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『激走戦隊カーレンジャー』感想10

◆第15話「悪まで仮免恋愛中!」◆ (監督:田崎竜太 脚本:荒川稔久
ウェディングドレス姿で結婚式の夢を見るゾンネット……白いタキシードに身を包んだ相手の男の顔が明確になるとレッドレーサーというのは、なかなか衝撃の絵(笑)
グラッチが神父役なのもおかしいといえば実におかしいのですが、前回出番がなかったのでここに入れた感じか。
(これってなに……? なんなの?)
繰り返しレッドレーサーの夢を見る自分の感情の正体がわからないゾンネットは、それを確かめるべく、パワフルダンサー製造機によって足の筋肉が超パワーアップしたGと共に地球へ。芋羊羹を購入中に、胸の切ない気持ちが「きゅん」と書かれた小枕として具現化したゾンネットは、本屋で読んだ少女マンガで恋について学び、レッドレーサーへのアタックを決意する。
レッドレーサーの顔が、
「涼しい目……ニヒルな顎……凜々しい眉……はぁ〜……レッドレーサー様」
に見えるという、変身ヒーローの根本設定から、宇宙的感覚の違いを世界観の表現とギャグの両面に用いてくる流れが巧み。
ゾンネットはGにパワフルダンスで地震を起こさせてカーレンジャーを誘い出すと、Gが4人を抑えている間に、レッドレーサーにダイレクトラブアタック
「宇宙に芽生えた恋の花、咲かせてみせます、この愛で! ね、レッドーレーサー様?」
「どういう事?」
てっきり「アタック」を勘違いして後頭部を鈍器で打撃、とかの路線かと思っていたら、強制お姫様だっこからラブレターを渡すという、思ったより真っ当な行動でした(笑)
渡された手紙に困惑するレッドレーサーだが、吹っ飛ばされたGに巻き込まれて遠くまで転がって変身解除。苛立ちに任せて手紙を破り捨てようとするが、そこにゾンネットが追いかけてくる。
「お待ち、一般市民。愛しのレッドレーサー様への手紙、返さないと、酷いわよ!」
「愛しのレッドレーサー様?!」
ゾンネットビームの直撃を受けた恭介即死、かと思われましたが軽く痺れただけで終わり、意外と殺意の薄いゾンネットは、チーキュを花火にしたらそこに生きるものが死滅する、という想像力が働かないタイプの悪である模様。
ゾンネットにとってはレッドレーサーと陣内恭介は別人であるという認識の元、何やらこんがらがった状況に陥るが、4人が合流してゾンネットとGは一時撤収。憧れの仮面のヒーロー/ヒロインの正体が、実は冴えない(いけすかない)あの人、というネタは古今に多数の例がある定番ですが、“レッドレーサーはレッドレーサーである(中の人なんていない)”という宇宙的認識が、今作としての味付けになっています。
5人は手紙の内容がラブレターである事を確認し、
朗読して笑い飛ばすダップ(最低)、他人事を面白がって囃し立てる実、罠ではと疑う土門、ボーゾックと付き合えるわけがないと頭ごなしに否定する恭介、の男性陣に対し、洋子は断るならヒーローと悪ではなく男と女として真剣に断れと怒り、菜摘は「恭介、このラブレターけっこう真剣だよ」と読み解き、同じ女として相手の気持ちを汲む女性陣、とそれぞれの反応の差が描かれ……つまり現行戦隊の『キュウレンジャー』に欲しいのはこういう要素なのです!
その上で、
「もしかしたらゾンネット、心を入れ替えようとしているのかもよ」
と、菜摘の解釈の後半は的中しているわけでもない、一方的な思い込みで簡単に理解し合えるわけではない、となっているのが上手い所。
「どうすりゃいいんだよ……」
手紙を握り、悩める恭介。
(罠かもしれないよな。でも、もしゾンネットが純粋な心を取り戻そうとしているとしたら……)
ちかちかと左右に瞬くウィンカーを見つめ、
「……わかんねぇな」
と、恋愛という非常に私的な要素に対してヒーロー思考で悪即斬しかけた恭介がブレーキをかけ、人間として向き合おうとするというのは、純粋正義のヒーローになりかけていた陣内恭介というキャラクター自体にブレーキがかかり、奥行きが出て非常に良かったです。
チーキュの少女マンガで地球の恋愛について学習を続けるゾンネットは、巨大Gに相合い傘で巨大な名前を書かせ、出撃するサイレンダー。登場3回目にしてサイレンダーはGの足技に苦戦し、駆けつけたRVロボから外に降りたレッドはゾンネットと向かい合う。
「二人っきりになれるおまじない、ばっちり効いちゃった」
きゅん小枕をプレゼントに贈り、レッドに交際を申し込んでくるゾンネット。
「お付き合いしてほしいの。いいでしょ?」
「だーめだってそんな事言っても……」
しょせん二人は正義と悪、ヒーローとしてあくまで男女交際をお断りする赤だが、ゾンネットは正義と悪の垣根を超えて、愛情をアピール。
カーレンジャーが人手不足なら、ワンパー何人か子分にしてもいいから! だから、ね?」
……これはもしかして、政略結婚による和平が成立するのでは。
「もう、いい加減にしてくれよ!」
だがカーレンジャーは、武力衝突を辞さない!
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「ちょっとだけ、目をつぶっててくれ」
(もしかして、いきなりキスされちゃったら、どうしよう)
乙女妄想を昂ぶらせるゾンネットに対し、変身を解除した恭介は、恥ずかしがり屋のレッドレーサーからの伝言として、改めて交際をお断り。
「どうして?」
「住む世界が違うから、ってそう言ってた」
まあ、正義とか悪とか以上に侵略宇宙人と地球人の間の溝は深く、真っ当な対応を取った恭介は多少の罪悪感を覚えながらも背を向けて歩み去るが、その手の中できゅん小枕が消滅して光の粒子がゾンネットの中に戻っていき、落ち込むゾンネットが涙を流す姿を目にしてしまう。
ゾンネットの恋愛感情が突然具現化したきゅん小枕は最初どうしたものかと思ったのですが、失恋が具体的な形で目に見える事で割と堅物の恭介でもそれに明確に気付き、他人の心を傷つけた事に対して恭介も傷つく、という小道具の使い方としては悪くない着地に。
恭介は物陰で再びレッドレーサーに変身すると、
(友達から、始めたっていいよな……。そうだ、友達から始めればいいんだ、友達から)
とゾンネットの元へと駆けていくが、恋破れたゾンネットの姿はそこになく、Gに地球攻撃を指示。荒ぶるGだがエネルギー切れで小型に戻ってしまい、ゾンネットと共に宇宙へ帰還する。
「レッドレーサーの馬鹿、馬鹿ーーー!!」
ゾンネットの叫びは宇宙に木霊し、恭介はなんだか複雑な思いで海を見つめて黄昏れてしまうのであった……で、つづく。
敵味方の恋愛に、鉄仮面騎士様の正体は……?!という定番要素をベースにしつつ、ゾンネットから見るとカーレンジャーはああいう姿の宇宙人、というギャグで『カーレン』世界らしく味付け。そこに更に、善とか悪とかではなく、お互い人間として誠実に向き合うべきだと言われたにも関わらず、レッドレーサーとしてではなく恭介の姿で間接的に断る、というズルをした恭介が、その事で相手の真の誠実さを知り、自身の不明を恥じると共に心に引っかかりを得る、という所まで詰め込んできたのはお見事。
また、恭介とゾンネットだけでなく、何を命じられてもゾンネットにひたすら忠実に尽くす姿でGにまで愛嬌を付加し、得意のラブコメネタで、荒川さんがキャラクターを肉付けする手腕を鮮やかに発揮。……どうも、市太郎をどう使えばいいのかは、若干困っている感じですが(^^;
次回――悪のコンサルタント登場! 「黄色信号でも、走ればOKよ!」「おりゃ! 駄目駄目!」。