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『激走戦隊カーレンジャー』感想35

◆第44話「不屈のチキチキ激走チェイス!」◆ (監督:竹本昇 脚本:曽田博久)
竹本監督デビュー作。
恭介達とダップの絆が育んできた夢の力により、カーレンジャーが大逆転勝利を収めた事で地球は無事にお正月を迎え……宇宙でもいまだ緊迫感にかけるボーゾックが、ダラダラと飲み正月を過ごしていた。
「たわけもの! いついかなる時も、宇宙暴走族は宇宙暴走族らしく、荒々しく走り回るものだ」
……意図的に対比した台詞ではあるのでしょうが、エグゾスとVRVマスターって、生き別れの兄弟なのでは(笑) 何やらハザード星人に対して個人的な執着があるようですし、正義の星座伝説に選ばれなかった事で戦士失格の烙印を押されてハザード星を追放された、「兄よりすぐれた弟なぞ存在しねえ!!」みたいな人なのでは。
そう考えると、抑圧された少年時代の反動で、素っ頓狂なロマン主義に傾倒してしまった事にも頷けます。
怒れるエグゾスに対して、昨年の激闘で手持ちの車が全て故障中と説明……て、グラッチ生きてたーーー?!
てっきり、クリスマス決戦だし幹部の1人ぐらい始末しておくか、というノリでRVロボにダイレクトデリートされたかと思っていたグラッチですが、凄く普通に生存していました(笑)
負ける事に慣れすぎてしまい、楽しい暴走集団に堕落しつつあるボーゾックへエグゾスは、遠い昔チーキュに流れ着いたという噂がある、大宇宙の悪の伝説のスパナを探せと指示。
「97年型ニューモデル、エグゾスターをレンタカーしてやる!」
……活動資金源として自動車会社も経営しているのか(笑)
その頃地球では、ブラブラ散歩していた恭介達が、妻子を乗せてドライブしていた本官がエンストで困っている場面に遭遇し、菜摘が鮮やかに修理。5人がシグエ(妻)とシグタロウ(長男)と初顔合わせするのですが、シグエの、シグナルランプを某超有名マンガ主人公を思わせるシルエットにあしらった姿は、今作における地味に会心のデザインだと思います(笑)
「ところで菜摘……もしかして、いっつもそのスパナ持ち歩いてんの?」
洋子、今更ながら、友人の性癖に若干引く。
「うん。このスパナは……」
ところがその時、エグゾスター’97で飛び込んできたボーゾック1のメカニック、MMシューリスキーにより、菜摘のスパナが奪い取られてしまう。菜摘愛用のスパナの正体はなんと、大宇宙の悪の伝説のスパナだったのだ!
スパナはシューリスキーの手に渡ると、巨大でおどろおどろしい外見の悪のスパナの本性を発揮し、追跡してきたイエローの車を瞬間タイヤ外しでクラッシュさせる。
カーレンジャーは、ペガサスサンダー(赤・桃)、ドラゴンクルーザー(青・緑・黄)に分乗して怪人を追い、怪人はスパナの力による瞬間改造で後方へ向けて次々と、排気ガス、バズーカ、ノコギリの刃を飛ばす、という、サブタイトル通りのチキチキ猛レースで、久々のカーチェイスアクション。
ペガサス車は空を飛ぶというズルでノコギリを回避するが、直撃を受けたドラゴン車が大きな損傷を受けてリタイア。しかし追撃するペガサス車もミサイルの直撃で飛行能力を失ってしまった所に、増援のゼルモダに挟み込まれて、追いかける身から追われる身に逆転してしまう大ピンチに。
「あれは、私にとって、大切な、思い出のスパナなのよ……」
菜摘がいつも持ち歩いていたスパナ、それは小学生の頃、機械いじりに興味を持つようになり近所の修理工場に通っていた際に、工場長の老人からメカニックの心得と共に貰ったものであった。
「元は、宇宙の悪のスパナなのかもしれないけど、私にとっては、大切な宝物なの。お守りでもあるの」
土門と実にクラッシュしたドラゴン車の修理を頼まれるものの、お守りを失った菜摘は自信も一緒に喪失し、手が止まってしまう。
「あれは、もともと宇宙の悪の伝説のスパナ……あれには、何か特別な力があったのよ。そのお陰であたしも、メカニックが務まっていたのよ。あたし自身には、なんの力も無かったんだわ!」
これまで菜摘が幾度となく見せてきた常人離れしたメカニックとしての能力は、マジックアイテムのお陰だったの? というエクスキューズ的なエピソードと見せておいて、菜摘自身からそれに言及させる事で、それは問題の本質ではなく、乗り越えるべき課題である、としてきた流れは秀逸。
一方、挟み撃ちで絶対絶命に陥っていた赤桃だがその時……!
「正義の交通ルールを守りましょう!」
「父ちゃん頑張って!」
「任せろ!」
妻子を乗せたままのシグナルマンが駆けつけると、息子の声援を受けながら、片手で車を操り片手で銃撃するという離れ業で、ゼルモダをワンショットバーストする、熱い見せ場。
「そんな、たった一発でぇ!」
最近忘れていたけど、そもそも射撃の達人なのでした。
“ダップとカーレンジャー”のエピソードにおいては外部の人間になってしまうが(内側に取り込もうと思うとまた劇構造を変えないとならないので)、かといって絶体絶命のピンチにまるっきり出てこないのは都合が良すぎる、という事でここ数話、雑な扱いが続いていたシグナルマンだけに、妻子の前で活躍する――単身赴任のお父さんが、昼間のパパの格好良さを見せる――というのは、凄く良かったです。
その後、調子に乗りすぎて、ミサイルをかわすもクラッシュしてしまったのは、ご愛敬(^^;
「ごくたまにこういう事もある」
余談になりますが、次作『メガレンジャー』におけるメガシルバーの、社会的立場の違いから完全に問題は共有できないが、より身内に近い存在、というポジションは今作のシグナルマンを踏まえて、シグナルマンで出来なかった事をやろうという意図もあったのかな、と思う所。
その頃、土門と実の励ましを受けるも菜摘は修理に取りかかる事が出来ず、青緑はとにかく徒歩(カート?)で救援へ向かう事に。土門も実も文句1つ言わずに菜摘を信じてドラゴンカーを任せていくのが、カーレンジャーらしいところ(菜摘の報復が怖いから、とか言わない)。
レンチを握りしめたまま立ち尽くす菜摘だが……その時、損傷しながらも自力でゆっくりと動き出すドラゴンカー。
「こんなに傷ついているのに……まだ動こうとしてる。みんなを、助けに行くために」
正直、ペガサスサンダーとドラゴンクルーザーは物語の中で収まりが悪かったのですが、ドラゴンカー自身の動き、「車は車だろ?」と放置していかないカーレンジャーの姿を合わせて描く事で、ドラゴンカーはあくまで“意志を持った仲間”である事を改めて強調。
ドラゴンクルーザーの姿に、「メカニックは車の気持ちをわかってあげなくてはいけない」という老メカニックの言葉を思い出した菜摘は、自分に出来る事を見つめ直して立ち上がる。
「お爺ちゃん……あたし頑張るよ。あのスパナがなくたって」
一方、相棒のペガサスサンダーは奮戦むなしくエグゾスターに追い詰められ、とうとう車外に投げ出されてしまう赤桃。青緑も参戦するが4人まとめて車に轢かれ、今回も危うし交通安全。しかしそこへ修理完了したドラゴンクルーザーが駆けつけ、勢いに乗る菜摘は、挿入歌をバックにそのまま生身で戦闘へ突入。
並走に持ち込むと変身したイエローは車上バトルでスパナを華麗に回収し、トドメはナビックガン。悪の手を離れたスパナは元のなんの変哲も無い姿に戻り、巨大化したシューリスキーは、Vツイスターで瞬殺されるのであった。
「お爺ちゃん……これからもあたし、頑張るからね」
で清々しくオチ。
最終章を前に原点回帰のカーアクションを軸に据え、伝説の二台の車を改めて“カーレンジャーの仲間”として描き直す、車を中心としたエピソード。ここに来て、劇中要素を丁寧に拾っていく今作ですが、性格からするとこの辺りは、高寺さんのオーダーでしょうか。
上述したように赤青車に関する積み重ねは正直足りていないのですが、意志が有るか無いかと関係なく車と向き合おうとする菜摘が壁にぶつかった時、具体化した意志を目にする事でそれを乗り越える、という構造によって補強。
つまり、無機物を意識ある者として扱うキャラクターに対して、無機物が意識めいたもので応える、という定番の「奇跡」でキャラクターの前進を描きつつ、その「奇跡」は「今作世界のルールでは奇跡ではない」ので、その正体はあくまで関係性の積み重ねが生んだ力なのだ……と2話続けて、ややこしい。
ところでナビガンは、なぜか登場当初よりも、しばらく間を置いてシグナルマン帰還後の方が頻繁に使われるのですが、上の方からちゃんと出せ、と怒られでもしたのでしょーか(笑) その分、ギガブースターが目立ちませんが(^^; ギガブースターは、合体武器としてはかなり不遇な扱いの気がしてなりません。
なお曽田さんは、2017年現在、これが東映戦隊ラスト脚本との事。個人的にここ数年で大きく評価の変わった脚本家ですが、今作を視聴した事で、東映における90年代ラストの曽田さんの仕事を見られたのは、非常に嬉しかったです。
「ZZゼリの、怒りのジャケット作戦も、惜しくもしっぱーい。甚だ遺憾でしたので、今週は逆に、服を脱がせる作戦を、ぶちかましたいと思います」
は大変素晴らしかったです(笑)
東映特撮Youtube、そろそろ『科学戦隊ダイナマン』の配信が近づいているかと思いますが、80年代曽田戦隊の名作なので、お薦め。
次回――陣内恭介は男を見せられるのか?!「夜自転車に乗る時は必ずライトをつけよう」。