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初秋の似鳥鶏祭

◇『家庭用事件』

家庭用事件 (創元推理文庫)

家庭用事件 (創元推理文庫)


 「壁男事件」のしばらく前――映研とパソ研による柳瀬さん争奪戦に巻き込まれる事になった葉山くん、など葉山くんが1年生の秋〜3年生の冬にかけて遭遇した5つの事件を描く短編集。
いやこれが素晴らしかった!
何が素晴らしかったのか書いてしまうとネタバレになるので書けないのですが、これまで幾つかの物語の中で少しずつ匂わされていた葉山くんの○○○○が、てっきり○○○なネタだと思っていたら実は劇中でしっかりと理由づけされていて物語の核心に繋がる、という仕掛けがお見事でした。
個人的に気になる部分だったというのもありますが、ストンと腑に落ちた時の快感が実に、良いミステリでした。
あるキャラにスポットが当たる分、柳瀬さんの出番が少なかったのはちょっと不満でしたがどういう事なんだ葉山くん(濡れ衣)。
まあ今作の劇中における時間の流れを考えると次巻が柳瀬さん中心になりそうなので、その辺りのバランスがあったのかとも思われますが。


◇『ダチョウは軽車両に該当します』

 同僚の出走する市民マラソンの応援に行った桃本たち楓ヶ岡動物園の面々は、コースに乱入してきた駝鳥に遭遇し、これをとっ捕まえる羽目に。その映像がインターネットで拡散した事から、“駝鳥を取り押さえた美人獣医”として一部で人気となる鴇先生の周囲に怪しい影が出没、巻き込まれた桃本は事件の謎を追って鴇先生の昔の職場を訪れる事に……。
◇『迷いアルパカ拾いました』

 ある日の退勤時、楓ヶ岡動物園の通用口で迷子のアルパカと遭遇する桃本と七森さん。鴇先生と服部くんの協力もあって何とかアルパカの捕獲に成功するが、家畜として一頭あたり数百万の価値を持つアルパカの所有者が、何故か名乗り出てこない。そんな折、七森さんの友人が失踪し、アパートを調べに向かった桃本達はまたも事件の渦中に入り込む事に。
◇『モモンガの件はお任せを』

 新奇恐怖症を見せる散歩中の犬、密室から消えた猫、突然飛来したモモンガ、山村に潜む謎の怪物……楓ヶ岡動物園の飼育員達が出会う動物がらみの4つの事件を描いた、連作短編集。
<楓ヶ岡動物園>シリーズ、2〜4。それなりに面白いものの<市立高校>シリーズと比べると若干ツボから外れているのですが、今作のコンセプトと思われる“大人の探偵団”というのが、もう一つピンと来ないのかなぁと。特に『アルパカ』は、事件への関わり方がいくらなんでも強引に感じて引っかかったのですが、作者も少し気になったのか、それが終盤のある仕掛けに関わってくる、というのは巧い所。
この中では、雑誌掲載の短編二つに、書き下ろし短編二つを加えて連作の形にした、『モモンガ』が一番面白かったです。
実はシリーズ第一作『午後からはワニ日和』は短編集だと思って読み始めたのですが、短編の方が相性が良さそうな設定だと思っていたので、短編が面白かったのは収穫。
話が進むほどにハードボイルドが増していく鴇先生、話が進むほどに変態が増していく服部くんに比べて、話が進むほどに折り紙マイスターになっていく七森さんが形勢不利なので、次巻辺りで反転攻勢を見たい所です。


◇『彼女の色に届くまで』
彼女の色に届くまで

彼女の色に届くまで


 画家を目指す高校生・緑川礼は、美術室に掛けられていた絵に落書きをしたとあらぬ疑いをかけられていた所を、無口な美少女・千坂桜に助けられる。明晰な頭脳で事件の真犯人を炙り出した千坂は、抜群のデッサン力を持つにも関わらず、静物画のスケッチすら初めてだという。そんな千坂に絵の基本を手ほどきする内に、あっという間に彼女は驚くべき才能を開花させ……持てる者と持たざる者の間で夢に向かって足掻く少年と、天賦の才を持った少女が織りなす、美術ミステリー。
この作者の好きな所として、語り手と探偵役の周囲のキャラクターが魅力的、というのがあるのですが、今作では、主人公の親友である筋肉の使徒・風戸が、非常に良い味。特に今作の場合、主人公の性格に若干の難があるので、作中の好感要素を一手に引き受けています(笑)
なかなか面白かったのですが、もう一歩進んでも良かったかなぁというか、主人公が色々不安というか、色々不安な所まで込みの物語だろうな、という所で何やら色々と悩ましい読後感だったり。