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『激走戦隊カーレンジャー』感想15

◆第22話「悲劇の交通ルール体質」◆ (監督:坂本太郎 脚本:浦沢義雄
最近少し気になっているのですが……実、少し痩せた??
太めキャラのアイデンティティが問われる中、スイカを皮から丸ごと食べてダップがダウン……て、前回ラストの八百屋からのプレゼントが拾われた?!
割と存在感薄めなものの、一応カーレンジャーの司令兼マスコットポジションが戦線離脱する一方、ボーゾックでは最近、構成員の相次ぐ足抜けが問題になっていた。
「家業を継ぐため田舎に帰る」という理由で離脱者が出るのが凄いですが、その理由が認められる悪の組織なのがまた凄い(笑)
悪のコンサルタントを雇うぐらいなので社会悪という認識はあるようですが、あくまでも宇宙の暴走族である、というアイデンティティが貫かれており、その緩さと活動目的のギャップのズレから生じる怖さが、想像力に欠けた悪役として、独特の味付けになっています。
この問題の解決案として、ボーゾックの養殖を閃く副長ゼルモダ。
どうせなら頭脳優秀なボーゾックが良いと総長の妄想は膨らみ……ビニールハウス内部のプランターに世界各国の子供達が並んで植えられ、頭から水をかけるとその顔がボーゾックのマスクに変貌していく、というのが画面構成はギャグな一方、状況は極めて残虐非道。
「ばっちぐー! 大量生産成功!」
軽いノリのまま地球人の子供を作物感覚で品種改造してしまう姿には、ボーゾックの邪悪さが、強烈に滲み出ています。
頭がいいといえば日本の子供だ、と教授が口をはさみ、昆虫採集をやらせたらボーゾック一のCCチャッコーが子供をさらいに地球へと向かう。
今回の怪人がまた、麦わら帽子の下に虫カゴと潰れたスイカを組み合わせたような顔をしていて、胸部は昆虫の標本箱、暴走族なのに手にしているのが虫取り網、というのが狂気丸出しで実に怖いデザイン。
その頃、地球――
「誰も通らない……」
公園で立ち尽くすシグナルマンが蚊にくわれていた所、塾から逃げようとする市太郎に助けを求められていた。だがシグナルマンも夏休みに塾に通っていた過去を持ち、むしろ子供は夏休みも真面目に勉強するべきだと市太郎を捕縛。
「いやいやいやいや、いや、どーもすいません」
「お父さん、このお子さんは本官が責任を持って、塾に行かせます」
そして市太郎を追いかけてきた社長と、物凄くナチュラルに接触、更に意気投合(笑)
塾で交通ルールを熱心に学ぶ小学生時代のシグナルマンの姿など、2週続いた販促展開を抜けて浦沢先生の肩が軽くなったのか、解き放たれた獣のごときナンセンスな展開の連発に坂本監督の演出も噛み合って、今回はキレキレ。
ところが市太郎の通う塾にCCチャッコーが乱入し、養殖計画のサンプルとして市太郎が捕まってしまう。これを目撃して駆け寄ろうとした恭介だが、赤信号、更にそこを通りすがったシグナルマンが立ちはだかる。
「一般市民、赤信号だぞ。信号無視で逮捕する!」
「市太郎はどうなる!!」
知り合った地球の少年が今まさに目の前でさらわれようとしているという事態に動揺しつつも、交通ルールを守らずにはいられないシグナルマン。
(違反者を、倒せ……交通違反者を倒せ……。邪悪な信号無視を許すのか。完全破壊しろ。部品一個この世に存在させるな)
……じゃなかった、
(本官は、心では市太郎くんの事を心配しているが、子供の頃から、夏休みも塾に通って交通ルールを勉強したこの体が、赤信号で渡る事を許せないのだ。渡らせたいが、渡らす事ができないのだぁ!)
これ自体がギャグなのですが、悪を前にしても法に縛られる本官の苦悩は、悪を倒す為なら時に超法規的手段をいとわないヒーロー像を裏返して皮肉っているともいえ、ヒーロー物に対するメタなブラックジョークとしても機能。
そこでルールを突破するブレイクスルーがフィクションのヒーローの役割の一つではあるのですが、本格の四角四面な対応は、民間ヒーローであるカーレンジャーと官憲ヒーローであるシグナルマンとの対比にもなっていて、虚構として二つの正義をぶつけつつ、現実の風刺も匂わせているというのが、手の込んだ構造です。
信号が青に変わり、2人は怪人を追いかけるがゼルモダの妨害が入って逃げられてしまう。恭介は本官に怒りをぶつけ、妙に盛り上がるBGMで激しく落ち込むシグナルマン。
「夏休みに塾に通って勉強しすぎたばかりに……本官は……融通の効かない体になって、市太郎くんを助ける事が出来なかった……!」
「子供にとって夏休みは遊ぶ為にあるんだ! 夏休みまで塾に行って勉強しすぎるから、こんな体になっちまうんだよぉ!!」
同じ言い回しを執拗に繰り返す、というのは今作の定番ギャグですが、繰り返す箇所が箇所だけに、なんだか凄い事になってきました(笑) 時に世相を抉りすぎる風刺ネタは浦沢先生の十八番ですが、今作ここまでで一番笑ったかも。
……それにしても、夏休みの塾で交通ルールを教え込み、法に逆らえない体にされてしまうシグナルマンの母星はとんだディストピアなのでは。シグナルマンが極端な例だと思いたい。
「本官は、自分自身が情けない……」
シグナルマンは自分の頭をぽかぽかと殴り続け、止めに入った恭介を振り払って大暴走。
「本官が、馬鹿だったぁ……!」
連続頭突きで、公園の木を折る(笑)
「夏休みに、塾に通って、勉強しなければ良かったぁ……」
更に、自分を責めながら寺の鐘の中でも連続頭突き。
ややしつこめのギャグなのですが、シグナルマンに対して本気で怒っている恭介が、それでも見るに見かねてシグナルマンを止めようとこれに付き合っており、恭介の人の好さを表すシーンにもなっているのが良い所。
「本官は、大馬鹿者だった……!」
とにかく頑丈なシグナルマンは頭突きを繰り返して順調に始末書の枚数を増やしていくが、たまたま突き破った壁の向こうにボーゾックのアジトを発見。
「一般市民は危険だ。ここからは本官に任せなさい。なんとしてでも、市太郎くんを助けてみせる!」
中では、鉢植えから頭だけ出した市太郎ら誘拐された3人の子供達が、じょうろで養殖ボーゾック液をかけられてボーゾックに変貌しつつあり、生命の尊厳を容赦なく踏みつけにするこの作戦、実に外道です。
バイクで勇躍乗り込んだシグナルマンだが、どうやらシグナルマン対策を練っていたらしいゼルモダにより、交通ルールを守らずにはいられない体質を利用され、次々と設置される道路標識の指示に従ってしまう。
「は?! 直進禁止! 一方通行! お、高さ制限1.2m。ん? Uターン禁止! 行くしかない。お、横断歩道。歩行者あり」
アジトの外へ誘導されて罠にはまるまでの一連の流れが極めて滑らかに進行し、テンポが良いかつキャラクターと繋げた今作の個性が強く出て、非常に面白いシーンでした。
「やはり、体がどうしても交通ルールを守ってしまって、ボーゾックと戦えない! うーん…………! 本官も夏休みにはもー少し遊んでおけば良かったぁ……」
虫ピンで標本にされそうになる本官だが、恭介の連絡によりカーレンジャーが揃って到着し、救出。6人はワンパーを蹴散らし、巨大化した怪人はサイレンダーによって鮮やかに撃破される。しかし……アジトの中で6人が目にしたのは、半ボーゾック化した3人の子供達だった。対応に迷う5人だが、進み出たシグナルマンが子供達へと銃を向ける。
「今必要なのはルールではなく、勇気と決断なのだ!」
つまり、「今楽にしてやる」
たとえ半分といえどボーゾックは消毒……かと思われましたが、シグナルマンが植木鉢を破壊すると無事に元に戻る子供達。
交通ルールを守らずにはいられない体質により陥った本官のピンチはカーレンジャーに救われ、本官は何も乗り越えていないような……と思ったら本官の決断力が子供達を救うのですが、植木鉢を撃つ/撃たないは本官の体質とは全く関係ないので、法に縛られたシグナルマンの変化にテーマ性を見るならば、完全に論点のズレた着地(^^;
なのですが、とりあえず怪しいマシンは撃ってみる、というのをヒーロー物の定番だと考えると、「勇気と決断」を根拠にとりあえず撃ってみる、という姿をもってメタなブラックジョークは成立しているというのが、なんとも複雑な構造です。
『カーレン』的には、むしろ後者の方が重視されていそう。
「あ、シグナルマン! シグナルマン!」
「はははは、夏休みは思い切り遊ぼう!」
「うん!」
事件を通して本官と市太郎が仲良くなり、ペガサスの一般市民達ともやや距離が接近。ここまで日常キャラ以上の存在感は出せず、物語のスパイスとしてはあまり効いていなかった市太郎が思わぬ形で絡んできて、今後本官と一般市民達のやり取りも増えるようなら、どう転がっていくか楽しみです。
一方、クルマジックの使徒は森に隠れて蚊帳の外のままなのであった……。
次回――「自転車に乗るときは、ブレーキのききを確認しましょうね!」。