言をした後でも平気で食事をする面の皮の厚さには定評のある草加ですが、段々、単に金欠なだけではないかと不安になってきました。或いは、真理に母親になってもらいたいと同時に、真理に冷たい視線を浴びてすげなくされるのもそれはそれでいいかもしれないというジャンルに目覚めつつあるのか、草加。大丈夫か、草加。深呼吸だ、草加
一方、過去の栄光を失った天才ギタリストでも、中途半端な自分の存在に悩むオルフェノク/人間でもなく、暇を持て余す変わり者のお兄さんに落ち着いた海堂は、すっかり養護施設に馴染んでおり、そこには狭い世界の幸せに浸る結花も同行していた。
ところがそこに、ビル火災の生き残りである鈴木少年に話を聞きに刑事コンビが訪れ、児童園がスマートブレインの施設である事、そして園を立ち去る結花の姿を目撃する……。
オルフェノクによる殺人事件、に対する現実の捜査活動は、刑事コンビという接点は残しつつも重点が置かれずにほぼ放棄されていたのですが、ここで有機的な結合が加速。出来れば刑事コンビはもっと継続的に出していた方が展開の説得力は増したのですが、完全に巧達と別視点になってしまう(それでこそ意味がある)ので、ただでさえボリュームの多い『555』でそこまでは手が回らなかったかとは思われ、ちょっと残念。
再びベルトを手放し、真理達の元を去った巧は、バー・クローバーを訪れる。
「おまえらラッキークローバーの連中と勝負がしたい。全員まとめてな」
「わかるわよ。あなたの考えてる事ぐらい。私たちを道連れに、自分も死のうっていうんでしょ。折角、可愛がってあげたのに。馬鹿ねぇ。でももういいわ。――あなたとの勝負、受けてあげる」
そんな巧の前に現れる、澤田。
「俺は真理の命を奪おうとした。それなのに……真理は君を信じようとしている。俺と同じオルフェノクである、君を。何故だ?!」
巧に詰め寄る澤田だが、肩に置いた手が灰となって崩れ、慌ててそれを抑えて座り込む。
「そろそろ限界か。俺もやっぱり……失敗作だった、という事らしい」
「失敗作? どういう事だよ?」
「もう俺はずっと前に死んでるんだ。俺だけじゃない。俺の昔の仲間達も」
澤田は巧にも同窓会の夜の出来事を語り……真理、何度目だ、死亡シーン。
「俺たちは以前、オルフェノクによって命を奪われた。だが、そこから全てが始まったんだ」
あの夜――北崎によって虐殺された塾生達はスマートブレインの施設に運ばれ、そこである計画の被験者とされる。
「全てはスマートブレインの陰謀だったんだ。奴等は人工的にオルフェノクを作る実験台として、俺たちを選んだ。俺たちは記憶を奪われ、肉体に、オルフェノクの記号を埋め込まれ――そして甦った」
“記憶を奪われ”は、伏線の回収にあたって都合が良すぎますが、オルフェノクが人間を殺すと確率によってオルフェノクとして覚醒して蘇生する、というのは余りにも効率が悪いとは思っていたので、オルフェノクサイドが人工的にオルフェノクを増殖させる手段を考えていた、というのは非常に納得できる展開。
被験者として塾生達が選ばれたのは、そもそもオルフェノク候補生(九死に一生を得た子供達)だったのが覚醒せずに用済みになったからなのか、元々この計画の一環として集めていたのかは、お父さんの意図がまだ判然とせず繋がりきりませんが、ファイズになれない真理、カイザに耐えられる草加、などの個人差があるのは何らかの特別な処置があったのか、それとも単に適合度の差なのか。
オルフェノクの……記号?」
「そう。いずれ俺たちの体が、オルフェノクとして覚醒するように」
「覚醒……」
「だが……実際は失敗だった。ただ一人……オルフェノクになった、この俺も……」
肉体の崩壊現象に追い詰められていく澤田は、気絶。
……これだけの重要なプロジェクトについて把握していない村上社長は、そうとう力の弱い派閥出身だったのか、いつものように目が節穴なのか。暗殺者を送り込まれる程度に強引に成り上がったようなので、社内の権力強化の為に、かつて行われた極秘プロジェクトの詳細を掴んでおきたかった、というのはあるのでしょうが。
社長も、スマートブレインという大樹の陰に隠れて、社長個人の意志が掘り下げられていないので、終盤その部分に踏み込んで弾けてくれる事には期待したいです。
翌日――
「嫌だ……俺は戦いたくない、戦いたくないんだ。こんなもの……こんなものさえ無ければ」
運命に背を向け、戦いから逃げようとする三原は発作的にデルタギアを車道に放り投げ、ひたすらぞんざいに扱われるベルト。それを拾おうとした里奈は大型トラックに轢かれて意識不明で病院へ運ばれる。
「里奈……里奈……俺どうすればいいんだよ。俺は……」
里奈の手を握り涙をこぼす三原だが……サバイバーが車に轢かれたぐらいで倒れるわけがなかった!
この辺り、里奈もスマートブレインの実験で蘇生した体なので、普通の人間よりは生命力が強いのかもしれない、となんとなく理屈の繋がる部分。
「三原くん……前に言ったわよね。家に帰りたいって。私もそう。……でも帰る家なんてどこにもない。……だからみんな一生懸命生きてるんじゃないかな。一生懸命生きれば、今ここに居る場所が、自分の家になるから」
その頃、巧によって打ち捨てられた教会に運び込まれていた澤田が、目を覚ましていた。
「どういうつもりだ? 俺を助けようとでもいうのか?」
「……あんたも……被害者だからな」
巧の言葉に、力の抜けた笑みを浮かべる澤田。
「……わかったよ。なぜ真理が、君を信じるのか」
相変わらず誉められると気が緩む巧は満更でも無い表情になるが、直後に河童パンチを鳩尾に受けて気絶。澤田は真理に巧の居場所を告げると、「……奴を、助けてやってくれ」と言い残し、巧の代わりに三つ葉のクローバーへと単身挑む。
「選手交代さ。――あんた達の相手は、俺がする」
そんな事になっているとは知らず、駆けつけた真理に発見され、目を覚ます巧。
「ねえ巧、まだ自分の事が怖い? まだ自分を信用できない? ……じゃああたしを信用して。巧を信じてるあたしを信じて。あたし、巧より巧の事知ってるから」
巧を暗い泥濘の底から助けようとする真理の言葉はオーソドックスなテーゼですが、今作においてこれは、個人を勇気づける言葉である以上に、誰かに信じられているという事は、誰かと繋がっているという事を示しているといえます。
そしてそれは、巧自身が今までの生き方で培ってきたものであり、それこそが、人間として生きるという事。
これはちょうど前回の勇治の、自分さえ律していれば人間でいられる、と対をなしているともいえるでしょう。
誰かを傷つけてしまう事は怖い。
誰かに傷つけられる事も怖い。
けれども、全てを恐れて誰も存在しない世界に閉じこもって耳を塞ぎ続けるのなら、それは獣と何が違うのか。
その恐怖と向かい合い、乗り越え、立ち上がり、たとえ傷つけられても人として生きろ、という『ファイズ』はなかなか、当たり前に厳しい作品です。
「真理、俺は……」
そこにかかってくる、冴子さんからのお怒りの電話。
画面奥で、なんか変なポーズを取っている澤田。
巧と真理は、澤田が単身で三つ葉のクローバーに挑もうとしている事を知る。
「もしかして澤田くん……巧を助けようとして」
「澤田が……俺を?」
真理は澤田からの電話の内容を伝え、その真意を悟る。
「やっぱり、澤田くんは人間だったんだよ。巧だって、オルフェノクの力に負けるかどうかは、自分次第なんだよ」
「澤田が……俺の為に」
意を決して立ち上がる巧――その背後には、窓から差し込む光に照らされた、磔刑の十字架。
その様子を遠めに見て考え込む草加の元には、デルタギアを手にリノリウムの床を歩く三原から電話が。
草加……俺も戦う。今度こそ本当に。――デルタとして」
そして澤田は、クローバーを相手に両手を広げて体を揺らしていた。
「どうした? 俺が相手じゃ不服なのか」
カバディカバディ
「別に。今日は起源が悪いんだ。相手は誰でも構わない!」
カバディカバディ
北崎の変身に続いてラッキークローバーの3人は河童に猛攻を仕掛け、怒りの北崎オルフェノクの一撃で派手に吹き飛ばされる河童。そしてその前に、サイドカーを止めて草加が降り立つ。
逆光に照らされる姿が非常に印象的で、最近の草加はやたらめったら格好いい。
草加……」
「澤田……おまえがどう変わろうと、おまえの罪は許されない」
草加はカイザに変身し、しかし振り返ってラッキークローバーを攻撃する……のかと一瞬期待したのですが、そんな事はなかった。
カイザは思いっきり河童を殴り、これまでにない乱暴なモーションで円錐を発動。車輪剣でなんとか直撃を避けるも円錐キックで大ダメージを負った河童を仕留めようとするカイザだが、そこへ襲いかかるラッキークローバー。河童はよたよたと逃走し、代わりに袋にされるカイザだが、三原が到着してデルタへと変身。
一方、その場を離れるも深い傷から変身が解けた澤田は、川に転がっていた所を巧と真理に発見される。
「真理……すまない……。俺は……人間としても、オルフェノクとしても……生きられなかった」
「そんな事ない! 澤田くんは人間だよ! 昔の優しかった澤田くんのままだよ!」
「真理……」
真理を巡るダメンズハーレムの一角を成し、同窓会の夜の出来事を知り、人間でありたい怪物ではなく、怪物になりたい人間として中盤をかき回した澤田、巧と真理に看取られながら、蒼い炎に包まれて消滅。
描写としてはだいぶ綺麗な結末を迎えた澤田には人間の目からすれば大量殺人鬼という面があり、それを真理が知らないままというのは物語として一つ欺瞞といえるのですが、だからこそ草加カイザは澤田オルフェノクに刃を向けざるを得ず、なかなか草加も損な役回りといえるのかもしれません。
河川敷では、今日は本気の枯れかけクローバーに追い詰められたカイザとデルタが変身解除に追い込まれていたが、そこに駆け込んでくる巧。
草加ぁ!」
「……乾」
「……俺は戦う。人間として――ファイズとして!」
以前に巧は、草加カイザの攻撃から巧を必死に守ろうとする勇治ファイズを見た時にも表情に変化があったのですが、最後の最後に真理の信じる澤田になろうとする事で、間接的に巧を守る事となった澤田の姿を見た事で、人間は一人で生きているのではなく、誰かに生かされてもいる事に気付く。
そしてそれは――生きていていいんだ、という事でもある。
誰かが、生きていていいと、言ってくれる場所……生きていていいと、言って貰える自分である事……そこに、自分の家ができる。
アレンジ主題歌のイントロから、巧を中心に立ち上がった草加と三原も変身し、ファイズ・カイザ・デルタが揃い踏み。巧と草加の対立は何も解決していなかったり、デルタの中身が勇治ではなくキャラクターとしてはポッと出の三原だったり、実は何もまとまっていないのですが、主題歌をバックに並んだ3ライダーが揃ってフォトンブラッドの光に包まれる姿は非常に格好良く、極めてヒロイックな再起の姿を見せた所で、つづく。
またも予告で……なのですが、今回はBGMとエフェクトにより、予告で見せたカットより遙かに印象的な絵になっていたので、まあ良し。巧の復活を除くと、物語の流れとは若干の齟齬があるのですが、それを承知の上で、次回からの終章スタートを前に田村監督が演出で強行突破したのかと思われます。正直この先、この3ライダーがヒロイックに揃い踏みして共闘する展開があるのか、不安ですし(笑)
次回――物語はいよいよ、「人間」と「怪物」から、「人類」と「オルフェノク」という不可避の段階へと踏み込み、最近出番が少なくて平穏だった結花に、運命の急変迫る。