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そして西澤保彦と石持浅海に戻る

◇『聖女の毒杯』 (井上真偽)


 “奇跡”を求める青髪の探偵ウエオロ・ジョウの債権者である、元チャイニーズマフィアの美女リン・フーリンは、所用で訪れた田舎の村で、殺人事件に巻き込まれる。それは、TVカメラも入った衆人環視の結婚式のさなか、酒杯を回し飲みした8人の内、3人だけが死亡する、という不可解な事件であった……。
“奇跡”の実在を立証するために、人為的なあらゆる可能性を検討した上で論理的に否定し、不可能犯罪が確かに不可能犯罪である事、“奇跡”以外にその実現がありえない事を証明しようとする青髪の探偵のシリーズ第2弾。
事件を分析する過程で浮かび上がる不可能性、思わぬ形で名乗りをあげる真犯人、予想外の点と点が繋がり、登場人物それぞれに降りかかる災難。物語はどこへ向かうのか、どこに着地するのが正しいのか、と読み手を眩惑する話の転がし方は秀逸で、なかなか面白かったです。
キャラクターの特徴づけの面白さは作者の長所の一つになっていきそうですが、語り手に感情移入させ、事件に関わる人物達に相応の好感や嫌悪感を持たせる筆致は巧み。また、奇跡を証明しようと世界に抗うトリックスターである探偵の、英雄であり道化師であるという二面性も前作より遙かに上手く描写されています。
前作では、探偵が事件の分析を終えた所から始まるという構造に物足りなさを感じたのですが、今回は読み手と一緒に事件を分析する形にしたのは改善点。またその構造の変化が、後半の展開に良い効果をもたらしています。
難点は、今作のコンセプトから必然的に陥る構造上の問題点で、シリーズ次作があるなら、それを乗り越えて物語としてより鮮烈な驚きを見せてほしいところ。


◇『伽藍堂の殺人』 (周木律)
◇『教会堂の殺人』 (周木律)
既刊情報などからてっきり全5巻でシリーズ完結だと思い込んで読んでいたのに全く完結ではなかったどころか、巻を重ねる内にグダグダになっていき、このもやもやをどうすればいいのか。5作目に至っては、本格ミステリが読みたかったのに、どうしてこんな気持ちの悪い話を読まされなくてはならないのか、という内容で、正直酷かった。そういう方向性だと銘打たれていればまだしも(最初から手に取らない)、シリーズ物の5巻目でやる話ではないだろうと思うわけで、作者の中ではシリーズの構想の中で必要なエピソードだったのかもしれませんが、読んでいてただただ苦痛になってしまい、残念でした。


◇『さよならは明日の約束』 (西澤保彦
さよならは明日の約束

さよならは明日の約束

本に挟まった書いた覚えのない手紙、教師の不可解な叱責、書きかけのミステリ小説の真相、消えた寄せ書きの謎……本好きの高校一年生・日柳永美(通称:エミール)と、マニアックな映画ファンの同級生・柚木崎渓が日常の些細な謎の真相を推理する、緩やかに繋がった連作短編集。
いわゆる“日常の謎”ミステリで、西澤保彦ですが、ギャグもグロもSFも無し(劇中作の形でちょっとあり)。気持ちのいい青春ミステリで、特に表題作は読後感が良かったです。


◇『罪人よやすらかに眠れ』 (石持浅海
罪人よやすらかに眠れ

罪人よやすらかに眠れ

――この館に、業を抱えていない人間が来てはいけないんです。
札幌市・中島公園にほど近い住宅街にある、巨大な屋敷。品の良い夫婦とその娘、2人の使用人、そして謎めいた美貌の青年が住むこの屋敷は、まるで自ら導くかのように秘密を抱えた人々を招き入れる。
酔いつぶれた友人を介抱していたサラリーマン、親戚の家に東京から遊びに来た小学生、待ち合わせまでの時間つぶしに散歩をしていたOL……偶然か、はたまた必然か、些細な出来事から屋敷に招かれる事になった者達の抱える業を、謎の美青年・北良がほんのわずかな手がかりから解き明かしていく、という一種の安楽椅子探偵的な連作短編集。
1編30ページほどの短編という事で謎解きは簡明で、会話と推論を通して意外な事実が炙り出されるという形式なのですが、そこに不思議な屋敷とどこか幻想じみた住人達というファンタジー風味のスパイスが良い案配で利いており、石持作品らしい“残酷な美しさ”とでもいうものが上手くはまって、なかなか面白かったです。
石持作品の志向する物語的美しさには、真実の秘める残酷さというのがしばしば同居しているのですが、その二つが短編の形式とサイズの中で非常に上手く噛み合った、という感じ。収録6編の中では、前半3編がお気に入り。