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ざっくり読書メモ

溜め込んでしまったので、ざくっと。
◇『ルカの方舟』(伊与原新) A−
火星由来の隕石に生命の痕跡を発見した――世界的に注目を浴びる論文に対して、不正を告発するメールが大学当局に届けられた直後、研究を主導していた教授が死亡、更に問題の核となる隕石が変わり果てた姿で発見される……果たして不正はあったのか? 隕石は何の為に破壊されたのか? 密告メールに書かれた『聖ルカの方舟』とは何を意味するのか?
教授の独裁、実験データの捏造、それを招く成果第一主義……など大学の研究室の抱える問題を背景に、論文不正の問題と隕石の謎を並行して追いつつ、生命の起源に想いを馳せるという、豊富な学識をベースにミステリと宇宙ロマンを融合させ、面白かったです。今回の出物。
◇『プチ・プロフェスール』(〃) B
留学資金の為、資産家の令嬢・馬淵理緒の家庭教師を務める事になった大学院生の律。人付き合いが得意とは言えず、研究以外の趣味といえば自宅で育てている食虫植物の世話ぐらいな律だったが、『不思議の国のトムキンス』を愛読し、好奇心旺盛でリケジョに憧れる理緒のペースに巻き込まれている内に、幽霊騒ぎや盗聴事件に巻き込まれ……という連作短編集。
いわゆる“日常の謎”系ミステリを土台に、研究一筋の大学院生とおしゃまな小学生の交流を縦糸、律と理緒付きの運転手である恵人との関係をアクセントとしてまぶし、ぼちぼちの出来。
ハンダゴテは「カガクとテクノロジーのショーチョーです! これさえあれば、ムテキなのです!」。
◇『博物館のファントム』(〃) B
生き物よりもデータに興味のある新人館員を語り手、古い収蔵庫に住み込んでいる変わり者の自称“博物学者”を探偵役に、博物館を舞台にした蘊蓄系ミステリ。事件の真相に蘊蓄で辿り着くのが軸なので、鮮やかな謎解きや驚きの真相といった要素は薄かったですが、蘊蓄の語り口が頭でっかちではなしに物語と融合しており、ぼちぼちの出来。
◇『蝶が舞ったら、謎のち晴れ 気象予報士・蝶子の推理』(〃) B−
デイトレを副業にする駄目な探偵を語り手、天気予報の嫌いな美人気象予報士を探偵役にした短編集。非職業探偵が専業の知識をベースに謎解きをするフォーマットで、気象という変化球以外は、可も無く不可もない出来。探偵があまりに駄目人間すぎて、ちょっと辛い(笑)
どさどさっと読んだ伊与原新、事件の謎を解いてそこで終わり、ではなく、1話1話を物語として綺麗に着地させよう、という作風は好印象。残念なのは、語り手だったり探偵役だったりでしっかり出番はあるのに、女性キャラクターがもう一つ魅力的でないというか、ツボに入ってこない事(^^; 惜しい。
◇『バベル九朔』(万城目学 B−
亡き祖父が建てた雑居ビルの管理人をしながら小説家を目指す青年が、ビル荒らしをきっかけに幻想的な事件へ巻き込まれていく……現実が悪夢のように足下から崩れ去っていく中盤の展開は面白かったものの、終盤今ひとつ。アレが切り札になったのは面白かったですが、結局アレになる、というところをあまり面白く感じず。
◇『偉大なる、しゅららぼん』(〃) B+
琵琶湖畔に住まう、特殊な能力を持った一族・日出家の一員である涼介は、15歳になった事で本家に住み込みで修業を始める事になる。入学早々、本家の御曹司・淡十郎に振り回され、日出家にとって因縁の間柄である棗家の同級生には殴り飛ばされ、やっと師匠が決まったと思ったら思いがけない事件が勃発し……?!
作者の強みである素っ頓狂な設定に読者を放り込んでの見せ方は冴え、癖の強い登場人物達に、嫌な感じになりそうな寸前で愛嬌を与える手腕も上手く、なかなか面白かったです。個人的な好みとしては、主人公にもう少し見せ場が欲しかったですが。
◇『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』(高殿円 B−
2012年を舞台に、ホームズ、ワトソン、デストレード、など主要登場人物を全て女性に変えて描かれるホームズものパスティーシュ。女性作家による女性ならではの女性ホームズ、という点が強調されており、男性作家には書きにくい要素が軸になっているのが特徴。
◇『汎虚学研究会』(竹本健治 C+
初めての竹本健治。短編集。今作に関していうと、苦手な方向性でした。
◇『黒野葉月は鳥籠で眠らない』(織守きょうや) B
若手弁護士を主人公に、事件に関わる人々の思い、時にそれに傷つきながらも誠実に向き合っていこうとする主人公の姿を描く短編集。ミステリとして見ると謎が弱いですが、誠実な主人公の姿を丁寧に描いていく作風は好印象。青年マンガ的。全4編、通しテーマがあるのは、一冊の小説として見た時にまとまり良かったです。
◇『火星の人』(アンディ・ウィアー) A
NASAの火星調査ミッションが緊急事態で中断され、そのさなかに不慮の事故で死亡したと思われた宇宙飛行士が、たった独りで火星に置き去りにされてしまう。地球に帰る手段も、通信手段もなく、火星に取り残された宇宙飛行士は、4年後に次の調査船が来る時まで、生き延びる事を目指して動き出す……。
映画『オデッセイ』の原作小説で、映画も面白かったですが、小説も非常に面白かったです。
絶望的な状況に置かれながら、火星からの離陸に成功した仲間達に向ける、
「みんな、もしこれを読んでくれているとしたら――これはあなたたちのせいじゃない。あなたたちは、やるべきことをした。ぼくがあなたたちの立場だったら、おなじことをしたと思う。あなたたちを責める気はない。あなたたちが助かってくれてうれしいよ」
という態度が冒頭に明示されるのが、まずスッキリして読みやすいところ。
本文は基本的に、主人公の宇宙飛行士が残すミッションログという体裁の日記形式を取るのですが、地球への帰還はほぼ不可能という状況で、主人公が何故生き延びる事を諦めないか、そしてミッションログを残すのかというと、宇宙飛行士という職業が“未来”の為の仕事だから、というのが全編を貫いており、時に失敗したり愚痴ったりしながらも、とにかく出来る限り長く生存する為に行動を止めない、という主人公の前向きさにより、状況の深刻さの割には陽気かつユーモアたっぷりに展開。
「宇宙飛行士は本質的に頭がイカれているからな。そしてじつに気高い」
という、そんな小説。