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『ファイズ』よもやま話1

印象の強い内につらつらと、とりあえずキャラクターの話を思いつくままに。
◇乾巧
無趣味系主人公。
五代雄介、津上翔一、城戸真司、と陽性で前向きな造形が続いていた《平成ライダー》4代目にして、無愛想、ぶっきらぼう、消極的、とネガ要素の強さが特徴的。90年代後半〜00年代の戦隊レッドの文脈から見ても異端の存在といって良いでしょうが、後半その来歴が明かされてみると、むしろ《昭和ライダー》の系譜にあるキャラクターとも思えます。
昭和ライダー》の主人公が、悲劇的な運命を背負いながらそれを越える使命感或いは復讐心で戦っていたのに対し、初期の巧は、その運命に押し潰されていた状態だったといえるでしょうか。
これは一つに、巧には“復讐する対象が存在しなかった”事が影響したとはいえ、不条理な運命に対して憎悪をぶつける相手を見つけてしまった木場勇治、命を懸けて復讐すべき敵が存在した草加雅人との、そこが大きな運命の分かれ道であったのかもしれません。
初期の巧の、無感動で他人と触れ合いたがらない“今風の若者”的な描写には、なんだかんだヒーロー物の主人公としては、リアルっぽさをやりすぎたのではないか、と思う所もあったのですが、オルフェノクである正体が判明する事で、己の中に眠る異形を知るが故に、人と関わる事を恐れ、本気で生きていいのかどうかに怯えている、という形で接続されたのはお見事。
そんな巧であったからこそ、最終回の「だから一生懸命生きてんだよ」は、胸に深く響く言葉となりました。
ヒーローと倒されるべき怪人が根を同じくする改造人間テーゼを更に踏み込み、怪人の内面に大きく焦点を当てた今作では、わかりやすい正義と悪は存在せず、黒と白で割り切れない世界が執拗に描かれたのですが、その中で一つ、今作において“正義”に近い所に位置したのがその、「一生懸命生きる」という事であったと思います。
そしてその対となる“悪”が何かといえば、「思考停止(放棄)」であり、オルフェノクの力に飲み込まれる、というのはその象徴的表現であったといえるでしょう。
敢えて今作を正義と悪という概念で見るならば、「考える事をやめずに、限りある生を懸命に生きろ」という物語であるのかな、と。
今作の一つ特徴的なのは、“それが出来るのがヒーロー”ではなく、“それは何も特別ではない人間の尊さである”と描かれている事で、普遍的なテーマを、普遍的であると描く事により、今作は極端な話、ヒーローと無関係な所に着地しているといえます。
『555』の何ともいえないヒーロー物としての捉えにくさ、というのは恐らくこの辺りにあって、今作はヒーロー故のブレイクスルーが人間を動かしていくのではなく、ヒーローが人間としての普遍的価値に辿り着く、というのが肝になっており、一方で“ヒーローになる”事によって、巧が“人間に近づく”構造なので、その過程においてヒーローである事には非常に大きな意味がある。
なのでヒーロー物である意味が薄いわけではなく、ヒーロー物としての手法を用いているのですが、着地点から全体像は見回した時には、ヒーローを描く物語というよりも、非常にどろくさい人間賛歌であったのかなと思えます。
とりあえずキャラクターの話から書くつもりが、巧について考えていたらそのまま作品論に直行してしまいましたが、そういう主人公だなーと。巧に関してはまた追記するかもしれません。


◇村上峡児
何故かいきなり社長に飛びますが、いや今作における“悪”とは「思考停止(放棄)」である、と定義した上で考えてみると、社長は多分、オルフェノクについて、オルフェノクと人類の関係について物凄く真面目に考え続けていた人で、その点で今作における“真の悪”ではなかったのだろうな、と。
故にこそ、花形に利用されて勇治の踏み台にされてしまった、といえるのですが、ある意味で村上は、スマートブレイン側において、巧に最も近い存在だったのかもしれません。
「ふーふー」が2人の合言葉!
基本、物語的には保険の存在で、どう転んでもなんとかなるように、ちらちら出てきては思わせぶりな事を言う役回りであった為、キャラクターとしての押しがやや物足りなかったのは残念だった所。
もっとこうね、路上でいきなりグランドピアノとか弾きだしても良かったんですよ!!
その辺りの弱さはスタッフも感じていたのか、終盤は出てくる度に大音量でクラシック音楽を聴いている人になっていましたが、前半からそういった演出上の濃い味付けをしにくいキャラだったのは、惜しまれる所です。
そんなわけで感想的には、どういう位置づけで扱えばいいのか難しいキャラだったのですが、後半、ああこの人は本格的に節穴なんだ、というのが明確になってからはわかりやすかったです(笑)
……いや若干、「節穴」はネタにしすぎたかなと思う所もあるのですが、最後まで見てみると、全てが見通せるわけのない生の中で藻掻きながら進んでいる、というのが村上らしさであったのだな、と。
惜しむらくは王の力による永遠の命に取り憑かれてしまった事ですが、もし村上が、人もオルフェノクも等しくいつかは灰になる存在である、という事を受け止めた上でオルフェノク種の為に戦う事を選んだら、最強の敵になっていたかもしれません。
自作のベルトで仮面ライダーθに変身して最終決戦を挑んでくる社長、とか妄想が広がります。


◇影山冴子
正直当初、中盤ぐらいでぽくっとリタイアするとばかり思っていたら、あれよあれよと生き残り、最後あんな事になってしまって一番ビックリしたキャラクター(笑)
冴子さんといえばとにかく、負けたと思うまで私は負けないオリハルコン製主人公メンタルですが、一つ二つポイントを与えて生かしておくと、キャラクターって“化ける”なぁ……と唸らされました。
主人公メンタル×ちょっとダメな年下の男の子が好きな悪女、という組み合わせも凄かったですが(^^;
エビオルフェノクは登場当初を除くと概ね時間稼ぎの障害物程度の扱いなのですが、冴子自身はオルフェノクサイドのキャラヒエラルキーのほぼ頂点に君臨し、途中で変にひっくり返さないで、最後までそのまま、というのも良かったです。
その分、琢磨が物凄い勢いで急斜面を顔面で直滑降していましたが、琢磨なので仕方がない。
バトル的には、エビも多少はパワーアップぐらいしても良かったような、とは思いましたが、そこまでやっている余裕はなかったか。
意外性が、面白いキャラクターでした。